インターネット通信や無線LANのセキュリティに欠かせないストリーム暗号。
しかし、「仕組みがよく分からない」「RC4は危険と聞いたけど、今は何を使うべき?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか?
本記事では、ストリーム暗号の基本から、最新の安全なアルゴリズム、実際の用途、リスクまでを分かりやすく解説します。
これを読めば、ストリーム暗号の全体像と最新動向がしっかり理解できるはずです!
この記事は以下のような人におすすめ!
- ストリーム暗号とは何か知りたい人
- ブロック暗号とストリーム暗号の違いが分からない
- メリット・デメリットを知りたい
ストリーム暗号とは
ストリーム暗号は、データを1ビットまたは1バイト単位で逐次的に暗号化する方式です。
ブロック暗号と異なり、小さなデータ単位をリアルタイムで暗号化できるため、通信のセキュリティ確保に適しています。
本記事では、ストリーム暗号の基本概念と、ブロック暗号との違いについて詳しく解説します。
1-1. ストリーム暗号の定義と基本概念
ストリーム暗号(Stream Cipher)は、データを連続的に処理しながら暗号化する方式です。
特に、リアルタイムでデータを送受信する通信環境に適しており、インターネット通信、無線通信、VoIP(音声通話)などで広く活用されています。
1-1-1. ストリーム暗号の仕組み
ストリーム暗号の基本的な仕組みは、以下の流れで構成されます。
- 鍵ストリームの生成
ストリーム暗号では、暗号化のために「鍵ストリーム(Key Stream)」と呼ばれる擬似乱数列を生成します。この鍵ストリームは、秘密鍵を基に生成され、復号時にも同じ鍵ストリームを再現できる必要があります。 - 平文とのXOR演算
鍵ストリームと平文(暗号化前のデータ)をXOR(排他的論理和)演算することで暗号文(Ciphertext)を生成します。XOR演算の特性により、復号時には再度XORを行うことで元の平文を取り出すことができます。
1-1-2. ストリーム暗号の特徴
ストリーム暗号の主な特徴は以下の通りです。
- 低遅延・高速処理
データを逐次的に暗号化できるため、リアルタイム性が求められる環境に適しています。 - データ量が可変でも対応可能
一定のブロックサイズを必要とするブロック暗号とは異なり、任意のサイズのデータを処理できます。 - 鍵ストリームの再利用リスク
同じ鍵ストリームを複数回使用すると解読される危険性があるため、適切な鍵管理が求められます。
1-1-3. ストリーム暗号の用途
ストリーム暗号は、主に以下の分野で使用されています。
- 無線通信(Wi-Fi、Bluetooth)
通信データをリアルタイムで暗号化するため、ストリーム暗号が適用されます。 - インターネット通信(SSL/TLS)
過去にはRC4というストリーム暗号がSSL/TLSに使われていましたが、現在はより安全な暗号方式へ移行しています。 - 音声・動画ストリーミング
データを連続的に送信する環境では、ストリーム暗号のリアルタイム性が活かされます。
1-2. ブロック暗号との比較
暗号技術には、ストリーム暗号の他に「ブロック暗号(Block Cipher)」と呼ばれる方式も存在します。
それぞれの暗号方式は用途や特性が異なるため、適切に使い分けることが重要です。
1-2-1. ストリーム暗号とブロック暗号の違い
項目 | ストリーム暗号 | ブロック暗号 |
---|---|---|
処理単位 | 1ビットまたは1バイト単位 | 一定のブロックサイズ(例:128ビット単位) |
暗号化方式 | 鍵ストリームとXOR演算 | 複雑な数学的処理 |
適用範囲 | リアルタイム通信、音声・動画ストリーミング | ファイル暗号化、データベース暗号化 |
代表的なアルゴリズム | RC4、Salsa20、ChaCha20 | AES、DES、Blowfish |
1-2-2. ストリーム暗号とブロック暗号のメリット・デメリット
ストリーム暗号のメリット
- 高速処理が可能で、リアルタイム通信に適している。
- データの長さに制約がない。
ストリーム暗号のデメリット
- 鍵ストリームの再利用がセキュリティ上のリスクとなる。
- 鍵ストリームの生成アルゴリズムが脆弱だと、暗号が破られる可能性がある。
ブロック暗号のメリット
- セキュリティが高く、強固な暗号方式が多い。
- データの完全性を確保しやすい。
ブロック暗号のデメリット
- 処理速度が遅く、リアルタイム通信には不向き。
- 固定ブロック単位で処理するため、データサイズが小さいと無駄が発生する。
1-2-3. どちらを選ぶべきか?
利用する場面によって、ストリーム暗号とブロック暗号のどちらを選択すべきかが変わります。
- リアルタイム通信(音声通話、動画配信など):ストリーム暗号が適している
- 大容量データの暗号化(ファイル、データベースなど):ブロック暗号が適している
結論
ストリーム暗号とブロック暗号は、それぞれ異なる用途で活用されます。特にストリーム暗号は、高速で低遅延の処理が求められるシーンで重要な役割を果たします。しかし、鍵管理を適切に行わないとセキュリティリスクが高まるため、最新の推奨アルゴリズムを活用することが求められます。

ストリーム暗号の種類と構造
ストリーム暗号は、暗号化するデータを1ビットまたは1バイト単位で処理し、リアルタイム通信に適した暗号方式です。
しかし、すべてのストリーム暗号が同じ構造を持っているわけではなく、同期方法や鍵ストリームの生成方法に応じていくつかの種類に分類されます。
本章では、ストリーム暗号の主要な分類である同期式ストリーム暗号と自己同期式ストリーム暗号の違い、および鍵ストリームの生成方法について詳しく解説します。
2-1. 同期式ストリーム暗号と自己同期式ストリーム暗号
ストリーム暗号は、鍵ストリームの生成方法に応じて同期式(Synchronous Stream Cipher)と自己同期式(Self-synchronizing Stream Cipher)の2種類に分類されます。それぞれの違いを理解することで、適切な暗号方式を選択できるようになります。
2-1-1. 同期式ストリーム暗号とは
同期式ストリーム暗号(Synchronous Stream Cipher)は、送信者と受信者が事前に共有した鍵を基に、独立した鍵ストリームを生成する方式です。
送信側と受信側が正確に同期していれば、同じ鍵ストリームを再現し、暗号化と復号が正しく行えます。
【特徴】
- 鍵ストリームは内部状態のみで決定
→ 平文の内容には依存せず、あらかじめ決められたアルゴリズムで鍵ストリームが生成される。 - エラー耐性が低い
→ 途中でデータが欠落すると、その後の鍵ストリームとの整合性が崩れ、復号が困難になる。 - 代表的なアルゴリズム
→ RC4、Salsa20、ChaCha20 など。
【同期式ストリーム暗号のメリット・デメリット】
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
同期制御 | 送受信者が同じ鍵ストリームを使用するためシンプル | 途中でデータが欠損すると復号不能になる |
セキュリティ | 平文の影響を受けないため暗号強度が高い | 鍵ストリームの漏洩が致命的な脆弱性になる |
2-1-2. 自己同期式ストリーム暗号とは
自己同期式ストリーム暗号(Self-synchronizing Stream Cipher)は、直前の暗号文(Ciphertext)の一定数のビット(またはバイト)を用いて鍵ストリームを生成する方式です。
これにより、途中でデータが失われても、一定範囲のデータを受信すれば自動的に同期が復元されます。
【特徴】
- 鍵ストリームの生成に過去の暗号文を利用
→ 直前の暗号化データを元に新しい鍵ストリームを作成する。 - エラー耐性が高い
→ 途中でデータが欠損しても、一定のデータ量を受信すれば復号を再開できる。 - 代表的なアルゴリズム
→ Cipher Feedback (CFB) モード など。
【自己同期式ストリーム暗号のメリット・デメリット】
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
エラー耐性 | 途中のデータ欠損があっても一定範囲で復元可能 | 過去の暗号文に依存するため、改ざん攻撃に弱い |
セキュリティ | 一部の鍵ストリームが漏れても影響が限定的 | 過去の暗号文が漏れると解読リスクが高まる |
2-2. 鍵ストリーム生成の方法
ストリーム暗号では、暗号化の基盤となる鍵ストリームの生成方法が非常に重要です。
鍵ストリームが予測可能であると、攻撃者によって暗号が破られるリスクが高まるため、暗号強度の高い乱数を用いた鍵ストリームを生成する仕組みが求められます。
2-2-1. 鍵ストリーム生成部と結合部の構成
ストリーム暗号の基本構造は以下のように分かれます。
- 鍵ストリーム生成部
- 秘密鍵を基に擬似乱数を生成し、鍵ストリームを作成する。
- アルゴリズムによって鍵ストリームの品質(予測困難性)が決まる。
- 結合部(合成部)
- 生成された鍵ストリームと平文をXOR演算し、暗号文を作成する。
- 逆の手順を踏むことで、復号時に元の平文を復元する。
2-2-2. フィードバックシフトレジスタ(LFSR)による鍵ストリーム生成
ストリーム暗号の鍵ストリーム生成では、線形帰還シフトレジスタ(LFSR: Linear Feedback Shift Register)がよく用いられます。
【LFSRの仕組み】
LFSRは、以下の流れで擬似乱数を生成します。
- 初期値(シード)をセットする。
- 各クロックサイクルごとに、シフト演算と特定のフィードバック関数を適用する。
- 出力ビットを順番に連結し、鍵ストリームを形成する。
【LFSRのメリット・デメリット】
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
計算効率 | 計算が高速でハードウェア実装が容易 | 線形性があるため、単純な攻撃で予測される可能性がある |
乱数性 | 高速に擬似乱数を生成できる | 非線形な処理を加えないと暗号強度が低い |
したがって、現代のストリーム暗号では、単純なLFSRではなく、非線形関数やカオス理論を組み合わせた方式が採用されています。
代表的なストリーム暗号アルゴリズム
ストリーム暗号は、データを逐次的に暗号化することで高速な処理を実現する暗号方式です。
長年にわたり、多くのストリーム暗号アルゴリズムが開発されてきましたが、その中でもRC4、Salsa20、ChaCha20は特に注目されています。
本章では、かつて広く利用されていたRC4の特徴と脆弱性、および現在推奨されるSalsa20とChaCha20の利点について詳しく解説します。
3-1. RC4
RC4(Rivest Cipher 4)は、1990年代から2010年代前半にかけて最も広く使われたストリーム暗号アルゴリズムです。
特にSSL/TLS、WEP(無線LAN暗号化)、VPN、RDP(リモートデスクトップ)など、さまざまなプロトコルで採用されました。
3-1-1. RC4の特徴
RC4は、単純な構造と高速な処理が特徴のストリーム暗号です。その仕組みは以下のようになっています。
- 鍵長:40ビット〜256ビット(一般的には128ビット)
- 動作原理:鍵を初期化ベクトル(IV)と組み合わせて鍵ストリームを生成し、平文とXOR演算を行う
- 計算コスト:非常に低く、ソフトウェア実装でも高速に動作
【RC4のメリット】
- 高速な暗号化・復号処理
- 実装が容易
- 可変長の鍵を使用可能
しかし、現在ではRC4は安全ではないと判断され、ほとんどのシステムで非推奨とされています。その理由は次の脆弱性にあります。
3-1-2. RC4の脆弱性
RC4の最大の問題点は、鍵ストリームが完全にランダムではなく、特定のパターンが存在することです。
この特性を悪用した攻撃手法が複数発見され、実用レベルでの解読が可能になりました。
【代表的なRC4の脆弱性】
脆弱性名 | 内容 |
---|---|
鍵ストリームのバイアス | 初期の鍵ストリームが特定のパターンを持ち、暗号解読が容易になる |
WEPの脆弱性 | WEP(無線LAN暗号化)に使用された際、RC4の特性を悪用した攻撃により数分で鍵が解読される |
TLSの脆弱性(RC4バイアス攻撃) | TLS通信でRC4を使用すると、暗号文から平文を推測される可能性がある |
その結果、現在では主要なプロトコル(TLS 1.2以降など)ではRC4の使用が禁止されています。
【RC4の現在の評価】
- かつては広く利用されたが、現在は非推奨
- SSL/TLS、WEPなどのプロトコルではRC4の使用を避けるべき
- より安全なストリーム暗号(Salsa20、ChaCha20など)への移行が推奨される
3-2. Salsa20とChaCha20
近年、ストリーム暗号として推奨されているのが、Salsa20とChaCha20です。
これらはRC4に代わる安全なストリーム暗号として設計され、高速でありながら強固な暗号強度を持っています。
3-2-1. Salsa20の特徴
Salsa20は、2005年にDaniel J. Bernsteinによって提案されたストリーム暗号です。
RC4の脆弱性を克服し、高速かつ安全なストリーム暗号を実現することを目的として設計されました。
【Salsa20の主な特徴】
- 鍵長:128ビットまたは256ビット
- ブロックサイズ:64バイト
- 動作原理:カオス関数を用いた鍵ストリーム生成
- 高速性:ソフトウェア実装でもAESより高速
Salsa20は、安全性と高速性のバランスが良く、TLSやVPNなどのセキュリティプロトコルでの採用が進んでいます。
【Salsa20のメリット】
- RC4よりも安全な鍵ストリームを生成
- AESよりもソフトウェアで高速に動作
- 単純な設計で実装しやすい
3-2-2. ChaCha20の特徴
ChaCha20は、Salsa20の改良版として開発され、GoogleがTLS通信の標準暗号として採用したことで注目を集めました。
現在では、TLS 1.3やSSH、WireGuard VPNなどで広く使用されています。
【ChaCha20の主な特徴】
- Salsa20と同じ原理だが、拡張されたランダム性を持つ
- TLS 1.3の標準暗号として採用
- モバイルデバイスでも高速に動作(特にARMプロセッサとの相性が良い)
【ChaCha20のメリット】
- AESよりも処理が高速(特にソフトウェア実装)
- AESのハードウェアアクセラレーションがない環境でも優れた性能
- RC4やSalsa20よりもさらに強固な暗号強度
ストリーム暗号の用途と適用例
ストリーム暗号は、高速で軽量な暗号方式であり、リアルタイム性が求められる通信分野や、マルウェアなどのサイバー攻撃にも利用されることがあります。
本章では、ストリーム暗号がどのような分野で活用されているのかを詳しく解説します。
4-1. 通信分野での利用
ストリーム暗号は、データを逐次的に暗号化できるため、通信分野で広く使用されています。
特に、SSL/TLSや無線LAN(Wi-Fi)の暗号化において、ストリーム暗号は重要な役割を果たしてきました。
4-1-1. SSL/TLSにおけるストリーム暗号の利用
SSL(Secure Sockets Layer)およびTLS(Transport Layer Security)は、インターネット通信の暗号化プロトコルです。
ウェブサイトのHTTPS接続や、VPN、メール通信など、さまざまなセキュリティ確保のために利用されています。
かつて、TLS 1.0およびTLS 1.1では、ストリーム暗号のRC4が広く使われていました。
しかし、RC4には深刻な脆弱性が発見されたため、現在ではTLS 1.2以降での使用が禁止されています。
その代わりに、ChaCha20がTLS 1.3で標準採用されるなど、安全なストリーム暗号への移行が進んでいます。
【TLSにおけるストリーム暗号の変遷】
プロトコル | 使用されたストリーム暗号 | 現在の評価 |
---|---|---|
TLS 1.0 / 1.1 | RC4 | 脆弱性のため非推奨 |
TLS 1.2 | RC4(非推奨)、AES-GCM | RC4は禁止、AES-GCMが推奨 |
TLS 1.3 | ChaCha20-Poly1305 | 高速で安全な暗号方式として採用 |
このように、ストリーム暗号はTLSの進化とともに、安全な方式へと移り変わっています。

4-1-2. 無線LAN(Wi-Fi)の暗号化
Wi-Fiの通信を保護するために、ストリーム暗号は無線LANの暗号化プロトコルにも採用されてきました。
しかし、すべての方式が安全とは限りません。
【無線LANの暗号化方式とストリーム暗号の関係】
暗号化方式 | 使用されたストリーム暗号 | セキュリティ評価 |
---|---|---|
WEP(Wired Equivalent Privacy) | RC4 | 簡単に解読可能(非推奨) |
WPA(Wi-Fi Protected Access) | RC4 | WEPよりは強固だが、脆弱性あり |
WPA2 / WPA3 | AES(ブロック暗号) | 現在の推奨方式 |
WEPや初期のWPAではRC4が使用されていましたが、簡単に解読できることが判明したため、現在では使用が禁止されています。
現在の無線LANでは、AESベースのブロック暗号が標準となっていますが、ストリーム暗号のChaCha20は、低スペックなIoTデバイス向けの暗号化技術として注目されています。
4-2. その他の分野での利用
ストリーム暗号は、通信のセキュリティ強化だけでなく、マルウェアやランサムウェアなどの悪意のある目的にも利用されることがあります。
攻撃者は、ストリーム暗号の高速な暗号化特性を悪用し、検出を回避しながらデータを隠ぺいすることが可能です。
4-2-1. マルウェアによるストリーム暗号の利用
マルウェアは、検出を逃れるためにストリーム暗号を利用して通信データを暗号化します。特に、以下のようなケースで活用されています。
【マルウェアにおけるストリーム暗号の利用例】
マルウェアの種類 | ストリーム暗号の用途 |
---|---|
リモートアクセス型マルウェア(RAT) | 通信データの暗号化(検出回避) |
キーロガー | 盗んだパスワードをストリーム暗号で暗号化 |
コマンド&コントロール(C&C)通信 | C&Cサーバーとの通信を秘匿するために使用 |
このように、ストリーム暗号はセキュリティを高めるための技術である一方で、攻撃者によって悪用されるリスクも存在します。
4-2-2. ランサムウェアにおけるストリーム暗号の利用
ランサムウェアは、感染したコンピュータのデータを暗号化し、復号のために身代金を要求するマルウェアの一種です。
近年のランサムウェアでは、ストリーム暗号を活用して高速にデータを暗号化し、被害者が短時間で影響を受けるように設計されています。
【ストリーム暗号がランサムウェアに利用される理由】
- 高速に暗号化できるため、大量のファイルを短時間でロックできる
- XOR演算を用いる単純なストリーム暗号を組み合わせることで、解析を困難にする
- 鍵ストリームが予測困難なアルゴリズムを採用すれば、復号が不可能になる
【実際のランサムウェア攻撃でのストリーム暗号の例】
- Locky:RSA + RC4 を組み合わせてファイルを暗号化
- Petya:ディスク全体を暗号化し、ブート領域まで制御
- WannaCry:AESベースの暗号方式を使用(ストリーム暗号ではないが、初期バージョンにはRC4の利用が疑われるものもあった)
このように、ストリーム暗号は正当な用途だけでなく、サイバー攻撃の手段としても利用されることがあるため、適切なセキュリティ対策が求められます。
ストリーム暗号の安全性と課題
ストリーム暗号は、データを逐次的に暗号化する方式として通信の安全性向上に貢献しています。
しかし、ストリーム暗号の運用にはいくつかのリスクがあり、適切な管理を怠ると深刻な脆弱性を引き起こす可能性があります。
本章では、ストリーム暗号における鍵ストリームの再利用リスクと、RC4の脆弱性がもたらした影響について詳しく解説します。
5-1. 鍵ストリームの重複使用の危険性
ストリーム暗号の安全性は、鍵ストリームが一意(ユニーク)であることに依存しています。
つまり、同じ鍵ストリームを複数回使用すると、暗号が解読される可能性が高くなるのです。
5-1-1. 鍵ストリームの重複が引き起こすリスク
ストリーム暗号では、平文と鍵ストリームをXOR演算することで暗号化が行われます。
そのため、同じ鍵ストリームが再利用されると、攻撃者が暗号文のパターンを解析しやすくなるという問題があります。
【鍵ストリームの再利用がもたらすリスク】
- 平文の推測が容易になる
- 2つの暗号文が同じ鍵ストリームで暗号化されている場合、それらをXORすることで元の平文の違いを分析できる。
- これにより、攻撃者が機密情報を特定できる可能性がある。
- 既知平文攻撃(Known Plaintext Attack, KPA)
- もし攻撃者がある暗号文の元の平文を知っている場合、それを基に鍵ストリームを特定し、他の暗号文の復号が可能になる。
- 特に、固定された鍵を使用する環境では、この攻撃が非常に効果的。
- 選択平文攻撃(Chosen Plaintext Attack, CPA)
- 攻撃者が暗号化前のデータを意図的に操作し、暗号文を比較することで鍵ストリームを解析できる。
【具体的な攻撃例:WEP(無線LAN暗号)の脆弱性】
無線LANの暗号化方式であるWEP(Wired Equivalent Privacy)では、RC4を用いたストリーム暗号が採用されていました。
しかし、WEPの設計上の欠陥により、同じ鍵ストリームが繰り返し使用される問題が発生しました。
その結果、攻撃者は暗号化された通信を容易に解読でき、数分以内にWEPの鍵を破ることが可能になりました。
5-1-2. 鍵ストリームの再利用を防ぐ対策
鍵ストリームの重複使用を防ぐためには、以下の対策が重要です。
一度使用した鍵ストリームは二度と再利用しない
- 各セッションごとに異なる鍵または初期化ベクトル(IV)を使用する。
セキュアな鍵管理を行う
- 一意の乱数(Nonce)を組み合わせることで、鍵ストリームの重複を防ぐ。
ストリーム暗号ではなく、より安全なブロック暗号の利用を検討する
- 一部の用途では、AESのようなブロック暗号を採用する方が安全性が高い。
ストリーム暗号を安全に運用するには、常に新しい鍵ストリームを使用し、鍵管理を適切に行うことが不可欠です。
5-2. RC4の脆弱性とその影響
RC4はかつてストリーム暗号の代表的なアルゴリズムとして広く使用されていました。
しかし、近年ではRC4の深刻な脆弱性が次々と発見され、現在ではほとんどのセキュリティプロトコルで使用が禁止されています。
5-2-1. RC4の脆弱性
RC4の最大の問題点は、鍵ストリームに偏り(バイアス)があることです。
通常、暗号化されたデータは統計的にランダムであるべきですが、RC4では特定のパターンが現れやすいという特性があります。
これを悪用すると、攻撃者は暗号化されたデータの内容を推測しやすくなるのです。
【主なRC4の脆弱性】
- 鍵ストリームのバイアス(偏り)
- RC4の初期の鍵ストリームには、特定のバイトが高い確率で出現する傾向がある。
- これを利用することで、暗号文の一部を推測できる。
- TLSにおけるRC4攻撃
- TLS 1.0 / 1.1ではRC4が使用されていたが、攻撃者は数百万回のTLSハンドシェイクを観測することで、暗号化されたセッションの一部を復号できることが判明。
- その結果、TLS 1.2以降ではRC4の使用が禁止された。
- WEPの脆弱性
- 無線LANのWEPプロトコルでRC4が使用されていたが、鍵ストリームが繰り返し使用されることで容易に解読が可能だった。
- 現在ではWEPは完全に非推奨となり、WPA2やWPA3のような強固な暗号方式が使用されている。
5-2-2. RC4の影響と現在の評価
RC4の脆弱性により、多くのシステムでセキュリティリスクが発生しました。
そのため、主要なプロトコルではRC4の使用が禁止され、より安全な暗号方式へと移行が進んでいます。
【RC4の現在の評価】
使用プロトコル | RC4の採用状況 |
---|---|
TLS 1.0 / 1.1 | かつて採用されていたが、現在は非推奨 |
TLS 1.2 | RC4は禁止、AES-GCMが推奨 |
TLS 1.3 | RC4は完全に廃止、ChaCha20が推奨 |
WEP(無線LAN) | RC4を使用していたが、脆弱性のため廃止 |
WPA2 / WPA3 | AESベースの暗号方式が採用され、RC4は使用されていない |
そのため、現在ではRC4の使用を避け、ChaCha20やAESといったより安全な暗号方式を採用することが推奨されています。
最新のストリーム暗号の動向
ストリーム暗号は、データの逐次暗号化が可能であることから、リアルタイム通信や軽量デバイスに適した暗号方式として発展を続けています。
特に、近年ではセキュリティ強化のために新しい標準が策定され、推奨されるアルゴリズムも変化しています。
本章では、最新のストリーム暗号の標準化動向と推奨アルゴリズムについて詳しく解説します。
6-1. 標準化と推奨アルゴリズム
ストリーム暗号の標準化は、主にNIST(米国国立標準技術研究所)、IETF(インターネット技術タスクフォース)、ISO(国際標準化機構)などの国際機関によって進められています。
これらの機関は、既存の暗号アルゴリズムの安全性を評価し、推奨すべきストリーム暗号を選定しています。
6-1-1. ストリーム暗号の標準化動向
従来のストリーム暗号(RC4など)は脆弱性が指摘されており、より安全なアルゴリズムへの移行が進んでいます。近年の標準化の動向を以下にまとめます。
【ストリーム暗号の標準化の流れ】
年代 | 動向 |
---|---|
1990年代 | RC4がSSL/TLS、WEPなどで広く使用される |
2000年代 | WEPの脆弱性が発覚、RC4の安全性が疑問視される |
2010年代 | RC4が非推奨化され、Salsa20、ChaCha20などの新しいストリーム暗号が登場 |
2020年代 | ChaCha20がTLS 1.3の標準暗号として採用、IoT向けの軽量ストリーム暗号の研究が進む |
このように、古いストリーム暗号の廃止と、新しい安全なストリーム暗号の採用が進められていることが分かります。
6-1-2. 推奨されるストリーム暗号アルゴリズム
現在、国際的に推奨されているストリーム暗号の代表的なアルゴリズムを紹介します。
【現在推奨されるストリーム暗号】
アルゴリズム | 特徴 | 採用例 |
---|---|---|
ChaCha20 | 高速かつ安全、TLS 1.3で標準採用 | TLS 1.3、SSH、WireGuard |
Salsa20 | ChaCha20の前身、高速で安全 | 一部の暗号化アプリケーション |
Grain-128a | IoT向けの軽量暗号、エネルギー効率が高い | IoTデバイス、組み込みシステム |
Trivium | 低消費電力で動作、ハードウェア実装に最適 | スマートカード、ICチップ |
特に、ChaCha20は現在最も広く推奨されているストリーム暗号であり、GoogleやCloudflareなどの企業が採用しています。
6-1-3. ストリーム暗号の今後の展望
ストリーム暗号は、今後も進化を続けていくと考えられます。
特に、以下の分野での活用が期待されています。
IoTデバイス向けの超軽量ストリーム暗号の開発
- 低消費電力で動作する暗号アルゴリズムが求められている(例:Grain-128a、Trivium)
量子コンピュータ時代に向けた新しい暗号方式の研究
- 量子コンピュータによる攻撃に耐えうるストリーム暗号の開発が進行中
クラウド環境でのストリーム暗号の最適化
- ChaCha20などの高速暗号が、クラウドサービスの暗号化通信に採用される流れが加速
このように、ストリーム暗号は従来の通信セキュリティだけでなく、IoTやクラウド環境に適応する形で進化しています。