ルータ設定をしていると必ず出てくる「ip prefix」ですが、「/24 と /25 の違いは?」「ge/le で実際どこまで許可しているの?」と、何となくで設定していませんか。
少しの勘違いが、経路ハイジャックや通信断など大きなトラブルにつながることもあります。
本記事では、ip prefix の基礎から prefix-list の実践設定、IPv6・クラウド・自動化までを、現場目線で分かりやすく解説します。
この記事は以下のような人におすすめ!
- IP Prefixとは何か知りたい人
- ip prefix と単なる IPアドレス/サブネットマスクの違いが分からない人
- IP Prefixの設計が分からなくて困っている
目次
基礎から理解する「ip prefix」
ネットワークの設計やルータの設定をしていると、必ず出てくるキーワードが「ip prefix」です。
しかし、いきなり ip prefix-list などの設定例だけを見ると、「そもそも ip prefix って何?」「IPアドレスとの違いは?」と感じる人も多いはずです。
そこでこの章では、
- 「ip prefix/アドレスプリフィックス」とは何か
- ip prefix の表記ルール(CIDR形式/スラッシュ付き表記)
- なぜネットワーク部とホスト部を分けるのか、その役割
を、順番にかみ砕いて解説していきます。
1-1. 「ip prefix/アドレスプリフィックス」とは何か?
まず、基本の定義から整理しましょう。
1-1-1. ip prefix のカンタンなイメージ
「ip prefix(アドレスプリフィックス)」とは、
IPアドレスの「先頭の何ビットか」を取り出して、「この範囲のアドレスの集合」を表すための書き方です。
もう少しくだいて言うと、次のように理解すると分かりやすくなります。
- IPアドレス:1つの家の住所
- ip prefix:同じ町内・同じ丁目など、「住所のまとまり」を示すもの
つまり、ip prefix は「この範囲のIPアドレスをひとまとめにして扱います」という“くくり”を表現するための考え方です。
1-1-2. ip prefix が使われる主な場面
ip prefix は、ネットワーク機器や設計の中で、次のような場面でよく使われます。
| 使用場面 | 具体例 | ip prefix の役割 |
|---|---|---|
| ルーティング(経路制御) | BGP、OSPF、スタティックルートなど | どのネットワーク宛の通信かを識別する |
| フィルタリング | ip prefix-list、ルートフィルタ、ACL など | 通す/止める経路やアドレス範囲を絞り込む |
| アドレス設計・サブネット化 | 社内LANの分割、VLANごとのネットワーク設計など | ネットワークを効率よく分割し、アドレスを管理する |
したがって、ip prefix は「ルーティングの基本単位」としても、「セキュリティやフィルタリングの条件」としても、とても重要な概念だと言えます。
1-2. ip prefix の表記(CIDR形式/「/」付き)と意味
次に、「ip prefix の書き方」を整理しておきましょう。
多くの人が最初につまずくポイントは、「192.168.1.0/24 の /24 は何を意味しているのか」という部分です。
1-2-1. CIDR形式とは何か
ip prefix は、一般的に「CIDR(Classless Inter-Domain Routing)形式」で表記されます。
具体的には、次のような形です。
- IPv4 の例:
192.168.1.0/24 - IPv6 の例:
2001:db8::/32
ここで重要なのは、スラッシュの後ろの数字です。
/24や/32などの数字は、「ネットワーク部として使うビット数」を意味する- 残りのビットは「ホスト部(端末を区別する部分)」として使われる
つまり、192.168.1.0/24 という ip prefix は、
「先頭の24ビットはネットワーク部として固定し、それ以外のビットでホストを区別するアドレスの集合」
を表していると理解できます。
1-2-2. 具体例で理解する ip prefix の範囲
もう少しイメージをつかむために、代表的な ip prefix を表にしてみます。
| ip prefix | 含まれるアドレスの例 | ホスト部の数(理論値) |
|---|---|---|
| 192.168.1.0/24 | 192.168.1.0 ~ 192.168.1.255 | 256個 |
| 192.168.1.0/25 | 192.168.1.0 ~ 192.168.1.127 | 128個 |
| 192.168.1.128/25 | 192.168.1.128 ~ 192.168.1.255 | 128個 |
| 10.0.0.0/8 | 10.0.0.0 ~ 10.255.255.255 | 約1677万個 |
同じ「192.168.1」というアドレス帯でも、
/24/25
のようにプレフィックス長(スラッシュの後ろの数字)が変わるだけで、カバーするアドレス範囲が変わります。
だからこそ、ip prefix を正しく理解しておくことが、ネットワーク設計やルーティングの精度に直結します。
1-2-3. ip prefix と「単なるIPアドレス」の違い
ここまでを整理すると、次のように区別できます。
- IPアドレス
- 1台の端末や1つのインターフェースを指す「点」のイメージ
- 例:
192.168.1.10
- ip prefix(CIDR表記)
- ある範囲のIPアドレスをまとめて表す「面」のイメージ
- 例:
192.168.1.0/24(192.168.1.0 ~ 192.168.1.255 の集合)
つまり、ip prefix は「IPアドレスの集合に名前をつけたもの」と捉えると、とても分かりやすくなります。
1-3. なぜネットワークとホストを分けるのか:ip prefix の役割
最後に、「なぜ ip prefix でネットワーク部とホスト部を分ける必要があるのか」を押さえておきましょう。
これは、ルーティング・セキュリティ・アドレス設計のすべてに関わる、とても重要なポイントです。
1-3-1. ルータは「ネットワーク単位」でしか覚えない
ルータは、インターネット上のすべてのIPアドレスを1つずつ覚えているわけではありません。
そうではなく、ip prefix を単位として経路情報を管理しています。
たとえば、
192.168.1.0/24という ip prefix への経路が1つあれば、
その中に含まれる192.168.1.10192.168.1.100
といった個別のアドレスに対しても、「このネットワーク宛だから、この経路で送ればよい」と判断できます。
したがって、ip prefix があるからこそ、ルータは
- 経路表をコンパクトに保てる
- ルーティングを高速に処理できる
というメリットを得られます。
1-3-2. 経路集約(サマリ)でインターネット全体をスリムにする
さらに、ip prefix は「経路集約(サマリ)」でも活躍します。
複数の細かいネットワークを、より大きな ip prefix にまとめてしまうことで、経路情報の数を減らすことができます。
例として、
- 192.168.0.0/24
- 192.168.1.0/24
- 192.168.2.0/24
- 192.168.3.0/24
これら4つのネットワークは、次の1つの ip prefix でまとめられます。
- 192.168.0.0/22
このように ip prefix を上手に設計・運用することで、
- ルーティングテーブルの肥大化を防ぐ
- ネットワーク全体の安定性を高める
といった効果が期待できます。
1-3-3. セキュリティやアクセス制御にも役立つ ip prefix
さらに重要なのが、セキュリティ面での ip prefix の役割です。
例えば、特定ネットワークからの通信のみを許可したい場合、
- 個々のIPアドレスを1つずつ許可する
よりも 192.168.1.0/24のような ip prefix でまとめて条件を書く
方が、設定も簡単で、漏れや誤りも減らせます。
具体的には、次のような用途があります。
- ルートフィルタ:
「この ip prefix だけ BGP で受け入れる/広告する」 - アクセス制御:
「この ip prefix からのアクセスのみ許可する」
つまり、ip prefix を理解していないと、
- 想定外のネットワークからの通信を許してしまう
- 本来通すべきネットワークを誤って遮断してしまう
といった設定ミスにつながるリスクがあります。
1-3-4. まとめ:ip prefix は「設計・ルーティング・セキュリティ」の土台
ここまでをまとめると、ip prefix には次のような役割があります。
| 観点 | ip prefix の役割 |
|---|---|
| 設計 | ネットワークとホストの境界を決め、アドレスを整理する |
| ルーティング | 経路情報をネットワーク単位で管理し、効率的に転送する |
| セキュリティ | フィルタリングやアクセス制御の条件として利用する |
つまり、ip prefix は、単なる表記ルールではなく、
ネットワークの設計・運用・セキュリティを支える「基本概念」です。
この後の章では、
ip prefix-listの具体的な書き方ge/leなどの条件指定- ベンダーごとのコマンド例
など、より実務的な内容に踏み込んでいきますが、
その土台として、ここで解説した「ip prefix の意味と役割」をしっかり押さえておくと理解がかなりスムーズになります。
ip prefix が実務で使われる場面
ここまでで「ip prefix とは何か」「どのように表記するのか」を押さえました。
次に気になるのは、「実際の現場で ip prefix はどこで使われているのか」という点だと思います。
実務では、ip prefix は主に次の3つの場面で使われます。
- ルーティング制御(経路の広告・経路集約)
- フィルタリング(経路フィルタ・アクセス制御)での ip prefix-list
- クラウドやインターネット接続におけるパブリック IP プレフィックスの管理
つまり、ip prefix を理解しておくと、ネットワークの「動き」と「守り」の両方をきちんとコントロールできるようになります。以下で順番に見ていきましょう。
2-1. ルーティング制御における ip prefix(経路広告・集約)
2-1-1. ルータは ip prefix を単位に経路を判断する
ルータは、個々の IP アドレスではなく「ip prefix 単位」で経路情報を管理しています。
たとえば、次のような経路情報があったとします。
192.168.10.0/24 -> 次ホップ A192.168.20.0/24 -> 次ホップ B
このとき、192.168.10.5 宛てのパケットが来ても、ルータは
- 192.168.10.5 は、192.168.10.0/24 に含まれる
→ したがって、「次ホップ A へ送ればよい」と判断
という流れで転送します。
つまり、ルータにとって ip prefix は「このネットワーク宛てのパケットはどこへ送るか」を決めるための基本単位なのです。
2-1-2. 経路広告では ip prefix が「名刺」のような役割を持つ
OSPF や BGP などのルーティングプロトコルでは、自分が到達可能な ip prefix を、他のルータに広告(アドバタイズ)します。
イメージとしては、次のような「名刺交換」に近いものだと考えると分かりやすくなります。
- 自分:「192.168.10.0/24 と 192.168.20.0/24 には、うち経由で行けますよ」
- 相手:「では、その ip prefix 宛の通信が来たら、あなたに渡しますね」
このように、ルータ同士が ip prefix をやり取りすることで、ネットワーク全体の経路が自動的に構築されていきます。
ポイントを整理すると次の通りです。
- ip prefix は「どのネットワークに行けるか」を示す情報
- 経路広告は「自分が到達できる ip prefix のリスト」を配るイメージ
- 広告する ip prefix を間違えると、誤経路・経路ハイジャックの原因になる
したがって、ルーティング設計では、どの ip prefix を広告するかを慎重に決める必要があります。
2-1-3. 経路集約(サマリ)でルーティングをシンプルにする
実務では、ip prefix を細かく広告しすぎると、ルーティングテーブルが肥大化してしまいます。
そこで活躍するのが「経路集約(サマリ)」です。
例として、以下の4つのネットワークを考えます。
- 10.10.0.0/24
- 10.10.1.0/24
- 10.10.2.0/24
- 10.10.3.0/24
これらは、1つの大きな ip prefix としてまとめられます。
- 10.10.0.0/22
このように ip prefix を集約することで、次のようなメリットがあります。
| 項目 | メリット |
|---|---|
| ルーティングテーブル | 登録するエントリが減り、ルータの負荷が軽くなる |
| ネットワーク設計 | 経路設計がシンプルになり、トラブルシュートもしやすい |
| インターネット全体の規模 | BGP 経路数の増加を抑え、全体の安定性向上に貢献できる |
ただし、集約しすぎると「本当は分けて扱いたいネットワーク」が一つに見えてしまい、
セキュリティポリシーやトラフィック制御との整合性が取れなくなることもあります。
そのため、ip prefix の集約はメリットとデメリットを理解したうえで設計することが重要です。
2-2. フィルタリング(アクセス制御/経路制御)における ip prefix-list の活用
次に、ip prefix が「フィルタリング」でどのように使われるかを見ていきます。
ここでよく登場するのが「ip prefix-list」という機能です。
2-2-1. 経路フィルタとしての ip prefix-list
ip prefix-list は、主に「どの ip prefix の経路を受け入れるか/広告するか」を制御するために使われます。
たとえば BGP では、次のようなイメージです。
- この ip prefix だけ相手から受け取る
- この ip prefix は相手に広告しない
- この範囲の ip prefix だけ許可し、それ以外はすべて拒否する
これにより、想定外の経路がルーティングテーブルに混入することを防げます。
つまり、ip prefix-list は「経路版のホワイトリスト・ブラックリスト」のような役割を持ちます。
活用イメージを箇条書きにすると、次のようになります。
- 自社が保有していない ip prefix を受け入れない
- 取引先に広告してよい ip prefix を限定する
- より具体的な ip prefix(長いプレフィックス長)だけを許可する
このように ip prefix-list を使うことで、経路制御のセキュリティレベルを高めることができます。
2-2-2. アクセス制御(ACL)との違いと使い分け
ここでよくある疑問が、「ip prefix と ACL の違いは何か」という点です。
両方とも IP を見て制御しますが、目的と対象が異なります。
| 項目 | ip prefix / ip prefix-list | ACL(アクセスリスト)のイメージ |
|---|---|---|
| 主な対象 | 経路情報(ルーティングのエントリ) | 通信パケットそのもの |
| 主な用途 | 経路の受け入れ・広告の制御 | 通信の許可・拒否(ファイアウォール的な役割) |
| 単位 | ip prefix(ネットワーク単位) | IPアドレス、ポート番号、プロトコルなど |
| 代表的な使い道 | BGP ルートフィルタ、経路のホワイトリスト/制限 | SSH だけ許可、特定セグメントからの通信を禁止など |
つまり、
- 経路そのものを制御したいときは ip prefix-list
- 通信の中身(ポート、プロトコル)まで含めて制御したいときは ACL
というイメージで使い分けると理解しやすくなります。
2-2-3. ip prefix-list 設計時のポイント
ip prefix-list を使って経路を制御するときは、次のポイントを意識すると安全です。
- まず「許可するべき ip prefix の一覧」を洗い出す
- 次に、「それ以外はデフォルトで拒否する」方針を取る
- ge / le などの条件指定を使う場合は、範囲が広すぎないかを必ず確認する
- 変更前後で、受け入れる ip prefix の差分を把握しておく
なぜなら、ip prefix-list のミスは、
- 必要な経路が消えて通信断になる
- 逆に意図しない経路を許可してしまい、経路ハイジャックの助長になる
といった重大なトラブルにつながりやすいからです。
したがって、ip prefix と ip prefix-list を扱うときは、「どの範囲のアドレスを、どのような粒度で許可するか」を常に意識して設計することが重要です。
2-3. クラウド/パブリックIPプレフィックスとしての利用例
最後に、クラウドやインターネット接続の現場で、ip prefix がどのように扱われているかを整理しておきます。
2-3-1. クラウド事業者が公開する ip prefix 一覧
主要なクラウドサービス(IaaS や SaaS)では、自分たちが利用しているパブリック IP アドレス帯を「ip prefix の一覧」として公開しています。
これらは、よく「パブリック IP プレフィックス」「サービスの IP レンジ」などと呼ばれます。
この ip prefix 一覧を使うことで、次のようなことが可能になります。
- クラウドサービス宛の通信だけをファイアウォールで許可する
- 特定のリージョンやサービスに対応した ip prefix だけを通す
- プロキシやセキュリティ製品で、クラウド向けトラフィックを適切に扱う
つまり、クラウド環境では「どのパケットがどのサービスに向かっているか」を見分けるために、ip prefix 情報が重要な役割を果たしています。
2-3-2. ファイアウォール・プロキシ設定での ip prefix 活用
オンプレミスのネットワークからクラウドサービスを利用する場合、多くの企業は次のような要件を持ちます。
- 不要な外向き通信は禁止したい
- しかし、業務で必要なクラウドサービスにはアクセスさせたい
このとき、クラウド側が提供する ip prefix 一覧を使えば、
- 「この ip prefix 宛ての通信は許可」
- それ以外の外向き通信は制限
というポリシーを設定しやすくなります。
具体的な設定イメージは次の通りです。
- ファイアウォールの送信元:社内セグメント
- ファイアウォールの宛先:クラウドサービスの ip prefix(複数)
- 許可ルール:業務で必要なポート・プロトコルのみ
このように、ip prefix をうまく使うことで、「セキュリティを維持しながらクラウドを活用する」ことが可能になります。
2-3-3. 自社が保有するパブリック ip prefix の管理
インターネット接続を行う企業やサービス事業者は、自社でパブリック IP アドレスを保有・管理している場合があります。
このとき、自社のパブリック ip prefix をどのように広告し、どのように守るかが非常に重要になります。
具体的には、次のような観点があります。
- BGP で広告する自社 ip prefix を適切に設計する
- 他者に勝手に自社 ip prefix を広告されないよう、RPKI などで防衛する
- パブリック ip prefix ごとに用途(サービス用・VPN用・管理用など)を整理する
整理された ip prefix 管理ができていないと、
- どのパブリック IP がどのサービスで使われているか分からなくなる
- セキュリティインシデント時に、どのサービスに影響があるか追えない
といった問題が発生します。
だからこそ、クラウドやインターネット接続の時代においても、「ip prefix を単位としたアドレス設計と管理」が不可欠になっているのです。
このように、ip prefix は単なる表記ルールではなく、
- ルーティング制御の基礎
- 経路フィルタリング・アクセス制御
- クラウドやパブリック IP 管理
といった、実務のさまざまな場面で登場する重要な概念です。
次の章では、実際の ip prefix-list の書き方や ge / le といった指定方法を、具体的な設定例を交えながら解説していきます。
「ip prefix-list」コマンド・設定の具体例
ここからは、いよいよ ip prefix を実際に設定で扱う「ip prefix-list」に踏み込みます。
設定例が分かると、ip prefix の理解が一気に現場レベルに近づきます。
この章では次の3つのポイントを押さえます。
- ベンダー別の ip prefix / prefix-list のコマンド構文
ge/leオプションの意味と使い方- 実務で ip prefix-list を設定するときの手順とチェックポイント
順番に見ていきましょう。
3-1. ベンダー別コマンド構文(Cisco・Huawei・Juniper)
まずは、「ベンダーごとに ip prefix-list の書き方が微妙に違う」という点を整理します。
同じ ip prefix を扱う設定でも、Cisco・Huawei・Juniper ではコマンド体系が異なるため、
頭の中で「どのベンダーはどの書き方か」をざっくり整理しておくと混乱を防げます。
3-1-1. Cisco IOS / IOS-XE / IOS-XR 系の ip prefix-list
Cisco のルータでは、ip prefix-list という名前の設定で ip prefix を扱います。
基本的な構文イメージは、次のような形です。
- ip prefix-list に名前をつける
permit/denyで ip prefix を許可・拒否する- 必要に応じて
ge/leでプレフィックス長の範囲を指定する
表にまとめると、よく使うパターンは次のようになります。
| 用途 | 構文イメージ | 説明 |
|---|---|---|
| 特定の ip prefix を許可 | ip prefix-list LIST-NAME permit 192.168.1.0/24 | 192.168.1.0/24 だけを許可 |
| 特定の ip prefix を拒否 | ip prefix-list LIST-NAME deny 10.0.0.0/8 | 10.0.0.0/8 を拒否 |
| 範囲をまとめて許可(ge/le) | ip prefix-list LIST-NAME permit 192.168.0.0/16 ge 24 le 28 | /16 の下にある /24〜/28 を許可 |
この ip prefix-list を、BGP やルートマップで参照することにより、
「どの ip prefix を広告するか・受け入れるか」を制御します。
3-1-2. Huawei の ip ip-prefix(prefix-list に相当)
Huawei では、Cisco の ip prefix-list に相当する機能として、ip ip-prefix が用意されています。
構文の考え方は Cisco とほぼ同じですが、書き方は次のようになります。
- まず
ip ip-prefix <名前> index <番号> permit/deny ...でエントリを作成 - その後、ルートポリシー等で参照
よくあるイメージは以下の通りです。
| 用途 | 構文イメージ(概念レベル) | 説明 |
|---|---|---|
| 特定の ip prefix を許可 | ip ip-prefix NAME index 10 permit 192.168.1.0 24 | index 10 のエントリで /24 を許可 |
| 範囲を指定して許可(ge/le) | ip ip-prefix NAME index 20 permit 192.168.0.0 16 greater-equal 24 less-equal 28 | /24〜/28 を許可 |
Cisco の ge / le が、Huawei だと greater-equal / less-equal という表現になっているイメージです。
つまり、「やっていることは同じだがキーワードが違う」と押さえておくと混乱しにくくなります。
3-1-3. Juniper の policy-options prefix-list
Juniper(Junos OS)では、policy-options の中で prefix-list を定義するスタイルが一般的です。
ここでは prefix-list というオブジェクトの中に ip prefix を列挙していきます。
イメージとしては次のようになります。
set policy-options prefix-list LIST-NAME 192.168.1.0/24のように ip prefix を追加- その prefix-list をポリシーステートメントで参照し、許可・拒否を制御
Cisco/Huawei との違いをざっくりまとめると、次の通りです。
| ベンダー | 定義の名前 | ip prefix の列挙方法 | 許可/拒否の指定 |
|---|---|---|---|
| Cisco | ip prefix-list | 行ごとに permit / deny を記述 | 行ごとに指定 |
| Huawei | ip ip-prefix | index 単位で permit / deny を指定 | 行ごとに指定 |
| Juniper | policy-options prefix-list | prefix-list は「集合」で、動作は別ポリシーで決定 | ポリシー側で指定 |
このように、どのベンダーも ip prefix をリスト化して扱っている点は同じです。
しかし、「許可・拒否をどこで決めるか」「キーワード名」が違うため、
実務ではそれぞれのベンダーの癖に慣れておくことが重要です。
3-2. ge / le オプションの使い方と意味
次に、ip prefix-list の設定で非常に重要な ge / le オプションについて解説します。
なぜなら、この2つを理解していないと、「想定より広い範囲を許可してしまう」といった危険な設定ミスにつながるからです。
3-2-1. ge / le の基本的な考え方
ge / le は、ip prefix の「プレフィックス長(/の後ろの数字)」の範囲を指定するためのオプションです。
ge:greater-equal(以上)le:less-equal(以下)
つまり、「ベースとなる ip prefix の範囲の中で、どの長さのプレフィックスを対象にするか」を指定します。
例として、次の設定イメージを考えてみます。
- ベース:
10.0.0.0/8 - 条件:
ge 16 le 24
これは、「10.0.0.0/8 の中に含まれる /16 〜 /24 のプレフィックスを対象とする」という意味になります。
3-2-2. よくあるパターンを表で整理
理解を深めるために、代表的なパターンを表にしておきます。
| 設定イメージ | 意味 |
|---|---|
ip prefix-list PL permit 192.168.0.0/16 | 192.168.0.0/16 だけを許可 |
ip prefix-list PL permit 192.168.0.0/16 ge 24 | 192.168.0.0/16 配下の /24 以上の長さのプレフィックスを許可 |
ip prefix-list PL permit 192.168.0.0/16 ge 24 le 28 | /24 ~ /28 のみを対象にする |
ip prefix-list PL permit 0.0.0.0/0 le 32 | すべてのプレフィックス(/0 ~ /32)を対象にする |
とくに最後の 0.0.0.0/0 le 32 は、「全部通す」設定に近いイメージなので、
誤って書くと非常に危険です。
したがって、ge / le を使うときは「どこからどこまでの長さを含めるのか」を明確にイメージしておく必要があります。
3-2-3. 実務で役立つ ge / le の活用例
実務では、次のようなケースで ge / le がよく使われます。
- 自社 AS から細かいサブネットを広告しないように制限する
- あまり細かすぎる ip prefix(/25〜/32 など)を受け入れないようにする
- 特定の上位プレフィックス配下の、一定範囲の長さだけ許可したい
例として、「/24 より細かいプレフィックスは受け入れたくない場合」を考えてみます。
- ベース:
0.0.0.0/0 - 条件:
le 24
このような ip prefix-list を経路フィルタとして使えば、
/25〜/32 のような細かすぎる経路を除外することができます。
つまり、ge / le をうまく設計することで、ルーティングテーブルの健全性や安定性を保つことができるのです。
3-3. 実践設定手順とチェックポイント(誤設定を防ぐために)
最後に、ip prefix-list を実際に設計・設定する手順と、誤設定を防ぐためのチェックポイントを整理します。
ここを押さえておくと、「なんとなく設定」から一歩進んだ、安全な運用ができるようになります。
3-3-1. ip prefix-list 設計の基本ステップ
ip prefix-list を使うときは、いきなりコマンドを打つのではなく、まず紙やメモで設計してから実装するのがおすすめです。
基本的なステップは次の通りです。
- 目的を整理する
- 何をしたいのか?
- 受け入れたい経路を限定したいのか
- 広告する経路を制限したいのか
- 特定サービス向けの ip prefix だけ許可したいのか
- 何をしたいのか?
- 対象となる ip prefix の一覧を洗い出す
- 自社保有アドレス
- パートナー/クラウドサービスのプレフィックス
- 許可したい/禁止したい範囲
- 個別列挙か範囲指定(ge/le)かを決める
- 数が少ない → 個別に書く方が安全
- パターンが明確に分かれている → ge / le で範囲指定
- 「デフォルトは deny」にする方針を基本とする
- 必要な ip prefix を permit
- その他は暗黙の deny(または明示的な deny)
この流れに沿って設計すると、抜け漏れや想定外の許可を減らすことができます。
3-3-2. 設定前にチェックすべきポイント
実際に ip prefix-list を投入する前に、最低限チェックしておきたいポイントを表にまとめます。
| チェック項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 対象 ip prefix は本当に正しいか | アドレス帯・プレフィックス長に誤りはないか |
| ge / le の範囲が広すぎないか | 想定外の細かいプレフィックスまで含めていないか |
| permit / deny の方向は正しいか | 本来通したいものを deny していないか |
| デフォルト動作を把握しているか | 最後に暗黙の deny が働くかどうか |
| テスト環境/影響範囲の確認 | いきなり本番に適用せず、影響範囲を必ず確認しているか |
特に ip prefix とプレフィックス長の組み合わせは、「/24 と /25 を書き間違えた」「10.0.0.0/8 と 172.16.0.0/12 を勘違いした」といった単純ミスが起きやすい部分です。
したがって、設定前に第三者レビューを入れるなど、ダブルチェックの仕組みを作っておくと安全です。
3-3-3. 適用後に確認すべきポイント(運用面)
ip prefix-list をルータに適用したら、設定して終わりではなく、「本当に狙い通りの動きになっているか」を確認することが重要です。
具体的には、次のような観点で確認するとよいでしょう。
- ルーティングテーブル
- 期待通りの ip prefix だけが乗っているか
- 消えてはいけない経路が消えていないか
- ルーティングプロトコルの表示
- BGP / OSPF の経路数が極端に減ったり増えたりしていないか
- 特定のピアとのセッションが不安定になっていないか
- 実際の疎通テスト
- ping / traceroute で重要な宛先に到達できるか
- サービスやアプリケーションが正常に動作しているか
このように、「設定 → 確認 → 必要なら微修正」というサイクルを回すことで、
ip prefix-list を使った経路制御を安全に運用することができます。
ip prefix に関するトラブル/よくある誤解
ここまでで、ip prefix の基本や設定方法を見てきました。
しかし、実務では「概念は分かったつもりでも、微妙な設定ミス」で大きなトラブルにつながることが少なくありません。
そこでこの章では、ip prefix に関して特に起こりやすいトラブルや誤解を取り上げ、
- プレフィックス長(/ の数)の選び方の失敗
- ip prefix-list 設計の甘さによるフィルタ漏れ・経路ハイジャック
- IPv4 と IPv6 の ip prefix を同じ感覚で扱ってしまう危険
といったポイントを整理していきます。
4-1. 過度な前置長(/ の数が大きすぎ/小さすぎ)による影響
4-1-1. 「最長一致ルール」と前置長の関係
まず押さえておきたいのが、ルータは ip prefix を「最長一致(Longest Match)」で評価するというルールです。
- 同じ宛先アドレスに対し、複数の ip prefix がマッチする場合
- プレフィックス長(/ の数字)が最も大きい経路が優先される
という動きになります。
例として、次の 2 つの ip prefix がルーティングテーブルにあるとします。
- 10.0.0.0/8
- 10.1.0.0/16
このとき、宛先が 10.1.2.3 のパケットは、
- 10.0.0.0/8 にもマッチするが
- より前置長が長い 10.1.0.0/16 が優先される
つまり、「どの ip prefix をどの前置長で広告するか」によって、実際の経路選択が大きく変わるということです。
4-1-2. 前置長が長すぎる場合に起こる問題
では、前置長(/ の数)が「長すぎる」場合はどうなるでしょうか。
代表的な問題は次の通りです。
- 細かい ip prefix を大量に広告してしまい、経路数が増えすぎる
- 本来は上位の ip prefix でまとめて扱うべきネットワークを、無意味に分割している
- ある区間だけを誤って /32(単一 IP)などで広告し、トラフィックが意図しない場所に集まる
特に BGP の世界では、「/24 より長い IPv4 プレフィックスは受け入れない」といったポリシーが一般的なため、
- /25 や /28 などをインターネット側に広告しても無視される
- したがって、意図通りにトラフィックが流れない
といったトラブルの原因にもなります。
つまり、「細かく分ければ分かるほど良い」というものではなく、ip prefix の前置長には“常識的な範囲”があると理解することが重要です。
4-1-3. 前置長が短すぎる場合に起こる問題
逆に、前置長が短すぎる(/ の数が小さすぎる)場合も問題になります。代表的には次のようなリスクがあります。
- 想定より広い ip prefix を広告してしまい、自分が持っていないアドレス帯まで「行ける」と主張してしまう
- 結果として、他者のトラフィックが誤って自ネットワークに流れ込み、いわゆる経路ハイジャックのような状態になる
- フィルタ設計が粗くなり、意図しないアドレス帯まで許可してしまう
フォームで整理すると、前置長の選び方による典型的な影響は次の通りです。
| 前置長の傾向 | 主な影響 |
|---|---|
| 長すぎる(/28, /32 等) | 経路数の増加、受け入れ拒否、トラフィックの偏り |
| 短すぎる(/8, /16 等) | 経路の範囲が広すぎて、他者アドレスまで巻き込む |
したがって、ip prefix を設計するときは、「そのネットワークをどの単位で管理したいか」「外部にどの範囲まで見せるべきか」を意識して前置長を決める必要があります。
4-2. フィルタ漏れ・経路ハイジャック・誤集約のリスク
4-2-1. ip prefix-list の「一行のミス」が大事故につながる理由
ip prefix-list や経路フィルタは、「大量の ip prefix を一括で制御できる強力な道具」です。
しかし、その分、1 行の設定ミスがインターネット全体に影響することもあります。
よくあるパターンは次のようなものです。
- 本来 deny すべき ip prefix を permit にしてしまう
- ge / le の範囲指定が広すぎて、想定外のプレフィックスまでマッチしてしまう
- デフォルト deny を入れ忘れ、「何でも通る」ルールになってしまう
つまり、ip prefix そのものは正しくても、「フィルタの設計が甘いだけで」重大なトラブルが起きうるということです。
4-2-2. 経路ハイジャックと「より長い ip prefix」の悪用
経路ハイジャックの代表的な手口のひとつは、「他者の ip prefix より長いプレフィックスを広告する」ことです。
例として、本来は次のような正規の経路があるとします。
- 正規の経路:203.0.113.0/24(AS X が広告)
ここで、悪意のある AS Y が次の経路を広告するとどうなるでしょうか。
- 悪意ある経路:203.0.113.0/25(AS Y が広告)
ルータは「最長一致」を優先するため、
- 203.0.113.0/24 よりも 203.0.113.0/25 の方が優先される
- その結果、203.0.113.0/25 宛のトラフィックが AS Y 側に流れてしまう
このように、ip prefix の前置長の特性を悪用することで、特定範囲の通信を自分に誘導してしまうことが可能になります。
だからこそ、ip prefix に基づくフィルタリングや RPKI などのセキュリティ技術が重要視されているわけです。
4-2-3. 誤集約(サマリミス)による「巻き込み事故」
経路集約(サマリ)は ip prefix を使いこなすうえで非常に有効ですが、誤った集約は別のトラブルを生みます。
たとえば、本来扱うべきネットワークが
- 198.51.100.0/24
だけであるにもかかわらず、誤って
- 198.51.0.0/16
を広告してしまったとします。
この場合、
- 自分が管理していない 198.51.50.0/24 など他者のアドレス帯まで「自分が行ける」と主張したことになり、
- 他者のトラフィックを巻き込んでしまう可能性があります。
整理すると、誤集約の典型的なリスクは次の通りです。
- 他者の ip prefix の一部を勝手に包含してしまう
- 本来通すべきではないトラフィックが自ネットワークに向かう
- その結果、自ネットワークだけでなく相手側にも障害が広がる
したがって、ip prefix を集約するときは、
- 集約後のプレフィックスが「他者のアドレス帯」を含んでいないか
- そもそもその範囲を自分が広告してよい立場か
を必ず確認することが重要です。
4-3. IPv4 と IPv6 での ip prefix の違いや注意点
4-3-1. IPv4 と同じ感覚で IPv6 の ip prefix を見ると危険
最後に、IPv4 と IPv6 における ip prefix の違いについて整理します。
多くのエンジニアが最初にやってしまうミスは、「IPv4 の感覚をそのまま IPv6 に持ち込んでしまう」ことです。
しかし、IPv6 では
- アドレス長が 128 ビット
- 利用される ip prefix の慣習(/64 など)が IPv4 と大きく異なる
といった特徴があります。
したがって、同じ「ip prefix」でも、扱い方や常識がかなり違う点に注意が必要です。
4-3-2. 典型的なプレフィックス長の慣習の違い
IPv4 と IPv6 でよく使われるプレフィックス長を整理すると、違いが見えやすくなります。
| 用途・イメージ | IPv4 の一般的な ip prefix | IPv6 の一般的な ip prefix |
|---|---|---|
| 1 ホスト(単一 IP) | /32 | /128 |
| 小さめのサブネット | /24 | /64(1 セグメント単位の標準) |
| 大きめの割り当て | /16 や /8 | /48 や /32 など |
特に重要なのが、「IPv6 の 1 セグメントは /64 が基本」という点です。
したがって、
- /64 より長いプレフィックス(/96、/112 など)を乱用すると、
- 一部の機能やプロトコル(SLAAC など)との相性が悪くなることがあります。
つまり、IPv6 では「/64 を基本単位に設計する」という ip prefix 設計の常識を押さえておく必要があります。
4-3-3. フィルタリングポリシーの違いと ip prefix-list の注意点
IPv4 と IPv6 では、インターネット全体で採用されているフィルタリングポリシーも異なります。
代表的なポイントは次の通りです。
- IPv4
- インターネット上では /24 より長い ip prefix は受け入れないケースが多い
- そのため、/25〜/32 を広告しても無視されることがある
- IPv6
- 一般的に /48 までの経路を受け入れる方針が多い
- ただし、運用ポリシーは事業者により違いがあり、/56 や /64 の扱いも注意が必要
このため、IPv6 で ip prefix-list を設計する際には、
- 「自分の上流・ピアがどのプレフィックス長まで受け入れてくれるか」
- 「自社がどのプレフィックス長まで広告したいか」
を事前に確認し、それに合わせて prefix-list を調整する必要があります。
また、次のような点も IPv6 では重要です。
- IPv4 では考えにくいほど巨大なアドレス空間を持つため、「雑な範囲指定」が重大なフィルタミスにつながる
- つまり、ip prefix-list の ge / le を軽い気持ちで広く取りすぎると、思わぬ範囲を巻き込む可能性がある
したがって、IPv6 の ip prefix を扱うときほど、「どのビットまでがネットワーク部か」「どの長さをどこまで許可するか」を明確に意識して設計することが重要です。
ネットワーク設計・運用視点で見る ip prefix のベストプラクティス
ここまでで、ip prefix の基礎・設定方法・トラブル例を見てきました。
では、実際のネットワーク設計や運用の現場では、ip prefix をどのように扱うのが「ベストプラクティス」と言えるのでしょうか。
ここでは、次の3つの観点から整理します。
- 企業ネットワーク/データセンターにおける ip prefix 設計の考え方
- 運用時に ip prefix をどのようにモニタリングし、異常を検知するか
- RPKI や BGP セキュリティといった仕組みと、ip prefix 管理の関係
順番に見ていきましょう。
5-1. 適切なプレフィックス設計の考え方(企業/データセンター規模)
5-1-1. ip prefix 設計は「今」と「将来」を両方見る
ip prefix の設計でよくある失敗は、「今必要なサブネット数」だけを見て、ギリギリのプレフィックス長で切ってしまうことです。
しかし、企業ネットワークやデータセンターは時間とともに成長します。
つまり、ip prefix の設計段階で「将来の拡張」を見込んでおかないと、後から設計をやり直す羽目になります。
基本的な考え方は、次のようなステップです。
- まず、「ネットワークの階層」を整理する
- コア/ディストリ/アクセス
- 本社/支店
- DMZ/サーバ/クライアント など
- 次に、「階層ごとにまとめて割り当てる ip prefix」を決める
- 例:本社は 10.10.0.0/16、支店は 10.20.0.0/16
- 例:サーバ用は 172.16.0.0/16、クライアント用は 172.17.0.0/16
- そのうえで、各拠点・各用途の中をサブネットに分割する
こうしておくと、「本社全体」「支店全体」「サーバ全体」といった粒度で ip prefix を集約しやすくなり、
ルーティングもシンプルになります。
5-1-2. 集約を前提にした ip prefix のブロック設計
ip prefix のベストプラクティスを一言でいうと、「最初から集約しやすいようにブロック設計する」ことです。
例えば、次のような設計を考えてみます。
- 企業全体に 10.0.0.0/8 が与えられていると仮定
- 本社:10.1.0.0/16
- 支店:10.2.0.0/16
- データセンター:10.3.0.0/16
さらに、本社内でサーバ/クライアント/ネットワーク機器用に分けるとします。
- 本社サーバ:10.1.10.0/24
- 本社クライアント:10.1.20.0/24
- 本社ネットワーク機器:10.1.30.0/24
このように、ip prefix を用途ごと・拠点ごとに「きれいなブロック」で割り当てておけば、
- ルーティングでは「10.1.0.0/16 は本社」としてまとめて扱える
- ACL やポリシーでも「10.1.0.0/16 宛ては本社向け」といった条件が書きやすい
というメリットがあります。
逆に、アドレスが行き当たりばったりで、
- 本社のサーバが 10.1.10.0/24 と 10.50.20.0/24 に散らばっている
- 支店用アドレスがあちこちの ip prefix に混在している
といった状態だと、ip prefix の集約が困難になり、ルーティングも ACL も複雑化します。
つまり、「ip prefix の段階で整理しておくこと」が、運用の簡易さに直結するわけです。
5-1-3. データセンターでの ip prefix と役割分離
データセンターでは、とくに役割ごとに ip prefix を分けておくと管理しやすくなります。例えば次のような分け方です。
- フロント系(外部公開向けサーバ):
- 例:192.0.2.0/24
- バックエンド系(APサーバ・DBサーバ):
- 例:198.51.100.0/24
- 管理ネットワーク(アウトオブバンド、監視用):
- 例:10.255.0.0/16
このように ip prefix を役割ごとに明確に分けておくと、
- ファイアウォールポリシーが書きやすい
- 障害発生時に「どのプレフィックス範囲に影響が出ているか」をすぐに把握できる
- BGP での広告範囲やルーティングポリシーも整理しやすい
という効果があります。
したがって、企業/データセンターのどちらでも、「ip prefix を単に割り当てる」のではなく、
「役割・拠点・階層ごとに整理されたブロックとして設計する」ことがベストプラクティスと言えます。
5-2. 運用時のモニタリングとアラート(ip prefix 変更/経路異常)
5-2-1. ip prefix の「状態」を監視対象として扱う
運用フェーズでは、ip prefix は「設計したら終わり」ではなく、「常に正しい状態で流通しているか」を監視する対象になります。
なぜなら、誰かが誤ってルータ設定を変更しただけで、ip prefix の広告や受信状態が変わり、
サービス停止やトラフィックルートの変化につながるからです。
監視の観点としては、例えば次のようなものがあります。
- 期待している ip prefix が、外部・内部のルータで正しく見えているか
- BGP の経路数が急激に増減していないか
- 特定の ip prefix の経路パス(AS パス)が突然変化していないか
つまり、「経路そのものの状態」を監視するというイメージです。
5-2-2. 監視・アラートで押さえるべき代表的なポイント
実際の監視システムに ip prefix を組み込むときは、次のような視点で項目を用意すると効果的です。
- 経路数の監視
- BGP 全体の受信プレフィックス数
- 特定ピアからの受信プレフィックス数
- 急増・急減に対するアラート
- 特定 ip prefix の有無
- 自社が広告すべき ip prefix が見えなくなったらアラート
- 広告すべきでない ip prefix が見えていたらアラート
- 経路パスの監視
- 特定の重要 ip prefix について、AS パスの変化を検知
- 急に見慣れない AS 経由になった場合に通知
このように、ip prefix を「設計情報」だけでなく「運用監視の指標」として扱うことが、安定運用の鍵になります。
5-2-3. 障害時に ip prefix 情報をどう役立てるか
障害が起きたとき、ip prefix の情報が整理されているかどうかで、原因究明のスピードは大きく変わります。
例えば、あるサービスが外部から見えなくなった場合、
- そのサービスが使っている ip prefix はどれか
- その ip prefix は、自社の BGP ルータから正しく広告されているか
- 上流 ISP からどう見えているか
- 経路が突然別の AS 経由になっていないか
といった点を順番に確認していきます。
このとき、あらかじめ「サービス名 → ip prefix」の対応表を作っておけば、
- どのサービスにどの ip prefix が紐づいているか
- その ip prefix が現在どういう経路で流通しているか
をすぐに追跡できるようになります。
したがって、運用の観点からは、
- ip prefix をサービス単位・拠点単位で整理しておく
- 変更があった場合は必ず記録・レビューする
といった「情報管理」もベストプラクティスの一部となります。
5-3. セキュリティ観点からの ip prefix 管理:RPKI/BGPセキュリティとの関係
5-3-1. ip prefix と「誰がその経路を広告してよいか」という問題
セキュリティの観点でいうと、ip prefix 管理の本質は
- 「この ip prefix を広告してよいのは誰か」
- 「今広告している AS は正当な権限を持っているか」
という点にあります。
なぜなら、経路ハイジャックの多くは、
- 正当な AS ではない第三者が、他者の ip prefix を勝手に BGP で広告してしまう
ことで発生するからです。
つまり、「その ip prefix を扱う権限」の証明が大事になります。
ここで登場するのが、RPKI(Resource Public Key Infrastructure)という仕組みです。
5-3-2. RPKI と ROA による ip prefix の「正当性チェック」
RPKI では、ip prefix と、それを広告してよい AS 番号の組み合わせを「ROA(Route Origin Authorization)」という形で登録します。
ざっくり言うと、次のようなイメージです。
- 管理団体に対して
- 「この ip prefix は自分が持っていて、AS 12345 が広告してよいです」
と署名付きで宣言しておく
- 「この ip prefix は自分が持っていて、AS 12345 が広告してよいです」
- BGP ルータ側は、受信した経路情報と ROA を照合し、
- 正当(valid)
- 不正(invalid)
- 情報なし(unknown)
といった判定を行う
この仕組みにより、たとえば
- 本来 AS 12345 が広告すべき ip prefix を、AS 99999 が勝手に広告した場合
- RPKI 対応ルータは「invalid」と判定し、その経路を破棄する
といった防御が可能になります。
したがって、ip prefix をセキュアに運用したい場合、
- 自社が保有する ip prefix について ROA をきちんと登録する
- 自社ルータで RPKI ベースの検証とポリシー適用を行う
といった対応がベストプラクティスの一つになってきています。
5-3-3. BGP セキュリティと組み合わせた ip prefix 管理
RPKI だけでなく、他の BGP セキュリティ機能や運用ポリシーと組み合わせることで、ip prefix の安全性はさらに高まります。代表的なポイントは次の通りです。
- プレフィックスフィルタ
- 上流・ピアごとに、「その AS から受け取ってよい ip prefix の範囲」を明示的に定義
- 不自然に広い範囲や、明らかに自社と無関係なプレフィックスを受け取らない
- 最大プレフィックス数の制限
- BGP セッションごとに「受け取る ip prefix の上限」を設定
- 相手が誤って大量の経路を流してきた場合に自動でセッションを切断
- 経路のモニタリングとアラート(前述の 5-2 と連携)
- 特定の重要な ip prefix に対する AS パスの変化や、新しい経路出現を監視
これらとあわせて、社内の運用ルールとして、
- ip prefix に関する変更は必ず申請・レビューのプロセスを通す
- BGP で広告する ip prefix を追加・変更する場合は、RPKI/フィルタ設定も含めて見直す
といったフローを作っておくことが、セキュリティ面での「ip prefix ベストプラクティス」と言えます。
今後の動向と発展:ip prefix を軸に
ip prefix は、これまでの IPv4 ネットワークだけでなく、これから本格的に広がる IPv6 やクラウド・自動化の世界でも、中核となる考え方であり続けます。
つまり、「アドレス設計」「ルーティング」「セキュリティ」のどれを考えるときも、最終的には ip prefix をどう設計し、どう運用するかが鍵になるということです。
ここでは、
- IPv6 の普及によって ip prefix 管理がどう変わるのか
- 自動化・クラウド化の進展によって ip prefix 運用やフィルタリングがどう進化するのか
を整理していきます。
6-1. IPv6の普及による ip prefix 管理の変化
6-1-1. IPv6時代でも「ip prefix」が中核である理由
まず押さえておきたいのは、「IPv6 になっても ip prefix の考え方は変わらない」という点です。
形式こそ 2001:db8::/32 のような IPv6 アドレスになりますが、次の本質はまったく同じです。
- ip prefix でネットワークの範囲を表現する
- ip prefix を単位に経路を広告・フィルタリングする
- ip prefix をベースにセキュリティポリシーを設計する
したがって、これまで IPv4 で身につけた「ip prefix の設計と運用」のスキルは、そのまま IPv6 でも生きてきます。
むしろ IPv6 はアドレス空間が巨大な分、「どの ip prefix をどの単位で使うのか」という設計センスが、これまで以上に問われるようになります。
6-1-2. IPv6で増えるプレフィックス長と設計の考え方
次に、IPv6 ならではの ip prefix 管理のポイントを整理します。
典型的なプレフィックス長のイメージを、IPv4 と比較してみましょう。
| 用途 | IPv4 の例 | IPv6 の例 |
|---|---|---|
| エンドホスト 1 台 | /32 | /128 |
| L2 セグメント(1ネットワーク) | /24 前後 | /64(基本単位) |
| 企業への割り当て | /16 や /8 | /48 や /32 など |
ここから分かるように、IPv6 では
- 1 セグメント = /64 が標準
- 企業や組織には /48 や /32 といった比較的大きな ip prefix が割り当てられる
という前提で設計するのが一般的です。
したがって、IPv6 の ip prefix 設計では、次のような考え方が重要になります。
- 「/64 を基本単位として、/48 からどう切り分けるか」を先に決める
- 利用用途(サーバ、クライアント、管理、バックアップなど)ごとに ip prefix のブロックを定義する
- 将来の拡張を見込んで、/64 をある程度余らせる前提で設計する
つまり、アドレスが「足りない」ではなく、「余る前提で計画的に ip prefix を使い切る」という発想が必要になります。
6-1-3. デュアルスタック環境での ip prefix 運用ポイント
当面、多くの現場では「IPv4 と IPv6 のデュアルスタック」が続きます。
このとき、ip prefix 管理は次のような点に注意が必要です。
- サービス単位で「IPv4 ip prefix」と「IPv6 ip prefix」をペアで管理する
- 監視・運用でも、「v4 だけ正常」「v6 だけ障害」といったケースを想定する
- BGP やルーティングポリシーも、IPv4 と IPv6 で別々に設計・検証する
例えば、ある Web サービスに対して、
- IPv4:203.0.113.0/24
- IPv6:2001:db8:100::/48
のように、それぞれ別の ip prefix が紐づきます。
すると、監視やトラブルシュートの際には、
- 「203.0.113.0/24 の経路は正常か?」
- 「2001:db8:100::/48 の経路はどうか?」
と、二本立てで確認する必要があります。
つまり、今後の現場では「ip prefix 管理 = IPv4 だけ」ではなく、
「IPv4 ip prefix」と「IPv6 ip prefix」をセットで扱う視点が欠かせなくなります。
6-2. 自動化・クラウド化時代における ip prefix 運用/フィルタリングの進化
6-2-1. IaC/ネットワーク自動化と ip prefix 管理
近年、Infrastructure as Code(IaC)やネットワーク自動化が進み、
「設定は手で打つもの」から「コードで管理するもの」へと変わりつつあります。
これは、ip prefix 管理にも大きな影響を与えています。
具体的には、次のような変化が起きています。
- ip prefix-list をテキストやコード(YAML、JSON など)としてリポジトリで管理
- 変更は Pull Request ベースでレビューし、承認後に自動デプロイ
- テンプレート化されたプレフィックス設計を使い、拠点追加時の人為ミスを削減
この結果、ip prefix の追加・変更は「設定作業」から「コード変更」に近いものになり、
変更履歴や差分も Git などで追いやすくなります。
整理すると、手作業と自動化の違いは次のようになります。
| 項目 | 手動運用の ip prefix 管理 | 自動化・コード管理された ip prefix 管理 |
|---|---|---|
| 変更手段 | コンソールから直接コマンド投入 | コード修正 → テスト → 自動反映 |
| レビュー | 口頭確認やメールベース | Pull Request ベースでレビュー履歴が残る |
| 差分管理 | 「どこが変わったか」を人手で確認 | Git の差分で ip prefix の変更を即時確認可能 |
| ミスの起こりやすさ | 手入力ミス・コピペミスが起こりやすい | テンプレート化によりパターンミスを削減 |
したがって、今後の ip prefix 管理では、「コマンドを覚える」だけでなく、
「どのように自動化パイプラインに組み込むか」を考えられることが重要になります。
6-2-2. クラウド・SaaS時代のプレフィックスリスト自動更新
クラウドや SaaS の利用が当たり前になると、「外部サービス側が持つ ip prefix」が頻繁に変わるという新しい課題が生まれます。
例えば、
- Microsoft 365
- 各種パブリッククラウド(IaaS/PaaS)
- CDN サービス
などは、自社のサービスを提供するための ip prefix を定期的に追加・変更します。
そのたびに、手動でファイアウォールや ip prefix-list を書き換えていたのでは、とても追いつきません。
そこで重要になるのが、
- クラウド事業者が公開する ip prefix 情報(JSON など)を自動取得
- その内容を元に、社内の ip prefix-list やファイアウォールのアドレスグループを自動生成
- 生成された設定をレビュー・検証してから、自動デプロイ
といった「プレフィックスリストの自動更新フロー」です。
この仕組みを導入することで、
- クラウドサービス側の ip prefix 変更に素早く追従できる
- 手動更新による漏れやミスを防げる
- 「どの時点でどの ip prefix を許可していたか」が履歴として残る
というメリットが得られます。
つまり、自動化・クラウド化の時代の ip prefix フィルタリングは、
「静的に書きっぱなし」ではなく、「外部情報を取り込んで継続的に更新する」方向へ進化していると言えます。
6-2-3. 将来を見据えたエンジニアのスキルセット
最後に、「今後の ip prefix 時代」を見据えて、ネットワークエンジニアに求められるスキルを整理しておきます。
- ip prefix の基本理解
- IPv4/IPv6 のプレフィックス長
- 経路集約・フィルタリング・セキュリティへの応用
- 自動化ツールとの連携
- ip prefix-list をコードとして扱う発想
- テンプレート化・変数管理・差分デプロイの考え方
- クラウド/SaaS のプレフィックス管理
- 外部公開されるプレフィックス情報の扱い方
- 社内ポリシーへのマッピング方法
- セキュリティ・RPKI への理解
- 「誰がどの ip prefix を広告してよいか」を検証する仕組み
- 経路ハイジャック対策と ip prefix フィルタリングの連携
つまり、これからの ip prefix は、「ルータの設定項目の一つ」という枠を超え、
- 設計
- 自動化
- クラウド連携
- セキュリティ
をまたいだ、横断的なキーワードになっていきます。
今後、IPv6 の普及やクラウドの拡大、自動化の加速により、
ip prefix を巡る世界はさらに複雑になっていきます。
しかし、逆に言えば、ip prefix の考え方と運用のベストプラクティスをきちんと押さえておけば、
どんな新しい技術が出てきても、その土台の上に理解を積み上げていくことができます。
「ip prefix を理解しているかどうか」は、これからのネットワークエンジニアにとって、
長く使えるコアスキルになるはずです。

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