災害やサイバー攻撃が発生したら、あなたの会社のシステムはどれくらいで復旧できますか?」
多くの企業がディザスタリカバリ(DR)の重要性を認識しながらも、 「何をどこまで対策すべきか分からない」 「コストがかかりすぎるのでは?」と悩んでいます。
本記事では、 ディザスタリカバリの基本から最新のクラウド活用法、企業の成功事例まで徹底解説。 初心者でも分かりやすく、実践しやすい内容 になっています。
「もしもの時」に備え、あなたの会社に最適なディザスタリカバリ戦略を見つけましょう。
この記事は以下のような人におすすめ!
- ディザスタリカバリとは何か知りたい人
- ディザスタリカバリにはどのような方法があり、自社にはどの方法が適切なのかわからない
- 災害やサイバー攻撃時に、どのくらいの時間で復旧できるのか不安
目次
ディザスタリカバリ(DR)とは
現代の企業にとって、システム障害や自然災害による業務停止は大きなリスクとなります。
これらのリスクに備え、迅速に業務を復旧させるための仕組みが ディザスタリカバリ(Disaster Recovery:DR) です。
企業が安定した運用を維持するためには、事前の ディザスタリカバリ計画(DRP:Disaster Recovery Plan) を策定し、障害発生時にスムーズに対応できるよう準備しておくことが重要です。
本記事では、ディザスタリカバリの定義や重要性、そして事業継続計画(BCP)との違いについて詳しく解説します。
1-1. DRの定義と重要性
1-1-1. ディザスタリカバリ(DR)とは?
ディザスタリカバリ(DR)とは、 自然災害、サイバー攻撃、システム障害などのリスクが発生した際に、企業のITシステムやデータを復旧し、業務を継続できるようにするための戦略や対策 を指します。
例えば、以下のような状況でディザスタリカバリが必要になります。
- 地震や台風などの自然災害 によるデータセンターの被害
- ランサムウェアやハッキング によるシステム停止
- ハードウェア障害 によるサーバーのダウン
1-1-2. ディザスタリカバリの重要性
企業がディザスタリカバリ対策を行うことには、以下のような 重要な理由 があります。
理由 | 説明 |
---|---|
業務の継続性を確保 | システム障害が発生しても、迅速に復旧することで業務停止時間を最小限に抑える。 |
データの損失を防ぐ | 定期的なバックアップや冗長化により、重要なデータの消失リスクを軽減。 |
法規制の遵守 | 金融業界や医療機関では、ディザスタリカバリ計画の策定が義務付けられる場合もある。 |
顧客の信頼を維持 | システムダウンが長引くと顧客離れの原因となるため、迅速な復旧が必要。 |
ディザスタリカバリが適切に機能していないと、企業は 大きな経済的損失 を被るだけでなく、 信用の低下や 法的問題 に発展する可能性もあります。
そのため、あらかじめ十分な対策を講じることが求められます。
1-2. 事業継続計画(BCP)との違い
ディザスタリカバリ(DR)と混同されやすい概念として 事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)があります。
両者は密接に関連していますが、目的や範囲が異なります。
1-2-1. DRとBCPの違い
項目 | ディザスタリカバリ(DR) | 事業継続計画(BCP) |
---|---|---|
目的 | ITシステムやデータの復旧 | 企業全体の業務継続 |
対象範囲 | サーバー、ネットワーク、データ復旧などITに特化 | 物流、人員配置、サプライチェーンなど幅広い業務 |
発生後の対応 | ITシステムを迅速に復旧し、業務を再開 | 代替手段を確保し、業務の影響を最小限に抑える |
具体的な手法 | バックアップ、クラウド活用、冗長化など | リモートワークの導入、代替拠点の確保など |
1-2-2. DRとBCPは補完関係にある
ディザスタリカバリ(DR)は ITシステムの復旧 に特化した対策ですが、 BCPは企業全体の業務継続 を目的としています。
そのため、 どちらか一方を準備すればよいというわけではなく、両者を組み合わせることが重要 です。
例えば、企業が地震の影響でオフィスを利用できなくなった場合、以下のように BCPとDRを組み合わせることで、より強固な対策を実現できます。
状況 | BCPの対応 | DRの対応 |
---|---|---|
オフィスが利用不可 | テレワークの導入、代替オフィスの確保 | クラウド環境での業務継続 |
データセンターの故障 | 代替業務プロセスの策定 | 別拠点のバックアップシステムで復旧 |
サイバー攻撃の被害 | 顧客対応手順の準備 | システムの復旧とデータ復元 |
このように、 BCPとDRを両立させることで、企業の危機管理能力が大幅に向上 します。
ディザスタリカバリの基本要素
ディザスタリカバリ(DR)を効果的に実施するためには、計画的な準備と明確な指標の設定が必要です。
その中でも特に重要なのが 「目標復旧時間(RTO)」と「目標復旧時点(RPO)」 です。これらの指標を適切に設定し、システム障害時の影響を最小限に抑えることが、企業の事業継続において不可欠です。
また、ディザスタリカバリを成功させるためには、 リスク評価とビジネス影響分析(BIA) を実施し、どのシステムや業務が優先的に復旧されるべきかを明確にする必要があります。
本章では、ディザスタリカバリの基本要素として、 RTOとRPOの考え方、 リスク評価とビジネス影響分析の重要性 について詳しく解説します。
2-1. 目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)
ディザスタリカバリの計画を策定する際、 「どのくらいの時間内にシステムを復旧させるべきか」 と 「どの時点のデータまで復旧するべきか」 を定めることが重要です。
その指標となるのが RTO(Recovery Time Objective) と RPO(Recovery Point Objective) です。
2-1-1. 目標復旧時間(RTO)とは?
RTO(Recovery Time Objective) とは、 システムが停止した際に、業務へ影響を与えずに復旧させるまでの許容時間 を指します。
例えば、RTOが「2時間」に設定されている場合、 障害発生から2時間以内にシステムを復旧 しなければなりません。
RTOが短いほど、より迅速な復旧が求められ、高速な復旧ソリューションが必要になります。
RTOの長さ | 適用システムの例 | 復旧手段の例 |
---|---|---|
数秒〜数分 | 金融取引システム、病院の電子カルテ | フェイルオーバー、ホットサイト |
数時間 | 社内業務システム、ECサイト | ウォームサイト、クラウドバックアップ |
1日以上 | 社内ドキュメント管理、メールサーバー | コールドサイト、テープバックアップ |
2-1-2. 目標復旧時点(RPO)とは?
RPO(Recovery Point Objective) とは、 障害発生時にどの時点までのデータを復旧できれば業務に支障が出ないかを示す指標 です。
例えば、RPOが「30分」に設定されている場合、バックアップの間隔を30分以内にする必要があります。
これにより、万が一障害が発生しても、最大で30分前のデータまで復旧できます。
RPOの長さ | 適用システムの例 | バックアップ方法の例 |
---|---|---|
ゼロ(リアルタイム) | 金融取引システム、オンラインゲーム | データレプリケーション |
数分〜数時間 | CRMシステム、ECサイト | 定期スナップショット |
1日以上 | 社内文書、メールデータ | 1日1回のバックアップ |
2-1-3. RTOとRPOのバランス
企業の業務内容によって、 RTOとRPOの適切なバランスを決めることが重要 です。
例えば、金融取引のシステムでは「数秒〜数分」で復旧する必要がありますが、社内文書管理システムでは「1日以内の復旧」でも問題ない場合があります。
2-1-4. RTOとRPOの設定方法
RTOとRPOを適切に設定するには、 ビジネスの優先度に応じて分類 し、それぞれに適した復旧戦略を設計する必要があります。
- 重要業務の特定(金融決済、ECサイト、医療システムなど)
- 業務への影響分析(システム停止時の損害額や影響範囲を評価)
- 適切なRTO・RPOの設定(バランスの取れた指標を決定)
- 復旧計画の策定(適切なバックアップや冗長化対策を実施)
2-2. リスク評価とビジネス影響分析(BIA)
ディザスタリカバリの計画を策定する前に、 企業が直面するリスクを特定し、それが業務にどのような影響を及ぼすのかを評価 することが重要です。
そのために実施されるのが リスク評価 と ビジネス影響分析(BIA:Business Impact Analysis) です。
2-2-1. リスク評価とは?
リスク評価とは、 企業のシステムやデータがどのような脅威にさらされているのかを特定し、それぞれのリスクの発生確率や影響度を分析するプロセス です。
リスクの種類 | 例 | 影響 |
---|---|---|
自然災害 | 地震、台風、洪水 | データセンター損壊、ネットワーク遮断 |
サイバー攻撃 | ランサムウェア、DDoS | システム停止、データ漏洩 |
人的ミス | 誤操作、設定ミス | データ消失、システム障害 |
リスク評価を実施することで、 どのリスクに優先的に対処すべきかを明確化 できます。
2-2-2. ビジネス影響分析(BIA)とは?
ビジネス影響分析(BIA)とは、 システムが停止した際に、企業の業務や収益にどの程度の影響があるのかを分析するプロセス です。
BIAの主な手順
- 重要業務の特定(システム停止で最も影響を受ける業務は何か)
- 影響度の評価(金銭的損失、顧客信頼の低下など)
- 復旧優先度の決定(最も影響の大きい業務を優先的に復旧)
2-2-3. リスク評価とBIAの活用
リスク評価とBIAの結果を基に、以下のような ディザスタリカバリ計画(DRP) を策定します。
- 最も影響の大きいシステムを特定し、優先的に復旧する
- 発生しやすいリスクに備えた対策を実施
- RTO・RPOを適切に設定し、迅速な復旧を可能にする
ディザスタリカバリ戦略の種類
ディザスタリカバリ(DR)を成功させるためには、 適切な復旧戦略を選択することが重要 です。
企業のITシステムや業務の特性に応じて、 コスト・復旧時間・システムの可用性を考慮しながら適切な手法を採用する必要があります。
本章では、代表的なディザスタリカバリ戦略として 「バックアップとリストア」、「ウォームスタンバイとホットスタンバイ」、「マルチサイトソリューション」 の3つの方法を詳しく解説します。
3-1. バックアップとリストア
バックアップとリストア は、 最も基本的でコスト効率の高いディザスタリカバリ戦略 です。
定期的にデータのバックアップを取得し、障害発生時にそれを元に復旧する方法です。
3-1-1. バックアップの種類
バックアップには、以下のような 異なる種類 があります。
バックアップの種類 | 特徴 | 適用シナリオ |
---|---|---|
フルバックアップ | システム全体を丸ごとバックアップ | 長期保存が必要なデータ |
増分バックアップ | 前回のバックアップから変更されたデータのみ取得 | 容量を節約しつつ頻繁に保存したい場合 |
差分バックアップ | 最後のフルバックアップからの変更分を取得 | フルバックアップと組み合わせることで復旧が簡単 |
3-1-2. バックアップとリストアのメリット・デメリット
バックアップとリストアには メリットとデメリット があります。
メリット
- コストが低い(ストレージ容量を調整すれば低コストで運用可能)
- シンプルな運用(専用ソフトウェアを活用すれば自動化が可能)
- クラウドバックアップの活用が容易(AWS、Google Cloudなどを利用)
デメリット
- 復旧に時間がかかる(データの転送・復旧プロセスが長い)
- 最新データの損失リスクがある(バックアップの間隔次第でデータが失われる可能性)
3-2. ウォームスタンバイとホットスタンバイ
システム復旧をより迅速に行うためには、 スタンバイ環境(待機環境)を準備する方法 が有効です。
代表的な手法として 「ウォームスタンバイ」 と 「ホットスタンバイ」 があります。
3-2-1. ウォームスタンバイとは?
ウォームスタンバイ(Warm Standby)は、 予備のシステムを準備し、必要に応じて起動する方式 です。普段は最低限のリソースで稼働し、障害発生時に本格的に起動・運用を開始します。
ウォームスタンバイの特徴
- コストと復旧時間のバランスが取れる
- 本番環境のクローンを作成するが、完全稼働ではない
- 障害発生時に即時対応が可能
メリット | デメリット |
---|---|
バックアップよりも迅速な復旧が可能 | フル稼働ではないため、復旧に若干の時間がかかる |
コストを抑えながら待機環境を保持できる | 運用コストが発生する |
3-2-2. ホットスタンバイとは?
ホットスタンバイ(Hot Standby)は、 本番環境と同じシステムを常に待機状態にしておき、障害発生時に即座に切り替える方式 です。
ホットスタンバイの特徴
- 最も復旧が速い方式(ダウンタイムほぼゼロ)
- システムの冗長性を確保
- リアルタイムでデータを同期し、即座に切り替え可能
メリット | デメリット |
---|---|
システム停止を最小限にできる | 高コスト(常時同じシステムを稼働させるため) |
本番環境と同じ状態で稼働しているため、即時復旧可能 | 設備・運用コストが大きい |
3-3. マルチサイトソリューション
大規模な企業やミッションクリティカルなシステムでは、 複数のデータセンターやクラウドを活用したマルチサイトソリューション が有効です。
3-3-1. マルチサイトとは?
マルチサイトソリューションとは、 複数の地理的に分散した拠点にシステムを配置し、障害時にスムーズに切り替えられるようにする戦略 です。
マルチサイトソリューションの構成例
- アクティブ-アクティブ
- すべてのサイトが通常時から稼働し、負荷分散する
- 障害発生時も他の拠点で継続可能
- 例:グローバルなECサイト、クラウド環境
- アクティブ-パッシブ
- メイン拠点が通常稼働し、バックアップ拠点が待機
- メインが障害発生時にパッシブ拠点が稼働
- 例:金融機関のバックアップセンター
3-3-2. マルチサイトのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
地理的分散により、大規模障害にも対応可能 | 高コスト(データセンターの維持費) |
負荷分散によるパフォーマンス向上 | 管理が複雑(複数の拠点を運用する必要がある) |
クラウド環境と組み合わせることで柔軟に対応可能 | 設定ミスがあると切り替えに失敗する可能性がある |
クラウドを活用したディザスタリカバリ
近年、企業のシステムがクラウドへ移行する中で、 ディザスタリカバリ(DR)にもクラウドを活用する動き が加速しています。
従来のオンプレミス環境では、バックアップやスタンバイサイトを自社で構築・運用する必要がありましたが、クラウドベースのディザスタリカバリでは コスト削減や柔軟性向上が期待できます。
本章では、 クラウドベースのディザスタリカバリの利点と課題、そして DRaaS(Disaster Recovery as a Service)を活用した最新のDR戦略 について詳しく解説します。
4-1. クラウドベースのDRの利点と課題
クラウドを活用したディザスタリカバリは、 オンプレミスと比較してコスト効率や運用の柔軟性が高い というメリットがあります。
一方で、クラウド特有の課題も存在します。
4-1-1. クラウドベースのDRとは?
クラウドベースのディザスタリカバリとは、 クラウド環境を利用してシステムのバックアップや復旧環境を整備するDR戦略 です。
AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのクラウドプラットフォームを活用し、障害発生時に迅速な復旧を可能にします。
この方法では、以下の3つの基本アプローチが取られます。
- クラウドバックアップ
- データをクラウドストレージへ定期的にバックアップ
- 障害発生時にオンプレミス環境へリストア
- 例:Amazon S3、Google Cloud Storage
- クラウドスタンバイ
- クラウド上に待機システム(ウォーム/ホットスタンバイ)を用意
- 障害時にクラウドへ切り替えて業務継続
- 例:Azure Site Recovery、AWS Elastic Disaster Recovery
- 完全クラウド型DR
- 本番環境もクラウド上にあり、ディザスタリカバリもクラウド内で実施
- 例:クラウドリージョン間の冗長構成
4-1-2. クラウドベースのDRの利点
クラウドを活用することで、従来のオンプレミス型DRと比較して 多くのメリット があります。
利点 | 説明 |
---|---|
コスト削減 | 物理サーバーやデータセンターの設置・維持が不要 |
スケーラビリティ | 必要に応じてリソースを拡張・縮小可能 |
柔軟な復旧オプション | クラウド上の複数リージョンを活用した高速復旧が可能 |
地理的分散 | 世界中のデータセンターを利用し、災害リスクを低減 |
自動化 | バックアップや復旧プロセスを自動化できる |
4-1-3. クラウドベースのDRの課題
一方で、クラウドを活用する際には以下のような課題も考慮する必要があります。
課題 | 対策 |
---|---|
データ転送コスト | バックアップデータの転送量に応じた費用が発生するため、適切なストレージ戦略が必要 |
セキュリティリスク | クラウド環境でのデータ漏洩リスクに備え、暗号化やアクセス制御を徹底 |
ネットワーク依存 | インターネット経由の復旧が前提となるため、回線障害に対する冗長化が必要 |
4-2. DRaaS(Disaster Recovery as a Service)の活用
クラウドベースのディザスタリカバリをより簡単に導入できるサービスとして、DRaaS(Disaster Recovery as a Service)があります。
4-2-1. DRaaSとは?
DRaaS(Disaster Recovery as a Service)は、クラウドベースのディザスタリカバリをサービスとして提供するソリューションです。
従来のDRは 自社で設計・運用 する必要がありましたが、DRaaSを利用すれば、クラウドベンダーが管理するDR環境をそのまま利用できます。
4-2-2. DRaaSの仕組み
DRaaSは、クラウドプロバイダーのDR環境にリアルタイムまたは定期的にデータをレプリケーションし、障害発生時に即座にクラウド上でシステムを起動できる仕組みです。
- 平常時
- オンプレミスまたはクラウド環境のデータをDRaaSへ自動バックアップ
- 必要に応じて増分バックアップを実施
- 障害発生時
- DRaaS側の環境を即座に起動し、業務を継続
- 復旧後
- 元の環境にデータを復元し、通常運用へ移行
4-2-3. DRaaSのメリット
DRaaSを活用することで、以下のようなメリットがあります。
メリット | 詳細 |
---|---|
初期投資が不要 | 物理インフラの準備が不要で、月額課金で利用可能 |
専門知識不要 | DR環境の設計・運用をクラウドベンダーが管理 |
迅速な復旧 | クラウド上でシステムを起動し、業務停止を最小限に抑えられる |
スケーラブルな運用 | 必要な時にリソースを追加できる柔軟性 |
4-2-4. DRaaSの主なプロバイダー
現在、多くのクラウドベンダーがDRaaSを提供しています。
サービス名 | 提供企業 | 特徴 |
---|---|---|
AWS Elastic Disaster Recovery | Amazon Web Services | 低コストで本番環境と同様の復旧が可能 |
Azure Site Recovery | Microsoft Azure | Windows環境との統合性が高い |
Google Cloud Disaster Recovery | Google Cloud | Kubernetesやコンテナ環境に最適化 |
ディザスタリカバリ計画の策定と実装
ディザスタリカバリ(DR)を成功させるには、計画的な策定と確実な実装が不可欠です。
企業が災害やシステム障害に直面した際に 迅速かつ効率的に復旧 できるよう、具体的な手順や役割の明確化、定期的なテストと見直しが求められます。
本章では、ディザスタリカバリ計画の策定から実装までのプロセスを、ステップバイステップで解説します。
また、従業員の役割と責任の明確化や、定期的なテストの重要性についても詳しく説明します。
5-1. DR計画のステップバイステップガイド
ディザスタリカバリ計画(DRP:Disaster Recovery Plan)は、障害発生時の対応フローや復旧手順を明確化し、事前に準備するための計画です。
以下のステップに従って体系的なDR計画を策定することが重要です。
5-1-1. DR計画策定の6つのステップ
- リスク評価とビジネス影響分析(BIA)
- 企業のシステムにどのような リスク があるのかを特定
- 各リスクがビジネスに与える影響を評価(BIA)
- 復旧目標(RTO/RPO)の設定
- RTO(目標復旧時間):システム復旧までの許容時間
- RPO(目標復旧時点):どの時点のデータまで復旧可能か
- ディザスタリカバリ戦略の選定
- バックアップとリストア
- ウォームスタンバイ / ホットスタンバイ
- クラウドベースのDR / DRaaS
- 復旧手順のドキュメント化
- 障害発生時の具体的な復旧フローを文書化
- 関連するシステム管理者・従業員が参照できるようにする
- 役割と責任の明確化
- 復旧作業を担当する各部門の役割を明確化
- DRチームを編成し、緊急時の指示系統を確立
- 定期的なテストと見直し
- シミュレーションテストや災害訓練を実施
- 結果をもとに計画を改善・更新
5-2. 従業員の役割と責任の明確化
ディザスタリカバリを円滑に実施するためには、従業員の役割と責任を明確にすることが不可欠です。
復旧作業をスムーズに進めるため、事前にDRチームを編成し、各メンバーのタスクを定義しておきます。
5-2-1. DRチームの主な役割
役職 | 主な責務 |
---|---|
DRマネージャー(責任者) | DR計画全体の指揮・決定、リソース調整 |
ITインフラ管理者 | システム復旧・データ復旧、クラウド環境の切り替え |
ネットワーク管理者 | ネットワークの再構築・冗長化対応 |
アプリケーション担当者 | 業務アプリケーションの復旧・テスト |
セキュリティ担当者 | データ保護・サイバー攻撃対策 |
事業部門リーダー | 業務継続の判断、従業員の対応指揮 |
5-2-2. 緊急時の対応フロー
従業員全員が共通の行動指針を持つことで、災害発生時の混乱を防ぐことが可能 になります。
以下のような 対応フローを事前に共有し、訓練することが重要 です。
- 障害発生の検知
- システム監視ツールで障害を検出
- 管理者が迅速に判断
- 緊急連絡と初動対応
- DRマネージャーが復旧プロセスを指示
- 必要に応じて関係部門と連携
- システム復旧の実施
- RTO/RPOに基づいた復旧手順を遂行
- 必要に応じて代替環境への切り替え
- 業務継続の確認と復旧後の評価
- 復旧後に正常動作を確認
- DR計画の改善点をフィードバック
5-3. 定期的なテストと見直しの重要性
ディザスタリカバリ計画は、 策定しただけでは十分ではありません。
実際に機能するかどうかを定期的にテストし、必要に応じて改善することが不可欠 です。
5-3-1. DRテストの種類
テスト方法 | 概要 | 実施頻度(推奨) |
---|---|---|
テーブルトップ演習 | シミュレーション形式で計画の確認 | 年1回以上 |
部分的システムテスト | 特定のシステムやバックアップの検証 | 半年ごと |
フルスケールテスト | 実際の環境で本番さながらの復旧テスト | 年1回 |
5-3-2. DR計画の見直しポイント
以下のような 変化があった場合、DR計画の見直しが必要 です。
- システムの構成変更(新規導入・アップグレード)
- 業務プロセスの変更
- 新たな脅威の発生(サイバー攻撃の増加など)
- テスト結果からのフィードバック
5-3-3. DRテストの実施手順
- テスト計画の策定
- どのシナリオをテストするか決定(例:データセンター障害)
- テストの実施
- 実際にバックアップから復旧し、対応プロセスを確認
- 結果の評価
- 復旧時間がRTO/RPO内に収まっているか検証
- 改善策の策定
- テスト結果をもとにDR計画を更新・改善
ディザスタリカバリの最新トレンドとベストプラクティス
近年、ITインフラのクラウド化やAIの活用、サイバー攻撃の高度化により、ディザスタリカバリ(DR)の技術は大きく進化しています。
企業は、従来のバックアップとリストアに依存するのではなく、より迅速で効率的な復旧手法 を導入し、事業継続性(BC:Business Continuity)を強化する必要があります。
本記事では、ディザスタリカバリの最新トレンドと導入事例 を詳しく解説し、企業が効果的なDR戦略を構築するためのベストプラクティスを紹介します。
6-1. 最新の技術動向と導入事例
ディザスタリカバリの分野では、 クラウド技術や自動化ツール、AIの活用 が進んでいます。
ここでは、最新の技術トレンドと、それらを活用した導入事例を紹介します。
6-1-1. 最新の技術トレンド
ディザスタリカバリの最新トレンドには、クラウドネイティブの復旧戦略、AIによる障害予測、自動化による迅速な復旧などがあります。
① クラウドネイティブなDR戦略
従来のディザスタリカバリは、オンプレミス環境のバックアップとリストアが中心でしたが、現在では クラウドベースの復旧が主流 になっています。
技術 | 特徴 | メリット |
---|---|---|
マルチクラウドDR | 複数のクラウドプロバイダーを活用し、障害発生時に別クラウドへ切り替え | クラウド障害に対する耐性向上 |
クラウドリージョン間レプリケーション | AWS、Azure、Google Cloudなどで複数リージョンにデータを同期 | 地理的なリスクを分散 |
コンテナ化とKubernetes | Kubernetesを活用したアプリケーションの可搬性確保 | 柔軟なデプロイと迅速な復旧 |
② AIと機械学習を活用した障害予測
AIや機械学習を活用し、システムの異常を事前に検出し、障害を未然に防ぐ技術が発展しています。
- ログ分析による障害予測:システムログをAIが解析し、異常パターンを検出
- 自己回復型インフラ(Self-Healing Infrastructure):障害を検知すると自動でリカバリ処理を実行
- 異常検知アルゴリズムの活用:トラフィックの異常変動を検知し、DDoS攻撃などに迅速に対応
③ 自動化によるディザスタリカバリの高速化
ディザスタリカバリのプロセスを 自動化 することで、復旧時間(RTO)を短縮し、業務への影響を最小限に抑えることが可能です。
- Infrastructure as Code(IaC):TerraformやAnsibleを活用して、インフラ復旧を自動化
- オーケストレーションツール:AWS Lambda、Google Cloud Functionsなどを活用し、復旧フローを自動実行
- 自動フェイルオーバー:オンプレミスからクラウドへの自動切り替えシステムを構築
6-1-2. 企業の導入事例
最新のディザスタリカバリ技術を導入し、事業継続性を強化した企業の事例を紹介します。
① 金融業界:マルチクラウドDRの導入
- 企業名:某大手金融機関
- 課題:単一クラウドプロバイダーの障害により、サービスダウンのリスクがあった
- 導入技術:
- AWSとGoogle Cloudのマルチクラウド環境を構築
- リアルタイムレプリケーションを実施
- 結果:
- クラウド障害時でも業務継続が可能に
- RTOを1時間以内に短縮
② 製造業:Kubernetesを活用した可搬性の確保
- 企業名:某グローバル製造業
- 課題:オンプレミスのシステムが災害に弱く、復旧に時間がかかっていた
- 導入技術:
- Kubernetes上にマイクロサービスアーキテクチャを構築
- クラウド環境でのデプロイを標準化
- 結果:
- 障害発生時に即座に別リージョンへ切り替え可能
- 復旧時間を従来の50%短縮
③ 小売業:AIによる障害予測と自己回復
- 企業名:某大手ECサイト
- 課題:突発的なトラフィック増加やDDoS攻撃によるシステムダウンのリスク
- 導入技術:
- AIによるリアルタイム監視と異常検知
- 自己回復型インフラの構築
- 結果:
- 異常発生の90%を事前に検知
- 障害発生時のダウンタイムを30%削減