物理層

STM(Synchronous Transport Module)とは?仕組みを徹底解説!

通信ネットワークの設計や運用を考える際、「STM(Synchronous Transport Module)」の役割や仕組みを正しく理解することは不可欠です。

しかし、「STMとは何か?」「IP/MPLSやWDMとどう違うのか?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

本記事では、STMの基本から最新の技術動向、導入時の課題、今後の展望までを分かりやすく解説します。

次世代ネットワークの設計に役立つ情報を網羅していますので、ぜひ最後までご覧ください!

外資系エンジニア

この記事は以下のような人におすすめ!

  • STMとは何か知りたい人
  • STPの仕組みや役割について知りたい人
  • SONETやPDHとの違いも簡単に比較して知りたい人

STMの基礎知識

1-1. STMとは何か

STM(Synchronous Transport Module)は、SDH(Synchronous Digital Hierarchy) の基本的な伝送モジュールの単位です。

デジタル通信ネットワークでは、大容量のデータを多重化し、高速に伝送するためのフレーム構造 を提供します。

1-1-1. STMの特徴

STMの主な特徴は以下のとおりです。

  • 同期伝送方式
    • SDHでは、すべてのデータが共通のクロックに同期して送信されるため、遅延のばらつきを抑えることができます。
  • 階層構造のフレーム
    • データは**STM-1、STM-4、STM-16…**といった階層的なフレームで管理され、必要に応じて帯域を拡張できます。
  • 高い信頼性とエラー管理機能
    • 伝送路の障害を迅速に検知し、自動的に迂回経路を設定する機能(APS: Automatic Protection Switching)を備えています。

1-2. SDH(Synchronous Digital Hierarchy)におけるSTMの役割

STMは、SDHにおけるデータ伝送の基本単位として機能します。

SDHは、光ファイバー通信において高品質な同期型デジタル伝送を実現するために設計された国際標準規格(ITU-T G.707)です。

1-2-1. SDHの階層構造

SDHの伝送階層は、STMを基盤として以下のように構成されています。

伝送速度SDHのレベルSTMのレベル
155.52 MbpsSTM-1基本ユニット
622.08 MbpsSTM-44倍の速度
2.488 GbpsSTM-1616倍の速度
9.953 GbpsSTM-6464倍の速度
39.813 GbpsSTM-256256倍の速度

このように、SDHではSTMを基本単位として、伝送速度を柔軟にスケールアップ できる仕組みになっています。

1-2-2. SDHにおけるSTMの役割

STMは、SDHネットワークにおいて以下の重要な役割を担います。

  • データの多重化
    • STMフレーム内で複数のデータストリームを統合し、一括して伝送する。
  • 同期伝送の実現
    • すべてのデータは統一されたクロック信号を基準に送られるため、精度の高い伝送が可能です。
  • 障害管理とネットワーク保護
    • 障害が発生した際には、バックアップ回線に自動で切り替える機能を持つ(1+1保護やリング保護など)。

1-3. STM-1からSTM-256までの各レベルの概要

SDHのネットワークでは、通信トラフィックの増加に対応するため、STMのレベルを上げることで帯域を拡張 できます。

1-3-1. 各STMレベルの詳細

以下に、各STMレベルの特徴をまとめます。

STMレベル伝送速度主な用途
STM-1155.52 Mbps基本ユニット、初期のSDHネットワーク
STM-4622.08 Mbps大容量データ伝送(ISPバックボーン)
STM-162.488 Gbps高速バックボーン、映像配信
STM-649.953 Gbps大規模ネットワーク、5G回線基盤
STM-25639.813 Gbps超高速データセンター接続

1-3-2. STMレベルの選択基準

  • 中小規模ネットワーク → STM-1 または STM-4
  • 都市圏ネットワークやISP → STM-16 または STM-64
  • 大規模クラウド/データセンター → STM-256

STM-256は、大規模なデータセンターや国際的なバックボーン回線などで採用されることが多く、光通信技術と組み合わせることで更に大容量の伝送が可能 になります。

STMの技術的詳細

2-1. STMフレーム構造の解説

STM(Synchronous Transport Module)は、SDH(Synchronous Digital Hierarchy) における基本的な伝送単位であり、規則的なフレーム構造 を持っています。

STMフレームは、データの正確な送受信を可能にし、同期通信を実現するために設計されています。

2-1-1. STMフレームの基本構造

STMのフレーム構造は、以下の2つの主要部分で構成されます。

  1. オーバーヘッド(Overhead, OH)
    • フレーム管理やエラー検出、同期制御を担う領域
  2. ペイロード(Payload)
    • 実際のデータが格納される領域

以下の表に、STMフレームの基本構成をまとめます。

フィールド役割
SOH(セクションオーバーヘッド)フレームの管理・同期制御を担当
POH(パスオーバーヘッド)転送データのエラーチェックと管理
ペイロード実際のデータが収容される部分

STMフレームは、規則的な9×270のバイトマトリクス(STM-1の場合) で構成されており、その中にオーバーヘッド情報とペイロードが配置されます。


2-2. セクションオーバーヘッド(SOH)とペイロードの構成

STMフレームにおいて、SOH(セクションオーバーヘッド) とペイロード は、それぞれ異なる役割を持ちます。

2-2-1. セクションオーバーヘッド(SOH)の役割

SOHは、STMフレームのネットワーク管理や制御情報 を格納する領域です。SOHはさらに2つのサブカテゴリーに分かれます。

  • RSOH(再生セクションオーバーヘッド)
    • 物理層レベルでのエラー検出やフレーム同期を担当。
  • MSOH(多重セクションオーバーヘッド)
    • 多重化されたSTMフレーム間のリンク管理やエラーチェックを担当。

2-2-2. ペイロードの構成

ペイロード(Payload)は、実際のデータが格納される部分 であり、バーチャルコンテナ(VC)という形式でデータが収められます。

ペイロードの中には、以下の要素が含まれます。

  • バーチャルコンテナ(VC)
    • 転送されるデータの基本ユニット
  • POH(パスオーバーヘッド)
    • 転送中のエラーチェックや管理情報

2-3. バーチャルコンテナ(VC)とパスオーバーヘッド(POH)の役割

SDHのフレーム構造では、データは単純に送信されるのではなく、バーチャルコンテナ(VC) という単位で管理されます。

さらに、データの品質を維持するために、パスオーバーヘッド(POH) という管理情報が付加されます。

2-3-1. バーチャルコンテナ(VC)とは?

バーチャルコンテナ(VC)は、ネットワーク上で柔軟にデータを多重化・分割して転送するための仕組みです。

これにより、SDHネットワークでは異なる種類のデータを同じSTMフレーム内で転送できます。

バーチャルコンテナには、以下の2つのレベルがあります。

  1. VC-4(STM-1のペイロード全体を占有)
  2. VC-12, VC-3(VC-4の中に格納される小さなユニット)

2-3-2. パスオーバーヘッド(POH)の役割

パスオーバーヘッド(POH)は、データ転送の際にエラーチェックやルーティング情報 を保持するための領域です。POHには以下のような情報が含まれます。

  • エラーチェックコード(BIP-8)
  • 経路管理情報
  • 同期信号

この仕組みにより、SDHでは高い信頼性を保った通信 を実現することができます。

STMの応用と実装例

3-1. 通信ネットワークにおけるSTMの活用事例

STM(Synchronous Transport Module)は、大容量のデータを安定的に伝送できる ため、さまざまな通信ネットワークで活用されています。

特に、通信事業者のバックボーンネットワーク やデータセンター間接続 など、高速かつ高信頼性が求められる環境で広く使用されています。

3-1-1. STMの活用が進む分野

STMが活用される主なネットワーク分野は以下のとおりです。

  • 通信キャリアのバックボーンネットワーク
    • SDHベースのSTMネットワークは、長距離通信を安定的に実現するための基盤技術として活用されている。
  • データセンター間の大容量接続
    • クラウドサービスの普及に伴い、STMはデータセンター間の高速通信にも利用されている。
  • 放送・映像伝送
    • STMは、高品質な映像信号のリアルタイム伝送にも適用されており、衛星通信や放送ネットワークで使用されることがある。
  • 金融機関の専用回線
    • 低遅延かつ高い信頼性を求める金融業界でも、STMを利用した専用回線が活用されている。

3-2. STMを用いたデータ伝送の具体的なケーススタディ

STMは、同期型のデジタル通信技術として、長距離の光ファイバー伝送や企業の専用回線 など、幅広い用途で利用されています。

ここでは、具体的なデータ伝送の事例を紹介します。

3-2-1. 事例①:国際通信ネットワーク

課題:
国際間での通信では、データの遅延やエラーを最小限に抑える必要がある。

特に、金融取引やリアルタイムのクラウドサービスでは、高速かつ安定した通信が求められる。

STMの活用:
STM-64(9.953 Gbps)やSTM-256(39.813 Gbps)を利用した光通信ネットワークを構築することで、以下の利点を実現。

  • 大容量データの安定的な伝送
  • エラー率の低減(FEC技術と組み合わせることで向上)
  • 高い同期精度により、通信の安定性が確保される

結果:
遅延の少ない国際通信ネットワークが構築され、金融機関やクラウドプロバイダーが安定したサービスを提供可能に。


3-2-2. 事例②:都市間ネットワークのデータ伝送

課題:
大都市間でのデータセンター接続において、高帯域かつ信頼性の高いネットワークが必要

STMの活用:
SDHネットワーク上でSTM-16(2.488 Gbps)を利用し、データセンター間のバックアップ回線を構築。

  • 光ファイバー回線を利用した低遅延通信
  • APS(Automatic Protection Switching)による回線障害時の即時切り替え
  • 帯域拡張の柔軟性(STM-64やSTM-256へのスケールアップ)

結果:
都市間のデータセンター接続が強化され、障害時でもシームレスなデータ転送が可能に。


3-2-3. 事例③:放送局のライブ映像伝送

課題:
スポーツイベントやニュース報道のライブ中継では、高品質な映像伝送 が求められる。

STMの活用:
STM-4(622 Mbps)を利用し、専用回線を介して高解像度映像をリアルタイムで伝送。

  • 映像の途切れを防ぐための高い同期精度
  • 遅延の少ないデータ伝送
  • ネットワークの帯域を最適化し、複数の映像ストリームを一括送信

結果:
リアルタイム映像の安定配信が実現し、放送局の運営効率が向上。


3-3. STMと他の伝送技術との組み合わせ

STMは、他の通信技術と組み合わせることで、より柔軟なネットワーク構成や高効率なデータ転送 を実現できます。

3-3-1. STMとWDM(波長分割多重)

WDM(Wavelength Division Multiplexing) は、異なる波長の光信号を1本の光ファイバーで同時に伝送する技術です。

STMとWDMを組み合わせることで、同じ光ファイバー上で複数のSTM信号を多重化 でき、伝送容量を大幅に向上できます。

メリット:

  • 帯域の拡張(STM-256 × 40波長で超大容量通信が可能)
  • コスト削減(複数の光ファイバーを敷設せずに済む)

3-3-2. STMとIP/MPLS(マルチプロトコルラベルスイッチング)

IP/MPLS技術とSTMを組み合わせることで、パケットベースの通信と同期伝送を統合 できます。

活用例:

  • STMを利用してMPLSトラフィックを安定的に転送
  • QoS(Quality of Service)を確保しながら、IPネットワークの遅延を最小限に抑える

3-3-3. STMと5Gネットワーク

5Gのバックホール(基幹ネットワーク)としてSTMを活用することで、低遅延で信頼性の高いデータ転送が可能になります。

活用例:

  • STM-64やSTM-256を活用し、5G基地局間の接続を高速化
  • エンタープライズ向け専用5Gネットワークの構築

STMと関連技術の比較

4-1. STMとSONETの違いと共通点

STM(Synchronous Transport Module)とSONET(Synchronous Optical Network)は、同期型デジタル通信技術 として非常に類似した構造を持っています。

しかし、STMは国際規格(ITU-T) に基づき、SONETは北米規格(ANSI) に基づいている点が異なります。

4-1-1. STMとSONETの共通点

STMとSONETは、どちらも高品質なデジタル通信を実現するためのフレーム構造 を持ち、以下の点で共通しています。

  • 同期型伝送方式を採用
    • 両者とも共通のクロック信号を使用し、正確なタイミングでデータを伝送。
  • SDH/SONETネットワークでの利用
    • SDHとSONETは、光ファイバーを用いた大容量通信を実現するために設計されている。
  • 階層的なフレーム構造
    • STM-1、STM-4、STM-16 などの多重化構造を持つ(SONETでは OC-3、OC-12、OC-48 などに対応)。

4-1-2. STMとSONETの違い

STMとSONETには、以下のような違いがあります。

項目STM(SDH)SONET
標準化機関ITU-T(国際電気通信連合)ANSI(米国規格協会)
地域世界共通(ヨーロッパ・アジア・その他)主に北米
基本フレームSTM-1(155.52 Mbps)OC-3(155.52 Mbps)
多重化単位STM-1、STM-4、STM-16 などOC-3、OC-12、OC-48 など
オーバーヘッド構造SDH仕様に準拠SONET独自の仕様

このように、STMとSONETは基本的な技術は同じですが、地域や規格の違いにより名称や詳細仕様が異なる という点が特徴です。


4-2. STMとPDH(Plesiochronous Digital Hierarchy)の比較

PDH(Plesiochronous Digital Hierarchy)は、STM(SDH)と異なり、非同期型のデジタル伝送方式 です。

かつては主流の通信技術でしたが、同期型でより効率的なSTM/SDHが登場したことで、現在ではあまり使用されなくなっています。

4-2-1. STMとPDHの主な違い

項目STM(SDH)PDH
同期方式同期型(Synchronous)非同期型(Plesiochronous)
伝送精度高精度なクロック同期各伝送路ごとに独自のクロック
多重化方式柔軟な多重化が可能(STM-1、STM-4など)固定的な多重化(E1→E2→E3)
エラー管理高度な監視・エラー訂正機能ありエラー検出は可能だが訂正は限定的
スケーラビリティ速度の向上が容易速度の向上が困難

4-2-2. PDHの課題とSTMの利点

  • PDHの課題
    • ネットワークの拡張が難しく、増速には新しい伝送設備が必要。
    • 異なるクロック信号でデータが送信されるため、データの再同期が必要。
  • STMの利点
    • 同期伝送により、ネットワーク全体の精度が向上
    • 多重化が柔軟で、既存の設備を活かしながらスケールアップ可能
    • ネットワーク管理機能(OAM)が強化され、障害時の復旧が迅速

このように、STMはPDHの課題を解決するために生まれた技術 であり、現在の通信ネットワークではほとんどのケースでPDHからSTM/SDHへと移行が進んでいます。


4-3. STMとWDM(Wavelength Division Multiplexing)の関係

STMは時分割多重(TDM: Time Division Multiplexing) を基本とする技術ですが、WDM(Wavelength Division Multiplexing)は波長分割多重技術 であり、これらの技術を組み合わせることで、大容量のデータ伝送が可能になります。

4-3-1. WDMとは?

WDMは、異なる波長の光信号を1本の光ファイバーで同時に伝送する技術 です。

これにより、単一の光ファイバーで複数のデータストリームを伝送でき、通信容量を大幅に向上させることができます。

WDMには、以下の2つの方式があります。

  1. CWDM(Coarse WDM)
    • 低コストな波長分割多重方式(波長間隔が広い)
  2. DWDM(Dense WDM)
    • 高密度な波長分割多重方式(波長間隔が狭く、大容量通信が可能)

4-3-2. STMとWDMの組み合わせ

STMをWDMと組み合わせることで、通信キャリアのネットワークの帯域を大幅に向上 できます。

技術特徴主な用途
STM(SDH)時分割多重(TDM)を用いる通信キャリアのバックボーン、企業向け専用線
WDM波長分割多重(WDM)を用いる超大容量の光ファイバー伝送

この2つを組み合わせることで、例えば以下のようなメリットがあります。

  • 既存のSDHネットワークを拡張
    • STMをWDM上に乗せることで、SDHのインフラを流用しながら伝送容量を増やせる。
  • コスト削減
    • 新規に光ファイバーを敷設せずに、WDM技術を活用して帯域を増やせる。
  • 将来の拡張性
    • SDH/STMネットワークを維持しながら、次世代の光ネットワーク(OTN, 5G)へと移行できる。

STMの利点と課題

5-1. STMの主な利点:同期性、高速伝送、柔軟な多重化

STM(Synchronous Transport Module)は、通信ネットワークの安定性と効率を向上させるための高度な伝送技術 です。

特に、同期性、高速伝送、柔軟な多重化 という3つの大きな利点があります。

5-1-1. 高精度な同期性

STMは同期デジタル通信(SDH: Synchronous Digital Hierarchy) を基盤とし、以下のようなメリットを提供します。

  • すべてのデータが共通のクロック信号に同期して伝送されるため、遅延やジッター(遅延のばらつき)が少ない
  • 通信品質が向上し、音声通話やリアルタイムのデータ伝送に最適
  • ネットワーク全体の同期が取れているため、異なる機器間でのデータ転送がスムーズ

5-1-2. 高速なデータ伝送

STMは、光ファイバーを活用した大容量通信 に最適な技術であり、以下のような特徴があります。

STMレベル伝送速度
STM-1155.52 Mbps
STM-4622.08 Mbps
STM-162.488 Gbps
STM-649.953 Gbps
STM-25639.813 Gbps

このように、ネットワークの要求に応じて伝送速度をスケールアップできるため、大規模なデータセンター接続や企業の専用回線としても利用可能 です。

5-1-3. 柔軟な多重化

STMはデータの多重化(Multiplexing) にも優れており、異なる種類のデータを同じフレーム内で効率的に伝送 できます。

  • TDM(時分割多重)を利用し、音声・データ・映像などの異なるトラフィックを統合
  • 必要に応じて帯域を動的に割り当てられるため、ネットワーク資源を効率的に利用可能
  • PDH(Plesiochronous Digital Hierarchy)よりも効率的な帯域管理が可能で、運用コストが削減できる

5-2. STM導入時の技術的・運用上の課題

STMは高度な通信技術ですが、導入時にはいくつかの技術的・運用上の課題が発生する可能性があります。

5-2-1. 設備コストの高さ

STMネットワークの導入には、以下のようなコストがかかります。

  • 専用のSTM対応機器(光伝送装置、MUX、ADMなど)の導入費用
  • 既存のPDHネットワークからの移行コスト
  • 保守・運用のための専門知識を持ったエンジニアの確保

特に、中小規模の企業では、初期投資が高額になるため導入が難しい場合がある という点が課題です。

5-2-2. 他のネットワーク技術との統合

近年、IPベースのネットワークが主流になっているため、STMと他の技術を統合する際の問題も発生します。

課題詳細
IP/MPLSとの統合STMはTDM(時分割多重)ベースであり、パケットベースのIP/MPLSと直接連携するには変換装置が必要。
WDMとの組み合わせSTMをWDM(波長分割多重)技術と統合することで伝送容量を拡張できるが、専用の光トランスポート機器が必要。

このように、STM単体では柔軟なネットワーク設計が難しく、最新の通信技術と組み合わせる工夫が求められる ことが課題となります。

5-2-3. 保守・運用の複雑さ

STMは高度な同期機能を持つため、運用管理が比較的複雑 です。

  • ネットワーク全体の同期が必要なため、障害時の影響範囲が広がりやすい
  • 設定ミスや機器の不具合が発生すると、通信全体に影響を与える可能性がある
  • 専用のトレーニングを受けた技術者が必要となるため、保守コストがかかる

5-3. STMのセキュリティ上の考慮点

STMは物理層での通信を提供する技術であり、セキュリティを確保するためには特別な対策が必要です。

5-3-1. 物理層の盗聴リスク

STMは光ファイバーを使用するため、物理的な盗聴(光スプリッターを用いた盗聴攻撃)のリスクがある

  • 対策: 光ファイバー通信における盗聴対策として、暗号化技術(AES-256 など)を適用 することが推奨される。

5-3-2. サービス妨害(DoS攻撃)への脆弱性

STMはTDMベースの固定帯域を利用するため、IPネットワークのようなDDoS攻撃の影響を受けにくい ですが、以下のような攻撃リスクは考えられます。

  • ジャミング攻撃(光信号の妨害)
  • 物理的なケーブル切断による通信断絶

対策:

  • 冗長化構成(1+1保護、リングプロテクション)を採用 し、障害発生時にも自動でバックアップ回線へ切り替え。
  • 通信経路を多重化し、物理的な攻撃リスクを分散 する。

5-3-3. STMネットワーク管理のセキュリティ

STMネットワークを管理するシステム(NMS: Network Management System)は、サイバー攻撃の標的になる可能性があります。

  • 対策:
    • 管理システムへのアクセス制御を強化し、不正アクセスを防ぐ
    • 監視ログをリアルタイムで分析し、異常なトラフィックを検知

STMの将来展望

6-1. 次世代ネットワークにおけるSTMの役割と進化

STM(Synchronous Transport Module)は、高精度な同期通信と高品質なデータ伝送を可能にする技術 として、長年にわたり通信インフラの基盤を支えてきました。

しかし、IPネットワークの台頭や光通信技術の進化 により、STMが担う役割も変化しつつあります。

ここでは、次世代ネットワークにおけるSTMの進化とその役割について詳しく解説します。

6-1-1. 現在のSTMの立ち位置

現在、STMは通信キャリアのバックボーンネットワークや企業向け専用線として広く活用 されています。特に、以下のような用途で利用されています。

  • 大規模データセンター間の接続
  • 金融機関の専用ネットワーク(低遅延・高信頼性)
  • 放送・メディア業界での映像伝送
  • 鉄道・航空・交通システムの制御ネットワーク

しかし、近年ではIPベースのネットワーク(MPLS、Ethernet、5G) の発展により、STMの役割は変化し、より高度な技術と融合する方向に進化 しています。


6-1-2. 次世代ネットワークにおけるSTMの役割

次世代ネットワークでは、STMが果たすべき役割は以下の3つに分類されます。

STMの進化役割
IPネットワークとの統合MPLSやEthernetとの連携強化
光ネットワークとの融合OTN(Optical Transport Network)技術と組み合わせた高効率な通信
5Gバックホールの支援低遅延・高信頼性のトラフィック伝送

これらの進化により、STMは次世代ネットワークにおいて新たな価値を生み出す可能性があります。


6-1-3. IPネットワークとの統合

現在、通信の主流はパケットベースのIPネットワーク に移行しています。

しかし、STMの同期型通信の利点を活かすため、IP/MPLSと組み合わせたハイブリッドネットワークの構築 が進められています。

  • IP/MPLSとSTMの融合
    • IPトラフィックをSTMベースのネットワークで転送することで、遅延を最小限に抑える
    • QoS(Quality of Service)を確保し、高品質な音声・映像通信を実現
    • 金融取引や産業用ネットワークなど、厳格な遅延要件がある環境で利用

6-1-4. OTN(光トランスポートネットワーク)との融合

OTN(Optical Transport Network)は、光ファイバー通信の高度な多重化技術です。STMとOTNを組み合わせることで、より効率的なデータ伝送が可能になります

  • STMとOTNの相互運用のメリット
    • WDM(波長分割多重)と連携し、従来のSTMネットワークの容量を拡張
    • 誤り訂正機能(FEC: Forward Error Correction)を強化し、長距離通信時のエラー率を低減
    • ネットワークの仮想化(SDN)との連携により、柔軟な帯域管理が可能

このように、OTNとSTMの融合により、既存のSTMインフラを最大限に活用しつつ、新しい技術へとスムーズに移行できる ことが期待されています。


6-1-5. 5GネットワークでのSTMの活用

次世代通信の主流である5Gネットワーク では、高速・低遅延・高信頼性のデータ伝送 が求められます。

STMの特性を活かして、以下のような用途での活用が期待されています。

  • 5Gバックホール(基地局間の通信)
    • STM-64(9.953 Gbps)やSTM-256(39.813 Gbps)を利用して、5G基地局間の大容量データ伝送を実現。
  • ミッションクリティカルなネットワーク
    • 交通、医療、インフラ制御など、リアルタイム性が求められる分野では、STMの同期伝送が有効。
  • 5Gとエンタープライズネットワークの統合
    • 企業向けの専用5GネットワークとSTMを組み合わせ、安定した通信基盤を提供。

6-1-6. STMの将来展望

今後、STMは以下のような形で進化すると予測されます。

領域今後の進化
ネットワーク統合IP/MPLSやSDNと統合し、より柔軟な通信を実現
光通信の進化OTNやWDMと組み合わせ、超高速通信に対応
5Gとの連携低遅延・高信頼性のネットワークを構築

特に、IPネットワークの柔軟性とSTMの同期精度を組み合わせた次世代通信インフラの構築 が求められています。