クラウドやデータセンターの拡大に伴い、柔軟なネットワーク構築が求められる中、「VXLANとは何か?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
従来のVLANでは対応できないスケーラビリティの課題を解決し、L3ネットワーク上でL2通信を実現するVXLANは、企業やクラウド環境で急速に採用が進んでいます。
本記事では、VXLANの仕組みやメリット、導入時の注意点、最新のトレンドまでを初心者にもわかりやすく解説します。
ネットワークの仮想化を検討している方や、VXLANの導入を迷っている方は、ぜひ最後までご覧ください。
この記事は以下のような人におすすめ!
- VXLANとは何か知りたい人
- VLANと何が違うのかわからない
- カプセル化の流れや通信方式(マルチキャスト・ユニキャスト)の違いを知りたい
VXLANの基礎知識
データセンターやクラウド環境が拡大する中、ネットワークの仮想化技術が重要になっています。
その中でも「VXLAN(Virtual eXtensible LAN)」は、従来のVLAN(仮想LAN)の制限を克服する技術として注目されています。
この記事では、VXLANとは何か、その背景、そしてVLANとの違いについて詳しく解説します。
1-1. VXLANとは何か
VXLAN(Virtual eXtensible LAN)は、仮想ネットワークを大規模に構築するためのトンネリング技術です。
従来のVLANでは4096個のネットワークセグメント(VLAN ID)が上限でしたが、VXLANでは最大1,600万個以上のネットワークセグメントを作成可能になり、クラウドや大規模データセンターのニーズに対応できます。
1-1-1. VXLANの基本概念
VXLANは、L2ネットワーク(Ethernet)をUDPベースのL3ネットワーク(IP)上にカプセル化して構築する技術です。
これにより、物理的なネットワークの制約を超えて、柔軟な仮想ネットワークを作成できます。
VXLANの仕組み(基本構造)
VXLANは、次のような構造になっています。
項目 | 内容 |
---|---|
VXLAN ID(VNI) | VLAN IDの拡張版で、24ビットの識別子(最大1,677万) |
VTEP(VXLANトンネルエンドポイント) | VXLANパケットをカプセル化・復号するノード |
トンネルプロトコル | UDPを使用し、L2パケットをL3ネットワーク上で転送 |
VXLANのカプセル化の流れ
- 仮想マシンが通常のEthernetフレームを送信
- VTEPがフレームをVXLANヘッダーでカプセル化
- UDP/IPパケットとしてネットワークを通過
- 目的のVTEPでカプセルを解除し、元のL2フレームを復元
この技術により、データセンターの仮想マシンが物理的なネットワーク構造に縛られることなく自由に移動できるようになります。
1-2. VXLANが生まれた背景
VXLANが登場した背景には、従来のVLAN技術が持つスケーラビリティの限界やマルチテナント環境への対応不足があります。
特に、クラウドサービスの普及により、柔軟で拡張性の高いネットワーク仮想化技術が求められるようになりました。
1-2-1. VLANの限界
VLANはシンプルで広く利用されていますが、以下のような課題がありました。
- スケールの制約:VLAN IDは12ビット(4096個)しかなく、大規模なクラウド環境では不足
- ブロードキャストドメインの問題:同じVLAN内ではブロードキャストが発生し、ネットワーク負荷が増大
- データセンター間の柔軟性不足:L2の枠組み内でしか動作しないため、異なるデータセンター間の通信に適さない
1-2-2. クラウド環境の要求
クラウドやデータセンターの普及により、次のような新たな要件が生まれました。
- 数百万単位の仮想ネットワークを作成したい
- データセンター間で仮想マシンを自由に移動させたい
- L3ネットワーク上でL2通信を実現したい
こうしたニーズに対応するため、2011年にVMware、Cisco、Arista Networksなどが中心となりVXLANが開発されました。
1-3. VXLANとVLANの違い
VXLANとVLANの違いを理解することは、ネットワーク設計において重要です。
以下に主な違いをまとめました。
項目 | VLAN | VXLAN |
---|---|---|
識別子 | VLAN ID(12ビット、最大4096) | VXLAN ID(VNI、24ビット、最大1,677万) |
通信範囲 | L2ネットワークのみ | L3ネットワーク上でL2を仮想化可能 |
スケーラビリティ | 小規模から中規模向け | 大規模データセンターやクラウド向け |
通信方式 | ブロードキャスト依存 | マルチキャスト、ユニキャスト |
利用環境 | 企業LAN、オンプレミスデータセンター | クラウド、マルチテナント環境 |
1-3-1. VLANは小規模向け、VXLANは大規模向け
VLANは、企業内ネットワークや小規模なデータセンターには適していますが、大規模なクラウド環境ではスケールの限界があります。
一方、VXLANは拡張性が高く、L3ネットワークを活用できるため、大規模環境向けに設計されています。
1-3-2. VLANはブロードキャスト、VXLANはユニキャスト対応
VLANはブロードキャストに依存しており、ネットワークの負荷が増えやすいですが、VXLANはユニキャスト通信を活用できるため、スケーラビリティと効率が向上します。
VXLANの仕組み
VXLANとは、仮想ネットワークを拡張するためのトンネリング技術ですが、どのように動作するのでしょうか。
本章では、VXLANの基本的な動作原理、VXLANヘッダーの構造、そして重要な役割を果たすVXLANトンネルエンドポイント(VTEP)について詳しく解説します。
2-1. VXLANの基本的な動作原理
VXLANとは、レイヤー2(L2)のフレームを、レイヤー3(L3)ネットワーク上にカプセル化して転送する仕組みを持っています。
このカプセル化技術によって、異なるデータセンターや物理ネットワーク間でも、仮想マシン(VM)同士を同じL2ネットワーク内にあるかのように通信させることができます。
2-1-1. VXLAN通信の流れ
VXLANの基本的な通信フローは次のようになります。
- 仮想マシン(VM)が通常のEthernetフレームを送信
- VTEP(VXLANトンネルエンドポイント)がフレームをVXLANパケットにカプセル化
- UDP/IPパケットとしてネットワークを通過(L3ネットワーク上を転送)
- 受信側のVTEPがVXLANヘッダーを解除し、元のL2フレームを復元
- 仮想マシンにフレームを転送し、通常のL2通信として処理
この仕組みにより、異なるL3ネットワーク間でもL2通信を実現できるため、データセンターの仮想化やクラウド環境に適したネットワークが構築できます。
2-1-2. VXLANのメリット
VXLANには、次のようなメリットがあります。
- スケーラビリティの向上:VLAN ID(4096個)の制約を超え、最大1,677万個の仮想ネットワーク(VXLAN ID)を作成可能
- L3ネットワークの活用:L2通信をIPネットワーク上で実現し、データセンター間の柔軟なネットワーク構成が可能
- 物理的な制約を超えた仮想ネットワーク:仮想マシンの移動(vMotion)を物理ネットワークの影響を受けずに実施できる
このように、VXLANとはクラウドやデータセンターの発展に不可欠なネットワーク仮想化技術です。
2-2. VXLANヘッダーの構造
VXLANとは、L2フレームをカプセル化することで動作しますが、その際に追加されるVXLANヘッダーはどのような構造になっているのでしょうか。
VXLANヘッダーは、以下のようなフォーマットを持っています。
2-2-1. VXLANヘッダーの詳細
VXLANヘッダーは、24ビットのVXLAN Network Identifier(VNI)を含む専用のフォーマットを持っています。
以下の表は、VXLANヘッダーの主要なフィールドを示したものです。
フィールド | サイズ | 説明 |
---|---|---|
Flags | 8ビット | VXLANの動作フラグ(通常は「Iビット=1」) |
Reserved | 24ビット | 予約領域(将来の拡張用) |
VXLAN Network Identifier(VNI) | 24ビット | 仮想ネットワークを識別(VLAN IDに相当) |
Reserved | 8ビット | 予約領域 |
このVXLANヘッダーは、元のL2フレームに追加され、さらにUDPヘッダーとIPヘッダーが付加されます。
最終的に、UDP/IPパケットとしてネットワークを通過します。
2-2-2. VXLANのカプセル化フレームの構造
VXLAN通信時のカプセル化フレームの全体構造を示すと、以下のようになります。
| Outer Ethernet Header | 外側のEthernet(L2)ヘッダー
| Outer IP Header | 外側のIP(L3)ヘッダー
| Outer UDP Header | UDPヘッダー(VXLAN通信用)
| VXLAN Header | VXLANヘッダー(VNIを含む)
| Inner Ethernet Frame | 元のEthernet(L2)フレーム
つまり、VXLANとは元のL2フレームをUDP/IPパケット内にカプセル化する仕組みであり、これにより広域ネットワーク上でも仮想ネットワークを構築できるのです。
2-3. VXLANトンネルエンドポイント(VTEP)の役割
VXLANとは、L3ネットワークを介してL2ネットワークを仮想的に拡張する技術ですが、その鍵となるのがVXLANトンネルエンドポイント(VTEP)です。
VTEPは、VXLANパケットのカプセル化とデカプセル化を担当し、仮想ネットワークを維持する重要な役割を果たします。
2-3-1. VTEPとは何か?
VTEP(VXLAN Tunnel Endpoint)は、VXLANパケットの送受信を担当するネットワークデバイスや仮想スイッチのことを指します。
物理スイッチや仮想スイッチ(vSwitch)がVTEPとして機能します。
2-3-2. VTEPの主要な役割
VTEPの役割は、大きく以下の3つに分けられます。
- VXLANパケットのカプセル化
- 送信元のVTEPは、受信したL2フレームをVXLANヘッダー付きのUDPパケットに変換
- VXLANパケットの転送
- VXLANパケットをIPネットワーク上でルーティングし、目的のVTEPへ送信
- VXLANパケットのデカプセル化
- 受信側のVTEPがVXLANヘッダーを解除し、元のL2フレームを復元
このVTEPの動作によって、異なるL3ネットワークを跨いだL2通信が可能になります。
2-3-3. VTEPの実装方法
VTEPは、以下の2つの方法で実装されます。
- 物理VTEP(ハードウェアスイッチ):CiscoやAristaなどのネットワーク機器に搭載
- 仮想VTEP(ソフトウェアスイッチ):VMware NSXやOpen vSwitch(OVS)で実装
どちらの方法を選択するかは、環境の要件やネットワーク構成によって決まります。
VXLANの利点と課題
VXLANとは、大規模な仮想ネットワークを構築するためのトンネリング技術ですが、その導入にはメリットと課題の両面があります。
本章では、VXLANの主な利点を整理しつつ、導入時に注意すべきポイントや課題について詳しく解説します。
3-1. VXLANのメリット
VXLANとは、従来のVLANの限界を克服し、クラウド環境や大規模データセンターで柔軟なネットワークを構築できる技術です。
では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
3-1-1. 大規模ネットワークに対応可能
VLANは12ビットの識別子(VLAN ID)を使用するため、最大4,096個のネットワークしか作成できません。
一方、VXLANは24ビットのVXLAN Network Identifier(VNI)を使用するため、最大1,677万個の仮想ネットワークを作成可能です。
このスケーラビリティの向上により、次のようなシナリオに適しています。
- クラウド事業者:マルチテナント環境で大量の仮想ネットワークを管理可能
- 大規模データセンター:複数の拠点をまたぐ仮想ネットワーク構築が容易
3-1-2. データセンター間の柔軟なネットワーク構成
VXLANは、L3ネットワーク上でL2通信を実現できるため、物理的なネットワーク構造に依存せずに柔軟なネットワークを構築できます。
例えば、次のようなメリットがあります。
- データセンターの拠点間で仮想マシンを移動可能(vMotion)
- 異なるネットワークセグメントをシームレスに接続可能
3-1-3. ブロードキャストトラフィックの削減
従来のVLANはブロードキャストを多用するため、大規模環境ではネットワーク負荷が増加します。
一方、VXLANはマルチキャスト、ユニキャストを活用できるため、ブロードキャストの影響を最小限に抑えられます。
VXLANの通信方式には以下の3つがあります。
通信方式 | 特徴 |
---|---|
マルチキャスト | ブロードキャストをマルチキャストグループに変換し、ネットワーク負荷を軽減 |
ユニキャスト | 個別のノードに直接通信し、スケーラビリティを向上 |
ヘッドエンドレプリケーション(HER) | 送信元で複製し、効率的に配信 |
このように、VXLANとは従来のネットワークの課題を解決し、より拡張性の高い仮想ネットワークを構築できる技術なのです。
3-2. VXLAN導入時の注意点と課題
VXLANは多くの利点を持つ技術ですが、導入に際しては以下のような注意点や課題があります。
事前に理解し、適切な対策を講じることが重要です。
3-2-1. 設定が複雑
VXLANの導入には、VTEP(VXLANトンネルエンドポイント)の設定や、マルチキャスト・ユニキャストの選択など、ネットワークエンジニアによる適切な設計が求められます。
特に、以下の点に注意が必要です。
- VXLAN ID(VNI)の管理:大規模環境ではIDの一貫性を保つことが重要
- VTEP間の通信設計:どの方式(マルチキャスト・ユニキャスト)を採用するか検討が必要
- オーバーレイネットワークのパフォーマンス最適化:カプセル化によるオーバーヘッドの考慮
3-2-2. パケットオーバーヘッドの増加
VXLANは、L2フレームをUDP/IPでカプセル化するため、パケットサイズが増加します。その結果、次のような影響があります。
- MTU(Maximum Transmission Unit)の調整が必要
- スイッチやルーターでの処理負荷が増加
特に、VXLANパケットは外部IPヘッダー(20バイト)、UDPヘッダー(8バイト)、VXLANヘッダー(8バイト)を追加するため、合計で36バイトのオーバーヘッドが発生します。
そのため、ネットワーク機器のMTUを適切に設定(通常は1,600バイト以上)することが推奨されます。
3-2-3. 既存ネットワークとの互換性
VXLANは新しい技術のため、従来のネットワーク機器がVXLANをサポートしていない場合があります。
導入前に以下の点を確認する必要があります。
- スイッチ、ルーターがVXLANをサポートしているか
- VXLAN対応のファームウェアやライセンスが必要か
- ネットワーク監視ツールがVXLANのトラフィックを解析可能か
3-2-4. セキュリティリスク
VXLANはIPネットワーク上で動作するため、セキュリティ面での考慮が必要です。
特に、以下のリスクが考えられます。
- VXLANパケットの偽装攻撃(スプーフィング)
- VTEPの不正アクセス
- マルチテナント環境でのデータ漏洩
これらの対策として、IPsecやMACsecによる暗号化、VXLANトラフィックのフィルタリング、アクセス制御リスト(ACL)の活用などが推奨されます。
VXLANの実装と運用
VXLANとは、クラウド環境や大規模データセンターに適した仮想ネットワーク技術ですが、実際にどのように実装し、どのように運用するべきでしょうか。本章では、VXLANの具体的な実装方法と、安定した運用のためのベストプラクティスについて詳しく解説します。
4-1. VXLANの実装方法
VXLANを実装する方法は、主に物理スイッチを利用する方法と仮想スイッチを利用する方法の2つがあります。
それぞれの特性を理解し、環境に応じた適切な実装を選択することが重要です。
4-1-1. 物理スイッチを利用したVXLANの実装
VXLAN対応スイッチを使用することで、ネットワークのトンネリング処理をハードウェアレベルで実行でき、パフォーマンスを向上させることが可能です。
主にCisco、Arista、JuniperなどのベンダーがVXLANをサポートしています。
主な構成要素
- VXLAN対応スイッチ(VTEP):VXLANパケットのカプセル化・復号を実行
- IPネットワーク(アンダーレイ):VXLANトンネルを通じて通信する基盤ネットワーク
- EVPN(Ethernet VPN):VXLANの制御プレーンとして使用されることが多い
メリット
- ハードウェア処理による高速なパケット転送
- 大規模ネットワーク環境に適している
- 物理ネットワークの信頼性が高い
デメリット
- VXLAN対応のスイッチが必要なためコストが高い
- 設定が複雑で専門知識が求められる
4-1-2. 仮想スイッチを利用したVXLANの実装
仮想化環境やクラウド環境では、ソフトウェアベースの仮想スイッチを使用してVXLANを実装することが一般的です。
代表的なソリューションとして、VMware NSX、Open vSwitch(OVS)、Linux Kernel VXLANなどがあります。
主な構成要素
- 仮想スイッチ(仮想VTEP):仮想マシンが接続するスイッチとしてVXLANパケットを処理
- SDNコントローラー:VXLANの設定や管理を一元的に制御
- IPネットワーク(アンダーレイ):VXLANトンネルを通じて通信
メリット
- ハードウェアを追加せずに導入できるためコストを抑えられる
- クラウド環境との親和性が高い
- SDN(Software-Defined Networking)と組み合わせやすい
デメリット
- ハードウェアスイッチに比べて処理性能が低い場合がある
- SDNコントローラーの導入や管理が必要
4-2. VXLANの運用上のベストプラクティス
VXLANを安定して運用するためには、適切な設定や監視が不可欠です。
本節では、VXLANの運用で注意すべきポイントを紹介します。
4-2-1. MTUの適切な設定
VXLANはカプセル化によってパケットサイズが増加するため、MTU(Maximum Transmission Unit)の適切な設定が重要です。
VXLANでは通常のEthernetフレームに36バイトのオーバーヘッドが加わります。
推奨設定
- 物理ネットワークのMTUを1600バイト以上に設定(推奨は1700バイト)
- VXLANパケットが断片化されないようにネットワーク機器を調整
4-2-2. 適切な通信方式の選択
VXLANでは、VTEP間の通信方式として以下の3つが選択可能です。環境に応じて適切な方式を選ぶことが重要です。
通信方式 | 適用環境 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
マルチキャスト | 大規模データセンター | ネットワーク負荷を分散できる | ルーター設定が必要 |
ユニキャスト | 小規模環境 | 設定が簡単で導入しやすい | トラフィック量が増加しやすい |
ヘッドエンドレプリケーション(HER) | クラウド環境 | 柔軟な構成が可能 | CPU負荷が増大 |
マルチキャストを利用できる環境では、ネットワーク負荷を分散できるため、推奨されることが多いです。
4-2-3. VXLANトラフィックの可視化と監視
VXLANは通常のL2ネットワークとは異なる動作をするため、トラフィックの可視化と監視を徹底することが重要です。
特に、以下の監視ツールを活用すると効果的です。
- sFlow / NetFlow:VXLANトラフィックの流れを監視
- Wireshark:VXLANヘッダーを解析し、問題の特定に役立つ
- SDNコントローラーのログ分析:VXLANネットワークの状態を一元管理
また、異常なトラフィックやパフォーマンス低下を迅速に検出できるよう、適切なアラート設定を行うことが重要です。


VXLANのセキュリティ
VXLANとは、L3ネットワーク上でL2ネットワークを拡張する技術ですが、セキュリティ面での考慮が不可欠です。
VXLANは元々セキュリティを主目的として設計されていないため、適切な対策を講じなければ、不正アクセスやトラフィックの盗聴といったリスクが発生する可能性があります。
本章では、VXLANにおけるセキュリティ上の課題と、それを解決するための強化策について詳しく解説します。
5-1. VXLANにおけるセキュリティ上の考慮点
VXLANとは、IPネットワーク上で動作するオーバーレイ技術のため、従来のL2ネットワークとは異なるセキュリティ上のリスクがあります。
ここでは、VXLAN特有のセキュリティ課題について説明します。
5-1-1. VXLANパケットの偽装リスク
VXLANは、UDPプロトコルを使用してL2フレームをカプセル化する仕組みですが、VXLANパケット自体には認証や暗号化の仕組みが含まれていません。
そのため、攻撃者がVXLANパケットを偽装し、不正にネットワークへ侵入する可能性があります。
主なリスク
- VXLAN ID(VNI)の偽装:攻撃者が不正なVNIを使用し、他のネットワークに侵入する
- VTEP(VXLANトンネルエンドポイント)のなりすまし:不正なVTEPを設定し、通信を傍受
5-1-2. データ盗聴のリスク
VXLANは、L3ネットワーク上をUDPパケットとして流れるため、第三者によるパケットキャプチャが比較的容易です。
例えば、VXLANトラフィックをミラーポートに送信し、Wiresharkなどのツールで解析すると、元のL2フレームが可視化されてしまいます。
影響を受ける可能性のあるシナリオ
- クラウド環境でのマルチテナント運用:他のユーザーが同じIPネットワーク上で不正アクセスを試みる
- データセンター間のVXLAN通信:インターネット経由でVXLANパケットを送信する場合、盗聴のリスクが高まる
5-1-3. VTEPのアクセス制御不足
VXLANネットワークでは、VTEP(VXLANトンネルエンドポイント)が重要な役割を果たしますが、適切なアクセス制御がされていないと、外部からの不正アクセスを許す可能性があります。
VTEPに関するセキュリティリスク
- 不正なデバイスがVTEPとして登録される
- VTEP間の通信を第三者が傍受する
特に、クラウド環境では、適切なACL(アクセス制御リスト)やファイアウォールの設定がされていないと、不正アクセスのリスクが高まるため注意が必要です。
5-2. VXLANのセキュリティ強化策
これらのセキュリティリスクに対処するためには、いくつかの対策を講じる必要があります。
本節では、VXLANのセキュリティを強化するための具体的な方法を紹介します。
5-2-1. VXLANトラフィックの暗号化
VXLANパケットはデフォルトでは暗号化されていないため、データ盗聴を防ぐためにIPsecやMACsecを使用して暗号化を施すことが推奨されます。
推奨される暗号化方法
暗号化技術 | 特徴 |
---|---|
IPsec(IP Security) | VXLANパケットを暗号化し、L3ネットワーク上での安全性を確保 |
MACsec(Media Access Control Security) | L2レイヤーでの暗号化を提供し、VTEP間の通信を保護 |
VXLAN-GPE(Generic Protocol Extension) | VXLANにセキュリティ拡張を追加し、パケットの改ざん防止 |
特に、インターネットを介してVXLAN通信を行う場合は、IPsecを利用してトンネルを暗号化することが強く推奨されます。
5-2-2. VXLAN ID(VNI)の管理とフィルタリング
VXLAN ID(VNI)が不正に使用されることを防ぐために、適切なフィルタリングを設定することが重要です。
対策方法
- VXLAN ID(VNI)の範囲を厳密に管理(未使用のVNIを無効化)
- ACL(アクセス制御リスト)を活用し、特定のVTEP以外の通信をブロック
- ネットワーク監視ツールを使用し、不審なVNIの使用を検出
5-2-3. VTEPのセキュリティ強化
VTEPのセキュリティを強化することで、不正アクセスのリスクを低減できます。
VTEPのセキュリティ強化策
- VTEPの認証を強化(認証されたデバイスのみVXLANトンネルに参加できるようにする)
- 不要なVTEPを削除し、最小限の構成にする
- ファイアウォールを設定し、不正なVTEPからの通信を遮断
特に、クラウド環境では、VTEPのIPアドレスをホワイトリスト方式で制限するといった対策が効果的です。
VXLANの最新動向と今後の展望
VXLAN(Virtual Extensible LAN)は、データセンターやクラウド環境におけるネットワーク仮想化技術として広く採用されています。
本章では、VXLANに関する最新のニュースやトレンドを紹介し、その今後の展望について考察します。
6-1. VXLANに関する最新ニュースとトレンド
近年、VXLANは技術的な進化と市場の需要により、以下のようなトレンドが見られます。
6-1-1. データセンターのL3ファブリックへの移行
従来のL2ファブリックからL3ファブリックへの移行が進んでおり、その中でEVPN/VXLANの採用が増加しています。
これにより、スケーラビリティの向上やループ防止などのメリットが期待されています。
6-1-2. マルチベンダー環境での相互接続性の向上
複数のベンダーがEVPN/VXLANの相互接続試験を実施し、互換性の向上が確認されています。
これにより、異なるベンダーの機器間でのシームレスなネットワーク構築が可能となり、ユーザーの選択肢が広がっています。
6-1-3. VXLANのセキュリティ強化
VXLANはもともとセキュリティ機能が限定的でしたが、近年ではIPsecやMACsecを組み合わせることで、データ転送の安全性を高める取り組みが進んでいます。
これにより、セキュアなネットワーク仮想化が実現されています。


6-2. VXLANの今後の展望
今後、VXLANは以下の方向性で発展していくと考えられます。
6-2-1. 5Gネットワークとの連携
5Gの普及に伴い、VXLANを活用した柔軟なネットワーク構築が期待されています。
特に、エッジコンピューティングやIoTデバイスの増加に対応するため、VXLANの適用範囲が拡大すると予想されます。
6-2-2. 自動化とオーケストレーションの強化
ネットワークの自動化やオーケストレーションツールとの統合が進み、VXLANの設定や管理がより効率化されるでしょう。
これにより、運用コストの削減や迅速なサービス展開が可能となります。
6-2-3. AIとの融合による最適化
人工知能(AI)を活用したトラフィック分析や障害予測がVXLANネットワークにも導入され、ネットワークの最適化や安定性の向上が期待されます。