PVST+を設定したのに冗長リンクが片側しか使われない、特定VLANだけ通信が不安定、切替の収束が遅くてヒヤッとする。
そんな悩みは、VLANごとのルート設計やBPDUの見え方を押さえるだけで改善できることが多いです。
本記事ではPVST+の仕組みをやさしく整理し、STPやRapid PVST+、MSTPとの違い、Ciscoでの設定例、原因切り分けまで実務目線で解説します。
この記事は以下のような人におすすめ!
- PVST+とは何か知りたい
- VLANごとにルートブリッジやブロックポートが変わる仕組みが理解できない
- どのような場面でPVST+が利用できるか知りたい。
目次
PVST+ の基本概念
PVST+は、スイッチを複数台つないだときに起きやすい「ループ(同じフレームがネットワーク内をぐるぐる回ってしまう状態)」を防ぐための仕組みであるSTP(Spanning Tree Protocol)を、VLANごとに賢く使えるようにしたCisco系の拡張機能です。
つまり、PVST+を理解すると「VLANごとに最適な経路を選びつつ、ループも防ぐ」という設計ができるようになります。
したがって、社内ネットワークやキャンパスLANでVLANを多用している環境ほど、PVST+の基本概念を押さえる価値が高いです。
1-1. PVST+ とは何か
PVST+(Per-VLAN Spanning Tree Plus)は、VLANごとに独立したスパニングツリーを動かす仕組みです。
通常のSTP(802.1D)では、基本的にスイッチ全体で1つのスパニングツリーを作るため、「あるVLANでは遠回りになる」「冗長リンクが活かせない」といった悩みが出やすくなります。
一方でPVST+は、VLAN単位でルートブリッジやブロックポートが変わり得るため、VLANごとにトラフィックの流れを最適化できます。
なぜなら、VLANごとに“別の論理ネットワーク”として経路制御できるからです。
1-1-1. PVST+ が解決する典型的な課題
- VLAN10はスイッチAを中心に最短で流したい
- VLAN20はスイッチBを中心に最短で流したい
- しかし物理的には同じスイッチ群・同じ冗長リンクを使う
このときPVST+なら、VLAN10とVLAN20で別々のツリーを作り、冗長リンクを「ただの待機」ではなく「VLANごとに使い分け」しやすくなります。
1-2. PVST+ が生まれた背景と役割
PVST+が求められた背景には、ネットワークの現場でよくある次の事情があります。
- VLANの普及で、1つの物理ネットワーク上に複数の論理ネットワークが共存するようになった
- 冗長構成(リンクやスイッチの二重化)が当たり前になった
- しかしSTPが1本のツリーしか作れないと、冗長リンクが活かしにくい
つまり、「ループ防止は必要だが、冗長リンクも有効活用したい」という相反する要求がありました。
そこでPVST+が登場し、VLAN単位の最適化とループ防止を両立しやすくしたのです。
1-2-1. PVST+ の役割を一言で言うと
PVST+の役割は、次の2つを同時に満たすことです。
- ループを起こさない(ネットワークを止めない)
- VLANごとに最適な経路設計を可能にする(冗長構成を活かす)
1-2-2. どんな環境でPVST+が効くのか
PVST+は、特に次のような環境で効果を発揮します。
- VLANが複数あり、トラフィックの流れを分けたい
- 上位/下位スイッチが冗長化されている
- コア/ディストリビューション構成で経路を意図的に設計したい
反対に、VLAN数が非常に多い環境では管理や負荷の観点で別方式(MSTなど)も検討対象になります。
したがって、PVST+は「VLAN数と運用規模に応じて選ぶ」ことが重要です。
1-3. PVST+ の構造と動作原理
PVST+の動作原理は、基本的にはSTPと同じ考え方に立っています。
ただし決定的な違いは、VLANごとにツリー(論理構造)を別々に作る点です。結果として、VLANごとに次の要素が独立して決まります。
- ルートブリッジ(中心となるスイッチ)
- ルートポート(ルートへ向かう最優先ポート)
- 指定ポート(セグメント側の代表ポート)
- ブロックされるポート(ループ防止のため止めるポート)
つまり、同じ物理ポートでも「VLAN10では転送、VLAN20ではブロック」といった設計が起こり得ます。
1-3-1. PVST+ の“VLANごと”をイメージする(簡易表)
同じ2本の冗長リンクがあっても、VLANごとに使い方を変えられます。
| 観点 | VLAN10 のツリー | VLAN20 のツリー |
|---|---|---|
| ルートブリッジ | スイッチA | スイッチB |
| 主に使う上りリンク | Link1 | Link2 |
| ブロックされやすい側 | Link2側の一部 | Link1側の一部 |
このように、PVST+は冗長リンクをVLANごとに分散利用しやすくします。したがって、帯域の有効活用や経路設計の自由度が上がります。
1-3-2. PVST+ におけるBPDUの考え方
STP系のプロトコルは、BPDU(Bridge Protocol Data Unit)という制御フレームを使って「誰をルートにするか」「どのポートを止めるか」を決めます。
PVST+ではこれがVLAN単位の扱いになります。つまり、VLANごとにBPDU情報が存在し、それぞれでツリー計算が進みます。
その結果、次のような現象が自然に起こります。
- VLANごとにルート選出が変わる
- VLANごとにブロッキングポートが変わる
- 収束(再計算)もVLAN単位で影響が出る
1-3-3. PVST+ を理解するうえで押さえるポイント
最後に、PVST+の基本概念として重要なポイントを整理します。
- PVST+は「VLANごとのSTP」である
- VLAN単位でルートブリッジとブロックポートが決まる
- 冗長リンクをVLANごとに活かしやすい
PVST+ とスパニングツリーの関係
PVST+を理解するうえで避けて通れないのが、STP(スパニングツリー)の各方式との関係です。
なぜなら、PVST+はSTPの考え方を土台にしつつ、VLAN運用や収束速度、スケール(VLAN数やスイッチ規模)といった現場の課題に合わせて発展してきた仕組みだからです。
ここでは「STP(802.1D)」「Rapid PVST+」「MSTP」と比較しながら、PVST+を選ぶ判断軸が自然に身につくように整理します。
2-1. STP(802.1D)との違い
STP(IEEE 802.1D)は、レイヤ2でループを防ぐための基本プロトコルです。
ただし、STPは原則としてスイッチ全体で1つのスパニングツリーを作るため、VLANを多用する現代ネットワークでは「最適化しづらい」という壁に当たりやすくなります。そこで登場するのがPVST+です。
2-1-1. 一番大きな違いは「ツリーの単位」
- STP(802.1D):基本はスイッチ全体で1つのツリー
- PVST+:VLANごとにツリー(VLAN単位でルートやブロックが変わる)
つまり、STPでは冗長リンクが「全VLANに対して」同じようにブロックされがちです。
一方でPVST+は、VLANごとに経路を変えられるため、冗長リンクをVLAN単位で使い分けやすいです。
2-1-2. 現場で効くポイント(設計の自由度)
PVST+が評価される理由は、次のような設計ができるからです。
- VLAN10はスイッチAをルートにして上りを最短化
- VLAN20はスイッチBをルートにして負荷分散
- それでもループは起こさない
したがって、VLAN単位でトラフィックを分散したいネットワークでは、STP(802.1D)よりPVST+のほうが扱いやすい場面が多いです。
2-1-3. ざっくり比較表
| 観点 | STP(802.1D) | PVST+ |
|---|---|---|
| ツリーの単位 | 全体で1つが基本 | VLANごと |
| ルートブリッジ | 全体で1つ | VLANごとに変えられる |
| 冗長リンクの活用 | しづらいことがある | VLANごとに活かしやすい |
| 運用の複雑さ | 比較的シンプル | VLAN数次第で複雑化 |
2-2. PVST+ と Rapid PVST+ の違い
PVST+を使っていて次に気になるのが、「Rapid PVST+って何が違うの?」という点です。
結論から言うと、**違いの中心は“収束の速さ”**です。つまり、障害やリンク切替が起きたときに、どれだけ早く通信が復旧するかが変わります。
2-2-1. Rapid PVST+ は「RSTP(802.1w)ベース」
- PVST+:従来STP(802.1D)の考え方がベース
- Rapid PVST+:**RSTP(802.1w)**の高速収束ロジックを、VLANごとに適用
その結果、Rapid PVST+はリンク障害やトポロジ変更時の復旧が速くなりやすいです。なぜなら、RSTPはポートの役割やハンドシェイクの仕組みが改良されているからです。
2-2-2. “速い”が効くのはどんなときか
Rapid PVST+が効く典型は次の通りです。
- IP電話やビデオ会議など、瞬断に弱い通信が多い
- アクセス回線や上り回線が障害で切り替わる可能性がある
- ネットワークの変更作業が多く、収束待ちがストレスになる
したがって、PVST+で運用できていても「切替が遅い」「復旧が気になる」という悩みが出たら、Rapid PVST+が候補になります。
2-2-3. ざっくり比較表
| 観点 | PVST+ | Rapid PVST+ |
|---|---|---|
| ベース規格 | STP(802.1D)系 | RSTP(802.1w)系 |
| 収束速度 | 比較的遅めになりやすい | 速い |
| ツリーの単位 | VLANごと | VLANごと |
| 向いている環境 | 小〜中規模で安定重視 | 収束速度重視、変更や障害に強くしたい |
2-3. PVST+ と MSTP の違い
VLANが増えてくると、「PVST+は便利だけど、VLANごとにツリーを持つのは重いのでは?」という疑問が出ます。
ここで比較対象になるのがMSTP(Multiple Spanning Tree Protocol)です。
2-3-1. MSTPは「VLANをグループ化してツリーを減らす」
- PVST+:VLANごとにツリー(VLAN数だけ制御が増えやすい)
- MSTP:VLANを複数のインスタンス(グループ)にまとめ、ツリー数を抑える
つまり、MSTPはスケール(大規模化)に強い設計です。
その結果、VLANが数十〜数百になる環境では、PVST+よりMSTPが運用しやすくなることがあります。
2-3-2. 設計思想の違い(自由度 vs スケール)
ここが判断の分かれ目です。
- PVST+:VLAN単位で細かく最適化しやすい
- MSTP:最適化の粒度は落ちるが、管理や制御を軽くできる
したがって、「VLANごとに負荷分散したい」ならPVST+が有利になりやすく、「VLANが多すぎて制御や運用が大変」ならMSTPが有利になりやすいです。
2-3-3. ざっくり比較表
| 観点 | PVST+ | MSTP |
|---|---|---|
| ツリーの単位 | VLANごと | インスタンス(VLANを束ねる) |
| ツリー数 | VLAN数に比例しやすい | インスタンス数に比例(抑えやすい) |
| 最適化の細かさ | 高い(VLAN単位) | 中(グループ単位) |
| 大規模運用 | VLAN数が多いと負荷・複雑さが増えがち | スケールしやすい |
| 向いている環境 | VLAN設計を細かく制御したい | VLANが多く管理負荷を下げたい |
2-3-4. 選定の目安(迷ったときの考え方)
- VLAN数が少〜中程度で、VLAN単位の最適化を重視するなら PVST+
- VLAN数が多く、ツリー数や運用負荷を抑えたいなら MSTP
- そして収束速度が課題なら、PVST+系でも Rapid PVST+ を検討
PVST+ の仕組みをわかりやすく理解する
PVST+を「設定コマンドとして知っている」状態から一歩進むには、内部で何が起きているかをイメージできることが大切です。
つまり、PVST+はVLANごとに別々のスパニングツリーを作るため、ルートブリッジの選ばれ方、BPDUの流れ方、ポートが転送・遮断に切り替わる理由を理解すると、一気にトラブル対応が楽になります。
ここでは、現場でつまずきやすい3点を順番に整理します。
3-1. VLAN ごとのルートブリッジ制御
PVST+の最大の特徴は、VLANごとにルートブリッジ(中心になるスイッチ)を変えられることです。
したがって、VLAN10はスイッチAを中心に、VLAN20はスイッチBを中心に、といった「VLAN単位の経路設計」が可能になります。
3-1-1. ルートブリッジはどう決まるのか
PVST+でも基本ルールはSTPと同じで、次の順番で決まります。
- ブリッジID(Bridge ID)が最小のスイッチがルートになる
- ブリッジIDは主に「優先度(Priority)」と「MACアドレス」で決まる
- PVST+ではこれがVLANごとに評価される
つまり、VLAN10用のブリッジIDと、VLAN20用のブリッジIDは別物として扱われます。だから、VLANごとにルートが変わるわけです。
3-1-2. VLANごとにルートを分けると何が嬉しいのか
VLAN単位でルートを分けるメリットは、主に次の2つです。
- 負荷分散:冗長リンクをVLANごとに使い分け、偏りを減らせる
- 経路の意図を反映:重要なVLANをより高性能なスイッチ側に寄せられる
その結果、「冗長構成なのに片系しか使われていない」というもったいなさを減らせます。
3-1-3. 例で掴む:VLANごとにルートを変えるイメージ
| VLAN | ルートブリッジ | 主に流したい方向 | 狙い |
|---|---|---|---|
| VLAN10 | スイッチA | A側の上位回線 | VLAN10の通信を最短化 |
| VLAN20 | スイッチB | B側の上位回線 | VLAN20で負荷分散 |
この発想がPVST+の設計の中心です。つまり、PVST+は「ループ防止」だけでなく「VLAN設計の道具」でもあります。
3-2. BPDU の役割と VLAN 単位での送受信
PVST+を理解するうえで、BPDUは避けて通れません。
なぜなら、PVST+はBPDUを使って「どのスイッチをルートにするか」「どのポートを止めるか」を決めているからです。
3-2-1. BPDUとは何か(役割を一言で)
BPDUは、スイッチ同士が交換する「スパニングツリーの制御メッセージ」です。
つまり、BPDUのやり取りによって、ネットワーク全体が同じ認識でツリー構造を作れます。
BPDUが運ぶ主な情報は次の通りです。
- ルートブリッジは誰か
- ルートまでのコストはいくつか
- 送信元スイッチのブリッジID
- タイマーや各種パラメータ
3-2-2. PVST+ではBPDUが「VLANごと」に存在する
PVST+のポイントはここです。
- STP(単一ツリー)なら、BPDUも基本は1系統
- PVST+なら、VLANごとにBPDUがあるイメージ
したがって、VLANが増えるほどBPDUの制御も増えやすくなります。だから「PVST+は便利だが規模が大きいと重くなる」と言われる背景があります。
3-2-3. トランクでBPDUはどう流れるのか
現場で混乱しやすいのがトランクリンクです。トランクは複数VLANを運ぶため、PVST+では「VLANごとのBPDU」を同じ物理回線上で扱います。
- 物理リンクは1本
- しかし論理的にはVLANごとに別のツリー
- だから、BPDUもVLANごとに考える必要がある
つまり、トランクで片方向に問題があると、特定VLANだけがおかしくなるケースが出てきます。これはPVST+ならではのトラブルパターンです。
3-3. ループ防止とポート状態
PVST+の目的は、最終的に「ループを起こさない形」にポートを制御することです。
したがって、ポートがなぜ転送され、なぜ止められるのかを理解すると、障害対応や設計レビューがかなりスムーズになります。
3-3-1. ループが起きると何が起きるか
レイヤ2ループが発生すると、代表的には次の問題が起きます。
- ブロードキャストが増え続ける(ブロードキャストストーム)
- MACアドレステーブルが不安定になる(MACフラッピング)
- 結果として通信遅延や全体停止につながる
つまり、PVST+は「冗長構成を許しながら、こうした崩壊を防ぐための仕組み」です。
3-3-2. ポート状態の基本(PVST+の土台)
PVST+はVLANごとにツリーを作り、各ポートに役割と状態を割り当てます。伝統的なSTP系のポート状態は次のように整理できます。
- Blocking:転送しない(ループ防止のため待機)
- Listening:BPDUの処理をしつつ、転送準備
- Learning:MAC学習はするが、転送はまだ
- Forwarding:転送する
- Disabled:管理的に無効
つまり、「いきなり転送」ではなく、段階を踏んで安全に切り替えます。したがって、切替に時間がかかることがある点が、PVST+運用で意識したいポイントです。
3-3-3. PVST+で“VLANごとにポート状態が変わる”とは
PVST+では、同じ物理ポートでもVLANごとに状態が変わる場合があります。
- VLAN10では Forwarding
- VLAN20では Blocking
この状況を知らないと、「リンクは上がっているのに、特定VLANだけ通信できない」という現象を見て混乱しがちです。つまり、PVST+のトラブルシューティングでは必ず「どのVLANの話か」を切り分ける必要があります。
3-3-4. 現場で役立つチェック観点(考え方)
PVST+で障害や違和感があるときは、次の順で考えると整理しやすいです。
- そのVLANのルートブリッジは誰か
- そのVLANのBPDUは正しく届いているか
- そのVLANでどのポートがブロックされているか
- 期待した経路設計になっているか(負荷分散の意図と一致しているか)
この流れで見れば、「なぜそのVLANだけ詰まるのか」が説明できるようになります。
PVST+ のメリット・デメリット
PVST+は、VLANを多用するネットワークで「ループ防止」と「冗長構成の有効活用」を両立しやすい仕組みです。
しかし一方で、VLAN数が増えるほど制御が増え、設計や運用の難易度が上がる側面もあります。つまり、PVST+は万能ではなく、メリットを引き出すには注意点を押さえる必要があります。
ここでは、PVST+を採用する判断材料として、メリット・デメリット・パフォーマンス影響を整理します。
4-1. PVST+ を使うメリット
PVST+のメリットは「VLANごとにSTPを制御できること」に集約されます。
したがって、冗長リンクの使い方や障害時の挙動を、設計意図に合わせて作り込みやすくなります。
4-1-1. VLANごとに最適な経路設計ができる
PVST+はVLAN単位でルートブリッジを変えられるため、例えば次のような設計が可能です。
- VLAN10はコアSW-Aをルートにして最短経路
- VLAN20はコアSW-Bをルートにして負荷分散
- 同じ冗長リンクでも、VLANごとに使い分ける
その結果、冗長リンクが「普段は眠っている回線」になりにくく、帯域を活かしやすくなります。
4-1-2. 障害時の切替パターンをVLAN単位で制御しやすい
PVST+はVLANごとにブロックされるポートが変わり得ます。つまり、障害が起きたときの迂回経路も、VLAN単位で想定しやすくなります。
- 重要なVLANは確実に速い経路に寄せる
- それ以外は冗長側に逃がす
したがって、ネットワークの重要度に応じた設計(いわゆる設計のメリハリ)を付けられます。
4-1-3. トラブル切り分けで「VLAN単位の視点」を持てる
PVST+環境では、問題が起きても「どのVLANで」「どのツリーで」起きているかを見れば原因に近づけます。
つまり、VLAN単位で論理的に切り分ける前提があるため、設計と運用の考え方が整理しやすいというメリットがあります。
4-1-4. メリットのまとめ(箇条書き)
- VLANごとにルートブリッジを最適化できる
- 冗長リンクをVLAN単位で分散利用しやすい
- VLANごとに障害時の挙動を設計しやすい
- 運用時もVLAN単位で原因を追いやすい
4-2. PVST+ の課題と注意点
PVST+は便利な反面、規模が大きくなるほど「制御の増加」と「設計の複雑化」が目立ちます。
なぜなら、PVST+はVLANごとにツリーを維持するため、VLAN数がそのまま制御量に効いてくるからです。
4-2-1. VLAN数が増えるほど運用が難しくなる
PVST+では、VLANごとに次が存在します。
- ルートブリッジ選出
- BPDUの制御
- ポートの役割と状態
したがって、VLANが多い環境でルート設計が曖昧だと、意図しないブロッキングや遠回りが発生しやすくなります。
4-2-2. ルート設計をしないと「勝手に決まる」
PVST+は、放っておくと最終的に「ブリッジIDが最小の機器」がルートになりがちです。
つまり、設計意図がないと、たまたまMACが小さいスイッチがルートになるなど、望まない中心が選ばれるリスクがあります。
その結果、次のような悩みに繋がります。
- 本来コアにしたいスイッチがルートになっていない
- トラフィックが遠回りになる
- 冗長構成なのに負荷が偏る
したがって、PVST+では「VLANごとにルートを決める」ことが運用品質に直結します。
4-2-3. 互換性や混在環境での注意
PVST+はCisco系の拡張であり、ネットワークに他ベンダースイッチが混在する場合、相互接続の設計や検証が重要になります。
つまり、「PVST+前提」で作ったつもりでも、相手側が想定通りにBPDUを扱わず、結果として意図しない挙動になる可能性があります。
混在環境での典型的な注意点は次の通りです。
- VLANごとのSTP情報を相手が同じ粒度で扱えるか
- トランクのVLAN許可設定と整合しているか
- STPモードの違いで収束挙動が変わらないか
4-2-4. 課題のまとめ(簡易表)
| 課題 | 起きやすいこと | 対策の考え方 |
|---|---|---|
| VLAN増加による複雑化 | ツリーが増え管理が難しい | VLAN設計とルート設計を明確化 |
| ルート未設計 | 意図しないルート選出 | VLAN単位で優先度設計 |
| 混在環境 | 相互接続で予期せぬ挙動 | STPモード整合と事前検証 |
4-3. パフォーマンスへの影響
PVST+のパフォーマンス影響は、ざっくり言うと「制御トラフィックと計算コストがVLAN数に比例しやすい」点にあります。
つまり、VLANが少ないうちは問題になりにくい一方で、VLANが増えるほど影響が見えやすくなります。
4-3-1. BPDU増加による制御負荷
PVST+はVLANごとにBPDUを扱うため、VLAN数が増えるとBPDU関連の処理も増えます。その結果、次のような影響が出ることがあります。
- 制御フレームが増える
- スイッチのCPU負荷が上がる
- トポロジ変更時の処理が重くなる
したがって、大規模環境では「PVST+で運用し続けるべきか」「MSTPなどに寄せるべきか」を検討する場面が出ます。
4-3-2. 収束(切替)の時間が体感に影響する
PVST+はベースが従来STP系であるため、設計や環境によってはリンク切替時の復旧が遅く感じることがあります。
つまり、障害時に数秒〜十数秒の瞬断が許容できない環境では、Rapid PVST+などの選択肢が現実的になります。
4-3-3. “データ転送”そのものが遅くなるわけではない
ここは誤解されやすい点です。PVST+自体がデータ転送速度を直接落とすというより、影響は主に以下です。
- 制御の増加(BPDU処理など)
- トポロジ変更時の再計算
- ブロック設計による経路の遠回り
つまり、普段の安定稼働時に速度が急に落ちるというより、設計や規模、障害時の挙動にパフォーマンス課題が出やすいと考えると理解しやすいです。
4-3-4. パフォーマンス影響のまとめ(箇条書き)
- VLANが増えるほどBPDUと計算が増えやすい
- 大規模ではCPU負荷や収束の体感が課題になり得る
- データ転送を直接遅くするというより、制御と設計の影響が効く
PVST+ の基本設定と実例
PVST+は概念を理解したあとに「結局、何を設定すれば狙った動きになるのか」でつまずきやすい分野です。
つまり、PVST+はデフォルトでも動きますが、ルートブリッジ設計をしないと意図しない経路になりがちです。したがって、基本設定は「有効化」よりも「ルートを決めること」が本題になります。
ここでは、Ciscoスイッチを前提に、PVST+の確認・設定・移行を現場目線で整理します。
5-1. Cisco スイッチで PVST+ を有効にする方法
Cisco系スイッチでは、スパニングツリーのモードでPVST+(またはRapid-PVST+)を選びます。
ただし機種やOSバージョンによってデフォルトがPVST+系になっていることもあるため、まずは「いま何になっているか」を確認するのが安全です。
なぜなら、設定変更はネットワーク全体の収束(切替)を引き起こす可能性があるからです。
5-1-1. まずは現在のSTPモードを確認する
代表的な確認コマンド例です。
show spanning-tree summary
見るポイントは次の通りです。
- STP mode(pvst / rapid-pvst / mst など)
- VLANごとのSTPが動いているかの雰囲気
- トポロジ変更回数が異常に増えていないか
つまり、最初に現状把握をしてから手を入れるのがPVST+運用の基本です。
5-1-2. PVST+ を指定する(モード設定)
PVST+系にする例です(環境により適用可否は変わります)。
spanning-tree mode pvst
ここで重要なのは、モード設定は「その機器だけ」ではなく、接続されるスイッチ群の整合も絡む点です。したがって、ネットワークの一部だけが別モードにならないよう、設計・手順を揃えます。
5-1-3. VLANごとの状態を確認する(PVST+の見え方)
PVST+はVLAN単位で確認するクセをつけると、トラブル時に強くなります。
show spanning-tree vlan 10
チェック観点は次です。
- Root ID(ルートブリッジが誰か)
- 自機がRootかどうか
- Root Port / Designated Port / Blocking のどれになっているか
- Port Cost や Port Priority が想定通りか
5-2. VLAN ごとのルートブリッジ設定例
PVST+で最も効果が出るのが、VLANごとのルートブリッジ設計です。
つまり、「デフォルトで勝手に決まるルート」から「狙って決めるルート」へ変えることで、経路が安定し、負荷分散もしやすくなります。
5-2-1. ルートブリッジは“主役”と“予備役”を決める
運用でよくある設計は、各VLANで次の2台を決める方法です。
- 主役(Root Primary)
- 予備役(Root Secondary)
その結果、主役が落ちたときも予備役へ自然に切り替わり、想定外の機器がルートになる事故を避けられます。
5-2-2. VLANごとにルートを分けて負荷分散する例
例えば、コアSW-AとコアSW-Bがある場合、次のように分けると分散しやすいです。
- VLAN10, VLAN20:SW-Aを主役
- VLAN30, VLAN40:SW-Bを主役
イメージを表にするとこうです。
| VLAN | ルート(主役) | セカンダリ(予備) | 狙い |
|---|---|---|---|
| 10 | SW-A | SW-B | A側に寄せる |
| 20 | SW-A | SW-B | A側に寄せる |
| 30 | SW-B | SW-A | B側に寄せる |
| 40 | SW-B | SW-A | B側に寄せる |
つまり、PVST+でVLAN単位のルート制御をすると「冗長構成なのに片側が暇」という状態を減らせます。
5-2-3. ルート設定コマンド例(代表例)
Ciscoでは、ルートを簡単に設定するための書き方が用意されています。
spanning-tree vlan 10 root primary
spanning-tree vlan 10 root secondary
または、より明示的に優先度を指定する方法もあります。
spanning-tree vlan 10 priority 4096
考え方としては、優先度を下げるほどルートになりやすいです。したがって、主役を低く、予備役をその次に、その他はデフォルトのまま、という設計がよく使われます。
5-2-4. 設計でありがちな落とし穴
- ルートを決めないままVLANだけ増やす
- 片側にVLANの主役が偏りすぎる
- トランクの許可VLANが想定と違い、VLAN単位で見え方が変わる
つまり、PVST+は「VLAN単位で見える世界」が違うため、必ずVLAN単位で整合チェックをします。
5-3. Rapid-PVST+ への移行手順
PVST+を運用していると、「障害時の切替が遅い」「メンテで収束待ちが長い」と感じることがあります。
その場合、Rapid-PVST+(RSTPベース)への移行が候補になります。なぜなら、Rapid-PVST+は収束を速くする設計思想があるからです。
ただし、移行はネットワーク全体の挙動に影響するため、段取りが重要です。
5-3-1. 移行前に確認すべきポイント
移行前チェックの定番は次の通りです。
- 接続されているスイッチ群でRapid-PVST+がサポートされるか
- STPモードが混在しない計画になっているか
- VLANごとのルート設計が明確か(移行後も意図通りか)
- トポロジ変更が頻発していないか(根本問題がないか)
つまり、「速くしたい」だけで切り替えるのではなく、現状の不安定要因を先に潰すのが安全です。
5-3-2. Rapid-PVST+ への切替(代表例)
モード変更の例です。
spanning-tree mode rapid-pvst
切替後は、次の確認を行います。
show spanning-tree summary
show spanning-tree vlan 10
見るべき点は、ルートが想定通りか、ポート役割が想定通りか、収束が改善したか、です。
5-3-3. 移行の進め方(現場で安全な考え方)
移行は、次の順に考えると事故を減らせます。
- 事前にルートブリッジ設計を確定する
- 検証環境または限定セグメントで挙動確認する
- 影響の少ない時間帯に切替する
- VLANごとに状態確認し、想定経路になっているか確認する
- トポロジ変更やポート状態の揺れがないか監視する
したがって、Rapid-PVST+への移行は「コマンド1行」ではなく、「設計と確認がセット」と捉えるのが現実的です。
PVST+ 運用でよくある疑問とトラブルシューティング
PVST+を運用していると、よく出てくる悩みが「PVST+が効いていない気がする」「切替が遅くて業務に影響する」です。
つまり、PVST+自体が壊れているというより、設定の整合不足や設計の甘さ、物理・論理の前提が崩れているケースが大半です。したがって、闇雲に設定を変えるのではなく、VLAN単位で原因を切り分けることが最短ルートになります。
6-1. PVST+ が効かない・収束が遅い時の原因
ここでは「PVST+が効かない」「収束が遅い」と感じるときに、現場で多い原因を優先度順に整理します。
結論としては、次の3系統に分けて確認すると迷いにくいです。
- モードや相互接続の不整合(そもそもPVST+前提が崩れている)
- VLANごとの設計不足(ルートや経路が意図通りでない)
- 収束を遅くする要因(STP特有の待ち、リンク揺れ、過負荷)
6-1-1. まず確認すべき「いま本当にPVST+で動いているか」
最初にやるべきは、疑いようのない事実確認です。なぜなら、モードが違えば議論が全部ズレるからです。
確認観点(代表例)
- STP mode が pvst / rapid-pvst / mst のどれか
- VLANごとにスパニングツリー情報が見えているか
- そもそも該当VLANがトランクで運ばれているか
よくある落とし穴は次です。
- スイッチAはPVST+、スイッチBはMSTPなど、モードが混在
- トランクで必要VLANが許可されておらず、そのVLANだけBPDUも届かない
- 片側だけ設定が反映されておらず、VLAN単位で見え方が変わる
つまり、「PVST+が効かない」と感じたら、まず“PVST+の土台”を揃えるのが先です。
6-1-2. 収束が遅い原因の定番は「ルート設計が曖昧」
PVST+でルートブリッジ設計をしていないと、意図しない機器がルートになり、経路が遠回りになったり、再計算の影響が大きくなったりします。
したがって、次の点をVLANごとに確認します。
- ルートブリッジは想定したスイッチか
- セカンダリ(予備ルート)は用意されているか
- コア側・ディストリ側の役割分担がVLANごとに破綻していないか
6-1-2-1. よくある症状と原因の対応
- 症状:VLAN10だけ通信が不安定
- 原因:VLAN10のルートが想定外、またはトランクでVLAN10が欠けている
- 症状:冗長リンクが片方しか使われない
- 原因:VLANごとのルート設計がなく、全VLANで同じツリーになっている
- 症状:切替が起きるたびに影響が大きい
- 原因:ルートが末端寄りにいて、変更の波及が広い
つまり、PVST+は「VLANごとにルートを決める」だけで改善するケースが多いです。
6-1-3. “収束そのもの”を遅くする要因(技術的・運用的)
PVST+は従来STP系の挙動を引きずるため、環境によっては切替が遅く見えることがあります。なぜなら、STPは安全のために段階的にポートを遷移させるからです。
収束を遅くしやすい代表要因は次の通りです。
- PVST+(従来STPベース)を使っている
- 対策:要件次第でRapid-PVST+を検討
- リンクフラップ(抜けたり戻ったり)が起きている
- 対策:物理層、エラー、ケーブル、SFP、速度/デュプレックス整合を点検
- トポロジ変更が頻発している
- 対策:どのポートで変更が出ているか特定し、原因を潰す
- VLAN数が多く、制御処理が重い
- 対策:MSTPの検討、VLAN設計の整理、不要VLANの削減
したがって、「PVST+が遅い」と感じたら、まず“遅くしているのは何か”を分解して潰すのが合理的です。
6-1-4. トラブルシューティングの実務フロー(VLAN単位で進める)
PVST+はVLANごとに世界が変わるので、切り分けもVLAN単位で行います。おすすめの流れは次です。
- 影響が出ているVLAN番号を特定する
- そのVLANのルートブリッジが誰か確認する
- そのVLANでブロックされているポートを確認する
- トランクの許可VLANとネイティブVLANの整合を見る
- トポロジ変更が頻発していないかを確認する
- 必要ならRapid-PVST+や設計見直しを検討する

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