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パスワードレス認証とは?仕組み・メリット・導入事例を徹底解説!

「またパスワードを忘れてしまった…」そんな経験はありませんか?

近年、フィッシング詐欺や情報漏洩のリスクが高まり、パスワードの管理がますます複雑になっています。そこで注目されているのが「パスワードレス認証」です。

指紋認証や顔認証、セキュリティキーを活用し、パスワードを使わずに安全なログインを実現します。

本記事では、パスワードレス認証の仕組み・メリット・導入事例・今後の展望まで詳しく解説。

「本当に安全なの?」「導入コストは?」といった疑問にもお答えします。
パスワードに縛られない新しい認証の世界へ、一緒に踏み出してみませんか?

外資系エンジニア

この記事は以下のような人におすすめ!

  • パスワードレス認証とは何か知りたい人
  • 従来のパスワード認証と比べて本当に安全なのか
  • 導入コストはどれくらいかかるのか知りたい

パスワードレス認証とは?

1-1. パスワードレス認証の定義と概要

パスワードレス認証とは、従来のパスワードを使用せずにユーザーの本人確認を行う認証方式のことです。

これまで一般的だった「ユーザー名+パスワード」の組み合わせは、記憶の負担やセキュリティリスクが問題視されてきました。

パスワードレス認証は、こうした課題を解決するために登場した技術であり、セキュリティの向上利便性の向上を両立するものとして注目されています。

なぜパスワードレス認証が必要なのか?

パスワードを使用した従来の認証方法には、次のような課題がありました。

課題詳細
セキュリティリスクパスワードの使い回し、フィッシング攻撃、パスワード漏洩などのリスクがある
ユーザーの負担複数のパスワードを記憶しなければならず、管理が煩雑になる
運用コストパスワードリセット対応などのサポート業務が発生し、企業の負担が増加する

これらの課題を解決するために、指紋認証や顔認証、セキュリティキーなどを活用したパスワードレス認証が普及しつつあります。


1-1-1. パスワードレス認証の基本概念

パスワードレス認証は、パスワードを一切使用せずに、別の手段で本人確認を行う仕組みです。

主に以下の3つの方法が採用されています。

  1. 生体認証(バイオメトリクス)
    指紋認証や顔認証など、生体情報を利用して本人確認を行う方式。スマートフォンやPCで普及が進んでいる。
  2. デバイス認証(ハードウェアトークン)
    物理的なデバイス(例:FIDO2対応のセキュリティキー)を利用する方法。登録済みデバイスを使って認証するため、安全性が高い。
  3. マジックリンク・ワンタイムパスコード(OTP)
    メールやSMSで送信されるリンクやコードを利用する方式。一時的な認証情報を使用することで、パスワードを不要にする。
パスワードレス認証の流れ

一般的なパスワードレス認証の流れは以下の通りです。

  1. ユーザーがログインを試みる
  2. 登録済みの認証方法を選択
    • 例:指紋認証、顔認証、セキュリティキーの使用
  3. 認証が成功するとアクセスが許可される

このプロセスを経ることで、パスワードを記憶する必要がなくなり、より安全で便利なログインが可能になります。


1-1-2. パスワード認証との違いと背景

パスワードレス認証は、従来のパスワード認証とどのように違うのでしょうか?

以下の表にその違いをまとめました。

項目パスワード認証パスワードレス認証
セキュリティパスワード漏洩のリスクありフィッシングや漏洩のリスクが低い
利便性ユーザーがパスワードを記憶・管理する必要あり記憶不要で直感的な認証が可能
認証手段パスワード入力生体認証、セキュリティキー、OTPなど
運用コストパスワードリセット対応が必要パスワード管理が不要になり、運用負担が減る
なぜパスワードレス認証が広がっているのか?

パスワードレス認証が求められる背景には、以下の要因があります。

  1. セキュリティリスクの増大
    • パスワードの使い回しやフィッシング攻撃の増加により、従来のパスワード認証の安全性が低下している。
    • 企業のデータ漏洩事故の多くがパスワードの不適切な管理によるもの。
  2. 認証技術の進化
    • スマートフォンの普及により、指紋認証や顔認証が一般的になった。
    • FIDO2などの標準規格が整備され、多くのサービスで利用可能になった。
  3. ユーザー体験の向上
    • パスワードを覚える必要がなくなることで、ストレスなくログインできる。
    • スマートフォンやPCに標準搭載される認証機能を活用することで、手間がかからない。

パスワードレス認証の種類と仕組み

パスワードレス認証には、いくつかの異なる種類が存在します。

主に生体認証(バイオメトリクス)デバイス認証マジックリンク・ワンタイムパスコードの3つに分類できます。

それぞれの認証方法には特長があり、導入する環境や利用目的によって適した方式を選択することが重要です。


2-1. 生体認証(バイオメトリクス)

生体認証(バイオメトリクス)は、ユーザーの身体的特徴を利用して本人確認を行う認証方式です。

パスワードレス認証の中でも特に利便性が高く、多くのスマートフォンやノートPCで採用されています。

代表的な生体認証の種類には、以下の3つがあります。


2-1-1. 指紋認証

指紋認証は、指先の指紋パターンをスキャンし、本人確認を行う方法です。

スマートフォンやノートPC、オフィスの入退室管理などで広く利用されています。

指紋認証の仕組み
  1. 指紋センサーに指を置く
  2. 指紋データがデバイス内で照合される
  3. 一致すれば認証が完了し、ログインできる
指紋認証のメリット・デメリット
メリットデメリット
高速な認証が可能傷や乾燥などで認証失敗する場合がある
センサー搭載デバイスが多く普及している物理的な接触が必要
パスワード不要で手軽にログイン可能他人に指紋データをコピーされるリスクがある

2-1-2. 顔認証

顔認証は、ユーザーの顔の特徴をカメラで識別し、本人確認を行う認証方式です。

Appleの「Face ID」やWindowsの「Windows Hello」など、多くのデバイスで利用されています。

顔認証の仕組み
  1. デバイスのカメラでユーザーの顔をスキャン
  2. 登録済みの顔データと照合
  3. 一致すれば認証が完了し、ログインできる
顔認証のメリット・デメリット
メリットデメリット
手を使わずに認証できるマスクやサングラスで認証が難しくなる場合がある
精度の高い3D認証が可能(Face IDなど)照明の影響を受けやすい
デバイスによっては暗闇でも認証可能カメラが必要なため、対応デバイスが限定される

2-1-3. 虹彩認証

虹彩認証は、目の虹彩(瞳の周りにある輪状の部分)の模様をスキャンして本人確認を行う方法です。

他の生体認証と比べて精度が高く、ATMや政府機関のセキュリティシステムなどで採用されています。

虹彩認証の仕組み
  1. カメラや赤外線センサーで虹彩を撮影
  2. 登録された虹彩データと比較
  3. 一致すれば認証が完了する
虹彩認証のメリット・デメリット
メリットデメリット
精度が非常に高い専用のカメラや赤外線センサーが必要
偽造が困難メガネやコンタクトレンズの影響を受けることがある
非接触で認証可能普及率が低い

2-2. デバイス認証

デバイス認証は、登録済みのデバイスを使ってログインを行う方式です。

主にセキュリティキー(FIDO2)やモバイルデバイスを利用する方法があります。


2-2-1. セキュリティキー(FIDO2など)

FIDO2とは、物理的なセキュリティキー(USBやNFC)を利用して認証を行う技術です。

GoogleやMicrosoftなどの大手企業が採用しており、高いセキュリティを誇ります。

セキュリティキー認証の仕組み
  1. USB/NFC対応のセキュリティキーをデバイスに接続
  2. キー内の秘密鍵を使用して認証
  3. 認証成功後、ログインが完了
メリット・デメリット
メリットデメリット
フィッシング攻撃に強いセキュリティキーを紛失するとログインできない
高いセキュリティ性能専用デバイスが必要
オンライン認証だけでなく、社内ネットワークでも利用可能価格がやや高め

2-2-2. モバイルデバイスを用いた認証

スマートフォンを利用したデバイス認証は、スマホのアプリやBluetooth、NFCを活用して本人確認を行う方法です。

GoogleやMicrosoftアカウントのログイン時にスマホ通知を使うのが代表例です。

スマホ認証の仕組み
  1. PCやWebサイトでログインを試みる
  2. 登録済みスマホに通知が届く
  3. スマホで認証(指紋・顔認証など)を行う
  4. 認証成功後、ログインが完了

2-3. マジックリンクとワンタイムパスコード

これらは、一時的な認証情報を利用することでパスワード不要のログインを実現する方式です。


2-3-1. マジックリンクの仕組み

マジックリンクとは、メールに送られてくるURLをクリックすることでログインする方法です。

主にWebサービスやSaaSで使われています。

仕組み
  1. ログイン画面でメールアドレスを入力
  2. 認証用のリンクがメールで送信される
  3. リンクをクリックすると、自動的にログイン完了

2-3-2. ワンタイムパスコードの利用方法

ワンタイムパスコード(OTP)は、一定時間のみ有効なコードを利用して認証する方法です。
スマホのアプリ(Google Authenticatorなど)やSMSで利用されます。

仕組み
  1. ログイン時にワンタイムコードが発行される
  2. SMSや認証アプリでコードを受け取る
  3. 入力するとログインが完了

パスワードレス認証のメリット

パスワードレス認証は、従来のパスワードを用いた認証方式に比べてセキュリティの向上ユーザーエクスペリエンスの向上運用コストの削減といった多くのメリットがあります。

近年、サイバー攻撃の増加やパスワード管理の煩雑さから、多くの企業がパスワードレス認証を導入し始めています。ここでは、具体的なメリットについて詳しく解説します。


3-1. セキュリティの向上

パスワードレス認証の最大のメリットはセキュリティの向上です。

パスワードを使用しないことで、パスワード関連の攻撃(フィッシングやリスト型攻撃など)を根本的に防ぐことができます。


3-1-1. フィッシング攻撃への耐性

フィッシング攻撃とは、偽のログインページにユーザーを誘導し、IDやパスワードを盗み取る攻撃です。

この攻撃手法は非常に一般的で、多くの企業や個人が被害を受けています。

パスワードレス認証なら、フィッシング攻撃を大幅に防ぐことが可能です。

なぜなら、パスワード自体を使わないため、攻撃者が盗み取るべき情報がそもそも存在しないからです。

例えば、FIDO2規格のセキュリティキーを利用する場合、秘密鍵はデバイス内に安全に保存されており、第三者に渡ることがありません

そのため、攻撃者が偽のログインページを作成したとしても、ユーザーの認証情報を奪うことはできません。


3-1-2. パスワード漏洩リスクの低減

パスワードが流出すると、攻撃者が不正アクセスを行う危険性が高まります。

特に、リスト型攻撃(過去に流出したID・パスワードのリストを使い、他のサービスに不正ログインを試みる攻撃)は深刻な問題です。

パスワードレス認証を導入すると、以下の理由でパスワード漏洩リスクが大幅に低減します。

  • パスワードがそもそも存在しないため、盗まれる心配がない
  • 生体認証やデバイス認証を活用することで、認証情報を安全に管理できる
  • サーバー側でパスワードを保持しないため、データベースのハッキングによる情報流出を防げる

このように、パスワードレス認証を採用することで、ユーザー情報の流出リスクを最小限に抑えることが可能です。


3-2. ユーザーエクスペリエンスの向上

パスワードレス認証は、単にセキュリティを向上させるだけでなく、ユーザーの利便性も向上させるメリットがあります。

パスワードを覚える必要がなくなることで、ログインの手間が大幅に減少し、ストレスのない認証体験を実現できます。


3-2-1. ログイン手続きの簡略化

従来のパスワード認証では、ユーザーは次のような手順を踏む必要がありました。

  1. ユーザー名を入力
  2. パスワードを入力
  3. 場合によっては二要素認証(SMSコードや認証アプリ)を入力
  4. ログイン完了

一方、パスワードレス認証では、以下のようにシンプルな手順でログインできます。

  1. 指紋認証や顔認証を行う
  2. または、スマホに届いた通知を承認する
  3. ログイン完了

このように、パスワードを入力する手間がなくなることで、スムーズなログインが可能になります。


3-2-2. パスワード管理の負担軽減

パスワードを複数のサービスで使い回すことは、セキュリティ上の大きなリスクです。

しかし、全てのサービスごとに異なるパスワードを設定すると、ユーザーの管理負担が増加し、結果としてパスワード忘れやリセット手続きが頻発するという問題が発生します。

パスワードレス認証を導入すれば、この問題を解決できます。

ユーザーは、指紋認証・顔認証・セキュリティキーなどを利用するだけで、複数のサービスに簡単にアクセスできるようになります。

  • パスワードを覚える必要がない
  • パスワード管理ツールに頼る必要がなくなる
  • 定期的なパスワード変更の手間が不要になる

このように、パスワードレス認証は、ユーザーの負担を軽減し、快適なログイン体験を提供することができます。


3-3. 運用コストの削減

企業にとって、パスワード管理にかかるコストは無視できない問題です。

パスワードレス認証を導入することで、サポート業務の負担を軽減し、運用コストを削減することができます。


3-3-1. パスワードリセット対応の減少

企業のITサポート部門では、パスワードリセットの対応が大きな負担となっています。

特に、以下のような問題が発生することが多いです。

  • パスワードを忘れたユーザーからの問い合わせが頻発
  • パスワードリセット手続きを行うためのコストがかかる
  • パスワードリセット時にフィッシング攻撃のリスクが高まる

パスワードレス認証を導入すれば、そもそもパスワードを使用しないため、パスワードリセット対応が不要になります。

その結果、サポート業務の負担が大幅に軽減され、コスト削減につながります。


3-3-2. サポート業務の効率化

パスワードに関連するサポート業務が減ることで、企業のIT部門はより重要な業務に集中できるようになります。

また、セキュリティリスクが低下することで、データ漏洩などのインシデント対応にかかるコストも削減できます。

パスワードレス認証による業務効率化の具体例

  • パスワードリセット対応が不要になる
  • セキュリティインシデントの発生頻度が低下
  • 認証に関するヘルプデスク業務の負担が減少

このように、パスワードレス認証は企業のコスト削減にも貢献する重要な技術といえます。

パスワードレス認証導入の課題と対策

パスワードレス認証は、セキュリティの向上や利便性の向上といった多くのメリットをもたらしますが、導入にはいくつかの課題も伴います。

企業や組織がスムーズに導入を進めるためには、これらの課題を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

ここでは、導入コストと既存システムとの互換性、ユーザー教育、端末紛失や故障時の対応策という3つの主要な課題について詳しく解説し、それぞれの対策を紹介します。


4-1. 導入コストと既存システムとの互換性

パスワードレス認証の導入を検討する際、多くの企業が直面するのが「コスト」と「既存システムとの互換性」の問題です。

どのような方式を採用するかによって、必要な投資額や導入の難易度が変わるため、事前の十分な検討が不可欠です。


4-1-1. 初期投資とROIの検討

パスワードレス認証の導入には、ハードウェアの購入、ソフトウェアの導入、システム開発・統合といったコストが発生します。

企業が導入を決める際には、これらのコストとROI(投資対効果)を慎重に比較する必要があります。

初期投資に含まれるコスト
項目内容
ハードウェアコストセキュリティキー(FIDO2対応)、生体認証デバイスなど
ソフトウェア導入費パスワードレス認証対応の認証基盤や管理ツール
開発・統合費用既存システムへの統合・API連携の開発費
ユーザー教育費社内トレーニングやマニュアル作成
ROI(投資対効果)のポイント
  • パスワードリセット対応の削減 → ITサポートコストの低減
  • ログイン時間短縮 → 従業員の生産性向上
  • フィッシングやリスト型攻撃の防止 → セキュリティ事故対応コストの削減

対策としては、段階的な導入(小規模な試験運用から開始)や、クラウドサービスの活用などが挙げられます。

また、政府や大企業が採用するFIDO2認証などの標準規格を利用することで、コストを抑えつつ長期的な互換性を確保できます。


4-1-2. 既存システムとの統合性確認

パスワードレス認証を導入する際、既存の業務システムやクラウドサービスとの互換性があるかどうかを事前に確認することが重要です。

特に、多くの企業はActive Directory(AD)やシングルサインオン(SSO)を利用しており、これらとの連携がスムーズに行えるかがポイントとなります。

主な統合の課題
  • 古いシステムがパスワードレス認証に対応していない
  • 既存のID管理システムとの連携が必要
  • 複数の認証方式(生体認証・セキュリティキーなど)に対応させる必要がある
対策
  • FIDO2/WebAuthn対応の認証基盤を活用
  • SSOプロバイダー(Okta、Azure ADなど)と連携
  • レガシーシステムとの互換性を確保するため、パスワードレス認証とパスワード認証のハイブリッド運用を検討

このように、既存の環境に適した統合方法を選択し、段階的に移行を進めることが重要です。


4-2. ユーザー教育と受け入れ

新しい認証方式を導入する際には、ユーザーが適切に理解し、抵抗なく受け入れられるかが成功の鍵となります。

特に、生体認証やセキュリティキーを初めて使うユーザーにとっては、導入初期のサポートが重要です。


4-2-1. ユーザーへの周知とトレーニング

パスワードレス認証をスムーズに導入するためには、事前に従業員や利用者に十分な説明を行い、トレーニングを実施することが不可欠です。

周知・トレーニングのポイント
  • パスワードレス認証のメリットを分かりやすく説明
  • 導入スケジュールを明確に伝える
  • 実際の操作方法をデモンストレーションする
  • FAQやサポート窓口を設置し、疑問点に迅速に対応

特に、シニア層の従業員やITリテラシーの低いユーザーには、動画マニュアルやハンズオン形式の研修を用意すると効果的です。


4-2-2. 利用者からのフィードバック収集

導入後の定着を促すためには、ユーザーの意見を積極的に収集し、改善を重ねることが重要です。

フィードバック収集の方法
  • 定期的なアンケート調査
  • ヘルプデスクへの問い合わせ分析
  • 社内コミュニティやフォーラムを活用

ユーザーの不満や困りごとを早期に把握し、適切な対応を行うことで、導入後の定着率を高めることができます。


4-3. 端末紛失や故障時の対応策

パスワードレス認証では、スマートフォンやセキュリティキーなどのデバイスを利用するケースが多いため、紛失や故障時の対策が必要です。

適切なリカバリー方法を用意し、ユーザーが安心して利用できる環境を整えることが重要です。


4-3-1. 代替認証手段の提供

デバイスを紛失・故障した際に、すぐに別の認証手段でログインできるようにすることが求められます。

代替手段の例
  • 複数のデバイスを登録可能にする(例:スマートフォンとPCの両方を登録)
  • バックアップコードを発行する
  • 一時的なPINコードを利用できる仕組みを導入する

4-3-2. 緊急時のサポート体制構築

ユーザーが認証に関するトラブルに直面した際、迅速に対応できる体制を整えることが重要です。

サポート体制のポイント
  • 24時間対応のサポート窓口を設置
  • デバイスの紛失・故障時の対処フローを明確化
  • 本人確認プロセスを確立し、安全に再登録できる仕組みを作る

パスワードレス認証の導入事例

パスワードレス認証は、セキュリティの強化とユーザーエクスペリエンスの向上を目的に、国内外のさまざまな企業で導入が進んでいます。

以下に、国内および海外の企業における具体的な導入事例を紹介します。


5-1. 国内企業の導入事例

日本国内でも、多くの企業がパスワードレス認証を採用し、その効果を実感しています。


5-1-1. 大手企業における成功事例

Yahoo! JAPAN

2023年3月14日、Yahoo! JAPANはパスワードレス認証であるパスキーへの対応を開始しました。​

この導入により、ユーザーからの問い合わせが25%削減され、ログイン時間が2.6倍速くなるなどの効果が報告されています。

​​これにより、ユーザーエクスペリエンスの向上とセキュリティ強化を同時に実現しています。

NTTドコモ

2023年4月5日、NTTドコモはdアカウントへのパスキー対応を開始しました。​

2024年には、パスキーによるdアカウント認証が全体の50%に達し、オンラインショップでの不正購入が2年以上観測されていないとの報告があります。​​

これにより、ユーザーの安全性と利便性が大幅に向上しました。

メルカリ

2023年4月14日、メルカリは一部のログインにパスキー対応を開始し、2024年1月29日には全てのログインに展開しました。​

パスキーの登録者数は700万人に達し、パスキーを利用するユーザーに関しては不正ログインが観測されていないとのことです。​​

これにより、ユーザーの信頼性と取引の安全性が高まりました。


5-1-2. 中小企業での活用事例

オプテージ

2023年6月28日、オプテージはmineoとeo光で使用するeoIDへのパスキー対応を開始しました。​​

これにより、ユーザーはより安全で簡単にサービスを利用できるようになり、顧客満足度の向上に寄与しています。

マネーフォワード

2023年4月3日、マネーフォワードはマネーフォワードIDへのパスキー対応を開始しました。​​

これにより、ユーザーはパスワード管理の煩わしさから解放され、サービス利用時の利便性が向上しました。


5-2. 海外企業の導入事例

海外でも、多くの企業がパスワードレス認証を導入し、さまざまな成果を上げています。


5-2-1. グローバル企業の取り組み

Google

2023年5月3日、GoogleはGoogleアカウントへのパスキー対応を開始し、同年10月10日には個人向けGoogleアカウントの標準としました。​​

これにより、ユーザーはより安全で迅速なアクセスが可能となり、セキュリティと利便性の両立を実現しています。

アドビ

2023年5月16日、アドビはパスキーへの対応を開始しました。​​

これにより、ユーザーはアドビの各種サービスに安全かつスムーズにアクセスできるようになりました。

PayPal

2023年6月14日、PayPalは日本においてパスキーへの対応を開始しました(米国では2022年10月に開始済み)。

​​これにより、ユーザーはより安全で迅速な決済体験を享受しています。


5-2-2. スタートアップでの導入効果

GitHub

2023年7月12日、GitHubはパスキーへの対応を開始しました。

​​これにより、開発者はより安全かつ迅速にリポジトリへアクセスできるようになり、プロジェクトの効率化とセキュリティ強化が図られています。

ハイアットホテルズ

ハイアットホテルズは、YubiKeyを導入することでパスワードレス認証を実現しました。​

これにより、スタッフはゲストとのアイコンタクトを増やし、シームレスな顧客体験を提供しています。​

また、YubiKeyの導入により、ワンタイムパスワードやSMS認証に比べて最大4倍も早く認証が完了し、業務効率が向上しています。

​​cloudgate.jp

パスワードレス認証の今後の展望

パスワードレス認証は、セキュリティ強化と利便性向上の両面で注目され、今後ますます普及していくと考えられます。

特に、技術の進化や国際的な標準化、ユーザーのセキュリティ意識の変化が、パスワードレス認証の発展を後押ししています。

ここでは、今後の展望として、技術の進化、規格化と標準化の動向、ユーザー意識の変化について詳しく解説します。


6-1. 技術の進化と新たな認証手段の登場

パスワードレス認証の進化に伴い、AI技術の活用ウェアラブルデバイスとの連携が進んでいます。

これにより、従来の指紋認証や顔認証だけでなく、より高度で便利な認証方法が登場しています。


6-1-1. AIを活用した認証技術の発展

AI技術の進化により、認証方法がより精度の高いものへと変化しています。

例えば、ディープラーニングを活用した顔認証行動パターンを分析する行動認証が実用化されつつあります。

AIを活用した認証技術の例
  • AI顔認証
    • 通常の顔認証に加え、表情の変化やまばたきの検出を行い、偽造防止を強化
    • カメラの角度や照明の影響を受けにくくなる
  • 行動認証
    • スマートフォンの持ち方、歩き方、タイピング速度などを分析して本人確認
    • 例えば、銀行のモバイルアプリで、特定のユーザーの「スマホの持ち方」をAIが学習し、不正アクセスを防止

このように、AIを活用することで、より安全で利便性の高いパスワードレス認証が実現されています。


6-1-2. ウェアラブルデバイスとの連携

スマートウォッチやスマートリングなどのウェアラブルデバイスとパスワードレス認証を組み合わせる動きも進んでいます。

これにより、手間なく、かつ高いセキュリティを確保できる認証方式が実現されつつあります。

ウェアラブル認証の具体例
  • Apple Watchを使ったMacのロック解除
  • スマートリングを使った物理的なドアの開閉
  • 心拍データや血流パターンを利用した本人認証

ウェアラブルデバイスの進化により、スマートフォンすら取り出さずに認証を完了できる未来が現実のものとなりつつあります。


6-2. 規格化と標準化の動向

パスワードレス認証の普及を後押しするためには、認証技術の標準化が不可欠です。

現在、世界中でパスワードレス認証の標準規格化が進んでおり、特にFIDOアライアンスの取り組みが注目されています。


6-2-1. FIDOアライアンスの最新動向

FIDOアライアンス(Fast IDentity Online Alliance)は、パスワードレス認証の標準化を推進する団体で、Google、Apple、Microsoftなどの大手企業が加盟しています。

最近では、FIDO2/WebAuthnの普及が加速しており、多くのWebサービスが対応を進めています。

最新の動向
  • FIDOパスキーの普及
    • Apple、Google、Microsoftが**「パスキー(Passkey)」**を標準化し、ユーザーが簡単にパスワードレス認証を利用できる環境を整備
  • 企業向けFIDOソリューションの拡充
    • クラウドサービスや社内システムでも、パスワードレス認証を導入する企業が増加
  • モバイルデバイスとの連携強化
    • FIDO認証を利用したスマートフォンロック解除や、アプリログインの実装が進む

FIDO規格の普及が進むことで、今後ますます多くのサービスがパスワードレス認証に対応していくと予想されます。


6-2-2. 各国の法規制と標準化の取り組み

各国の政府や規制機関も、パスワードレス認証の普及を促進するために法整備を進めています。

世界の主な動向
国・地域主な取り組み
アメリカ国家機関でFIDO認証を導入。大統領令によりゼロトラスト戦略を推進
EUeIDAS 2.0(電子認証規格)の改訂により、パスワードレス認証の活用を推奨
日本総務省が「デジタルIDの標準化」を進め、パスワードレス認証の普及を支援

このように、政府レベルでの標準化が進むことで、パスワードレス認証が社会全体に広がる可能性が高まっています。


6-3. ユーザーのセキュリティ意識の変化

パスワードレス認証が普及するためには、ユーザー自身のセキュリティ意識の変革も重要な要素です。

特に、パスワードの使い回し問題やフィッシング攻撃の増加を受け、多くの人がより安全な認証方法を求めるようになっています。


6-3-1. パスワードレス普及による意識改革

パスワードレス認証が一般化するにつれて、ユーザーのセキュリティに対する考え方も変わってきています。

例えば、以下のような意識の変化が見られます。

  • 「パスワードを覚えなくてもいい」という安心感
  • 「顔認証や指紋認証の方が安全で便利」と感じる人が増加
  • 「セキュリティキーを持ち歩くのが当たり前」という文化の定着

特に、スマートフォンの普及によって、多くの人が日常的に指紋認証や顔認証を使用するようになり、「パスワードは不要なもの」という考えが一般化しつつあります。


6-3-2. セキュリティ教育の重要性

パスワードレス認証の普及に伴い、ユーザーへのセキュリティ教育もますます重要になっています。

特に、企業や組織では、以下のような取り組みが求められます。

  • パスワードレス認証のメリットと安全性を周知
  • 新しい認証方法に関する研修を実施
  • フィッシング詐欺やソーシャルエンジニアリングへの警戒心を高める

ユーザーのリテラシーを高めることで、パスワードレス認証の安全性がさらに向上し、より広く普及することが期待されます。