企業ネットワークのセキュリティ強化が求められる中、MACsec(Media Access Control Security)は、レイヤー2での通信を暗号化し、不正アクセスや盗聴を防ぐ技術として注目されています。
しかし、「IPsecやTLSと何が違う?」「導入するにはどんな機器が必要?」「設定が難しそう…」と悩む方も多いはず。
本記事では、MACsecの仕組みや導入方法、活用事例、他のセキュリティ技術との違いまで徹底解説!
初心者でも理解しやすいように、図解や具体的な設定例を交えて詳しく解説します。
MACsecを活用し、安全なネットワーク環境を構築しましょう!
この記事は以下のような人におすすめ!
- MACsecとは何か知りたい人
- 他のセキュリティ技術(IPsecやTLS)とMACsecの違いが知りたい
- MACsecの導入にはどんな課題があり、どう対策すればよいか知りたい
MACsecの概要
ネットワークセキュリティがますます重要視される中、MACsec(Media Access Control Security)は、データリンク層(レイヤー2)での通信を暗号化し、安全なネットワーク環境を提供する技術として注目されています。
本記事では、MACsecの基本概念や標準化の背景について詳しく解説します。
1-1. MACsecとは何か
1-1-1. MACsecとは
MACsec(Media Access Control Security)とは、イーサネット通信を保護するために開発されたセキュリティ技術で、IEEE 802.1AE規格に基づいています。
この技術により、ネットワーク内の通信が暗号化され、不正アクセスやデータ改ざんを防ぐことができます。
MACsecの特徴
MACsecは、OSI参照モデルのデータリンク層(レイヤー2)で動作し、以下のような特徴を持っています。
特徴 | 説明 |
---|---|
データリンク層での暗号化 | IPsec(レイヤー3)やTLS(レイヤー4)と異なり、MACsecはレイヤー2で直接通信を保護する。 |
低遅延・高スループット | 暗号化処理がハードウェアレベルで最適化されているため、遅延を抑えつつ高いスループットを維持できる。 |
ネットワーク内部のセキュリティ向上 | 社内LANやデータセンター間の通信も保護可能で、内部ネットワークの安全性を向上させる。 |
MACsecが必要とされる理由
近年、企業ネットワークにおける内部脅威や物理的なネットワーク攻撃(盗聴、MITM攻撃など)が増加しています。
MACsecは、スイッチ間やエンドポイント間の通信を保護することで、こうした脅威を防ぐ役割を果たします。
1-2. MACsecの歴史と標準化の経緯
1-2-1. MACsecの標準化の背景
MACsecは、IEEE(米国電気電子学会)によって2006年にIEEE 802.1AEとして標準化されました。
この標準は、企業ネットワークやデータセンター、通信事業者ネットワークにおけるセキュリティ強化を目的としています。
IEEE 802.1AEの概要
標準化団体 | IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers) |
---|---|
規格名 | IEEE 802.1AE(Media Access Control Security) |
初版発表 | 2006年 |
最新の改訂 | IEEE 802.1AE-2018(最新の更新版) |
MACsecの標準化に至った背景
- 企業ネットワークのセキュリティ強化
企業ネットワークでは、内部ネットワークの盗聴や不正アクセスのリスクが高まり、レイヤー2レベルでのセキュリティ対策が求められた。 - レイヤー2の暗号化技術の必要性
IPsec(レイヤー3)やTLS(レイヤー4)では対応できないLAN内の通信を保護するために、MACsecが開発された。
1-2-2. MACsecの進化と最新動向
MACsecの技術は、IEEE 802.1AEの標準化以降も進化を続けています。特に、以下のような拡張が行われています。
主要な進化
年代 | 進化のポイント |
---|---|
2006年 | IEEE 802.1AEとして初めて標準化 |
2011年 | MACsecの鍵管理プロトコル(MKA: MACsec Key Agreement)がIEEE 802.1Xに統合 |
2018年 | IEEE 802.1AE-2018でセキュリティの強化と最適化が実施 |
今後の展望
- クラウド環境での適用拡大
企業がクラウドサービスを利用する機会が増える中、MACsecはクラウドデータセンター間の安全な通信手段として注目されています。 - 5Gネットワークとの連携
5G通信インフラにおいても、基地局間の通信を暗号化する手段としてMACsecが採用される可能性があります。
MACsecの技術的詳細
MACsec(Media Access Control Security)は、データリンク層(レイヤー2)で暗号化を行うことで、ネットワークのセキュリティを強化する技術です。
MACsecの仕組みを理解するためには、フレーム構造、セキュリティタグ(SecTAG)やICV(Integrity Check Value)、暗号化アルゴリズムと鍵管理の仕組みについて詳しく知る必要があります。
本記事では、それぞれの技術的な詳細をわかりやすく解説します。
2-1. MACsecのフレーム構造
2-1-1. MACsecフレームの基本構造
MACsecは、通常のイーサネットフレームに追加情報を付加して通信の安全性を確保します。
具体的には、「セキュリティタグ(SecTAG)」と「ICV(Integrity Check Value)」が追加され、暗号化されたデータが格納されます。
MACsecフレームの構造
MACsecが適用されたフレームの基本構造は以下のようになります。
フィールド名 | 説明 |
---|---|
Ethernet Header | 送信元・宛先MACアドレスなどを含む標準イーサネットヘッダー |
SecTAG(セキュリティタグ) | MACsecで追加されるセキュリティ情報 |
Encrypted Data(暗号化データ) | 暗号化されたペイロード部分 |
ICV(Integrity Check Value) | データ改ざん検出のためのチェック値 |
通常のイーサネットフレームとMACsecフレームの違いを比較すると、次のようになります。
通常のイーサネットフレーム
| Ethernet Header | Payload(データ) | FCS(フレームチェックシーケンス) |
MACsecフレーム
| Ethernet Header | SecTAG | Encrypted Data | ICV |
これにより、データの暗号化と完全性の確保が可能になります。
2-2. セキュリティタグ(SecTAG)とICVの役割
2-2-1. セキュリティタグ(SecTAG)の役割
MACsecで追加される「SecTAG」は、暗号化されたフレームを識別し、適切に処理するための情報を含んでいます。
SecTAGの主な構成要素
フィールド名 | 説明 |
---|---|
TCI (Tag Control Information) | MACsecの処理を制御するための情報 |
SCI (Secure Channel Identifier) | 送信元ノードの識別子 |
Packet Number | 再送攻撃を防ぐためのユニークな番号 |
Association Number (AN) | 鍵の管理と更新のための識別子 |
これらの情報を用いることで、送受信されるデータが正しくMACsecに適用されているかどうかを判別できます。
2-2-2. ICV(Integrity Check Value)の役割
ICV(Integrity Check Value)は、データの改ざんを検出するための情報です。
これはMACsecフレームの末尾に追加され、受信側で整合性を確認するために利用されます。
ICVの特徴
- データ改ざんを検出
ICVを用いることで、途中でフレームが変更された場合に検出可能。 - 認証機能の提供
正規の送信者からのデータであることを保証する役割も果たす。
ICVは、MACsecで使用される暗号アルゴリズムによって計算され、受信側で同じ計算を行い整合性をチェックします。
2-3. 暗号化アルゴリズムと鍵管理
2-3-1. MACsecの暗号化アルゴリズム
MACsecでは、データの機密性を確保するために、AES(Advanced Encryption Standard)ベースの暗号化が採用されています。
MACsecで使用される暗号化アルゴリズム
アルゴリズム | 特徴 |
---|---|
AES-GCM-128 | 128ビットのキーを使用し、高速な認証付き暗号化を提供 |
AES-GCM-256 | 256ビットのキーを使用し、より強固な暗号化を実現 |
AES-GCM(Galois/Counter Mode)は、暗号化と認証(ICVの計算)を同時に行うため、セキュリティとパフォーマンスの両立が可能です。
2-3-2. MACsecの鍵管理(MKA)
MACsecでは、セキュリティを確保するために「MKA(MACsec Key Agreement)」というプロトコルを使用し、鍵の交換や管理を行います。
MKAの主な役割
- 鍵の交換と更新
MACsec通信を行う機器間で暗号鍵を安全に交換。 - ノードの認証
正規のノードのみがMACsec通信に参加できるようにする。 - セキュリティポリシーの適用
送信・受信のポリシーを統一する。
MKAは、IEEE 802.1XのEAPoL(Extensible Authentication Protocol over LAN)を活用し、鍵管理を自動化します。
MACsecの導入と設定
MACsec(Media Access Control Security)は、企業ネットワークやデータセンターにおいて、レイヤー2の通信を暗号化し、セキュアなネットワーク環境を構築するために重要な技術です。
しかし、MACsecを導入するには対応デバイスの選定や適切な設定が必要であり、運用面でも注意すべきポイントがいくつかあります。
本記事では、MACsecの導入を検討する際のポイントや実際の設定手順、運用上の注意点について詳しく解説します。
3-1. MACsec対応デバイスの選定
3-1-1. MACsecを導入するための要件
MACsecを導入するためには、MACsecに対応したネットワーク機器と適切な設定を行うためのソフトウェアが必要です。
特に、MACsecはレイヤー2の技術であるため、スイッチやルーター、ネットワークカード(NIC)の対応状況を確認することが重要です。
3-1-2. MACsec対応デバイスの選定ポイント
以下のポイントを基準に、MACsec対応デバイスを選定しましょう。
1. スイッチ
選定基準 | 説明 |
---|---|
MACsec対応ポート | すべてのポートでMACsecが利用できるか確認 |
パフォーマンス | MACsecの暗号化によるオーバーヘッドを最小限に抑える処理性能 |
管理機能 | MKA(MACsec Key Agreement)をサポートしているか |
2. ルーター
選定基準 | 説明 |
---|---|
エンドツーエンドのMACsecサポート | ルーターがMACsecをサポートし、他のMACsecデバイスと連携可能か |
パケット処理性能 | MACsecの暗号化・復号による処理負荷を考慮 |
3. ネットワークカード(NIC)
選定基準 | 説明 |
---|---|
ハードウェアオフロード対応 | CPU負荷を軽減するためにNIC側でMACsec処理を実行できるか |
ドライバ・OSの対応 | 使用するOSがMACsecをネイティブサポートしているか |
3-1-3. MACsec対応ベンダー
以下のネットワーク機器ベンダーは、MACsec対応のスイッチやルーターを提供しています。
- Cisco(Catalystシリーズ)
- Juniper Networks(EX/QFXシリーズ)
- Arista(7050Xシリーズ)
- HPE Aruba(CXシリーズ)
3-2. MACsecの設定手順
MACsecの設定は、主に以下の3つのステップで構成されます。
- MACsec対応デバイスの準備
- MKA(MACsec Key Agreement)の設定
- MACsecポリシーの適用
ここでは、Ciscoスイッチを例に、基本的なMACsecの設定手順を説明します。
3-2-1. MACsecの基本設定
まず、MACsecを有効化するために、スイッチのインターフェースで以下の設定を行います。
Ciscoスイッチでの設定例
interface GigabitEthernet1/0/1
switchport mode access
macsec network-link
mka policy MACsec-Policy
authentication host-mode multi-host
この設定により、MACsecが有効化され、MKAポリシーが適用されます。
3-2-2. MKA(MACsec Key Agreement)の設定
MKA(MACsec Key Agreement)は、MACsecの鍵管理を行うプロトコルです。
MKAを設定することで、デバイス間での鍵交換が可能になります。
MKAポリシーの設定
mka policy MACsec-Policy
key-server priority 1
confidentiality-offset 0
pre-shared-key cisco123
この設定により、事前共有鍵(PSK) を用いたMACsec通信が可能になります。
3-2-3. MACsecポリシーの適用
MACsecのポリシーを適用し、適切に暗号化通信が行われるよう設定します。
MACsecのポリシー設定例
interface GigabitEthernet1/0/1
macsec network-link secure
これにより、ポート上のトラフィックがすべて暗号化されます。
3-3. MACsecの運用上の注意点
MACsecを導入した後も、適切な運用を行わなければ、セキュリティの確保が難しくなります。
ここでは、MACsecの運用で特に注意すべきポイントを解説します。
3-3-1. 鍵管理の定期更新
MACsecの鍵は、一定期間ごとに更新することで、セキュリティを強化できます。
推奨される鍵管理の方法
- 定期的な鍵のローテーション(例:30日ごと)
- MKAを利用した自動鍵交換
- 鍵管理のログを定期的にチェック
3-3-2. パフォーマンスへの影響
MACsecを導入すると、暗号化処理のために若干のパフォーマンス低下が発生することがあります。
パフォーマンスを最適化する方法
- ハードウェアオフロード対応のデバイスを選定
- 重要なトラフィックのみMACsecを適用
- 暗号アルゴリズムの選定(AES-GCM-128とAES-GCM-256の比較)
3-3-3. トラブルシューティング
MACsecの運用中に通信が確立しない場合、以下の点を確認しましょう。
チェックポイント
問題 | 解決策 |
---|---|
MACsecが確立しない | MKAの設定が正しいか確認 |
通信遅延が発生 | ハードウェアオフロードが有効か確認 |
ログにエラーが出る | キー交換が適切に行われているかチェック |
MACsecの応用と事例
MACsec(Media Access Control Security)は、レイヤー2の通信を暗号化する技術として、企業ネットワークやデータセンター、WAN環境など、さまざまな場面で活用されています。
本記事では、WAN環境での活用方法、クラウド接続時のMACsecの適用事例、そして他のセキュリティプロトコルとの比較について詳しく解説します。
4-1. WAN環境におけるMACsecの活用
4-1-1. WAN環境でのセキュリティ課題
企業が拠点間通信を行う際、WAN(Wide Area Network)を利用することが一般的です。
しかし、WANを介した通信は盗聴や中間者攻撃(MITM攻撃)のリスクが高く、セキュリティ対策が不可欠です。
WAN環境のセキュリティ課題:
- 盗聴リスク:プロバイダのネットワーク経由で通信が行われるため、盗聴される可能性がある。
- 改ざんリスク:データが途中で書き換えられる可能性がある。
- 認証の欠如:レイヤー3以上のセキュリティ対策が不十分な場合、なりすまし攻撃が発生する。
4-1-2. MACsecをWAN環境で活用する方法
MACsecは、WAN環境においても有効なセキュリティ対策となり、特に専用線(L2回線)を利用する場合に最適です。
WANでのMACsec導入モデル
導入モデル | 説明 |
---|---|
専用線 + MACsec | 拠点間の専用線にMACsecを適用し、データを暗号化して安全な通信を実現 |
L2VPN + MACsec | L2VPN(MPLSやVPLS)と組み合わせて、プライベートネットワーク内で暗号化を強化 |
SD-WAN + MACsec | SD-WAN機器と組み合わせ、より柔軟なネットワーク制御とセキュリティを提供 |
4-1-3. WAN環境におけるMACsecのメリット
- エンドツーエンドの暗号化:拠点間の通信を暗号化し、データの機密性を確保。
- 低遅延:MACsecはハードウェアレベルで暗号化されるため、他のVPNよりも高速。
- シンプルな運用:レイヤー2の暗号化のため、ルーティング変更の必要がない。
4-2. クラウド接続でのMACsec利用事例
4-2-1. クラウド接続時のセキュリティリスク
企業のITインフラがクラウドへ移行する中、クラウド環境への接続のセキュリティ確保が重要になっています。
特に、クラウドプロバイダとデータセンター間の通信が暗号化されていないと、データの盗聴や改ざんのリスクが高まります。
クラウド接続におけるセキュリティリスク:
- データセンターとクラウドの通信経路の盗聴
- クラウド事業者のネットワーク内部でのセキュリティリスク
- ネットワーク経路における中間者攻撃(MITM)
4-2-2. MACsecをクラウド接続に適用する方法
クラウド環境でMACsecを活用する方法として、以下の2つが一般的です。
1. 専用線接続(Direct Connect / ExpressRoute)+ MACsec
Amazon Web Services(AWS)のDirect ConnectやMicrosoft AzureのExpressRouteなどの専用線接続を利用し、その上でMACsecを適用する方法。
メリット
- クラウドとの専用回線を暗号化し、セキュリティを強化。
- 物理回線上での攻撃を防止。
2. VPNと組み合わせたMACsec
IPsec VPNやTLS VPNとMACsecを組み合わせ、通信経路の二重保護を行う。
メリット
- 既存のVPN環境にMACsecを追加することで、より強固なセキュリティを実現。
- クラウド環境に適した柔軟なセキュリティ設計が可能。
4-2-3. クラウド接続でMACsecを導入するメリット
- クラウドとオンプレミス間のセキュアな通信を実現
- 既存のネットワーク構成を変更せずに暗号化が可能
- 企業のゼロトラスト戦略の一環として有効
4-3. 他のセキュリティプロトコルとの比較
MACsecは、他のセキュリティプロトコル(IPsecやTLS)と比較すると、低レイヤーでの暗号化という特性を持っています。
ここでは、それぞれのプロトコルとの違いを比較します。
4-3-1. MACsecとIPsecの比較
項目 | MACsec | IPsec |
---|---|---|
暗号化レイヤー | レイヤー2 | レイヤー3 |
適用範囲 | LAN、専用線、データセンター間 | インターネット、WAN |
通信のオーバーヘッド | 低い(高速) | 高い(暗号化処理に時間がかかる) |
主な用途 | 拠点間通信、クラウド接続 | VPN、インターネット通信の暗号化 |
MACsecはレイヤー2の暗号化技術であり、主に企業内部ネットワークのセキュリティ強化に適しています。
一方、IPsecはインターネットを介した通信の暗号化に適しています。
4-3-2. MACsecとTLSの比較
項目 | MACsec | TLS |
---|---|---|
暗号化レイヤー | レイヤー2 | レイヤー4(アプリケーション層) |
適用範囲 | LAN、専用線、データセンター間 | Webアプリ、HTTPS通信 |
通信のオーバーヘッド | 低い | 高い |
主な用途 | 物理ネットワークの暗号化 | Webサービスの通信保護 |
MACsecは物理的なネットワークインフラを保護するための技術であり、TLSはアプリケーションレベルのセキュリティを提供するものです。
MACsecの利点と課題
MACsec(Media Access Control Security)は、データリンク層(レイヤー2)での通信を暗号化し、ネットワークのセキュリティを向上させる技術です。
企業ネットワークやデータセンターにおいて、内部通信の盗聴や改ざんを防ぐために広く採用されています。
しかし、MACsecの導入にはいくつかの課題もあり、事前に対策を講じることが重要です。本記事では、MACsecのメリットと、導入時の課題およびその対策について詳しく解説します。
5-1. MACsecのメリット
MACsecの最大のメリットは、レイヤー2での暗号化によるセキュリティ強化と低遅延・高スループットの実現です。
ここでは、MACsecの主要なメリットについて詳しく解説します。
5-1-1. ネットワーク内部のセキュリティ強化
企業ネットワークやデータセンター内部では、攻撃者が物理的にネットワークに侵入したり、不正アクセスを試みたりするリスクがあります。
MACsecを導入することで、以下のセキュリティ強化が可能です。
MACsecによる内部セキュリティの向上
- 盗聴防止:通信データを暗号化することで、スニッフィング攻撃を防ぐ。
- データ改ざん防止:ICV(Integrity Check Value)により、改ざんされたデータを検出。
- 不正アクセス対策:認証機能により、正規のデバイスのみ通信可能にする。
5-1-2. 低遅延・高スループットの暗号化
MACsecは、レイヤー2で動作するため、IPsecなどのレイヤー3の暗号化技術に比べて処理のオーバーヘッドが少なく、通信速度が速いという特徴があります。
比較項目 | MACsec | IPsec |
---|---|---|
暗号化レイヤー | レイヤー2 | レイヤー3 |
通信のオーバーヘッド | 低い | 高い |
適用範囲 | LAN、専用線、データセンター間 | インターネット、WAN |
MACsecは、スイッチやNIC(ネットワークカード)でのハードウェアオフロードに対応しているため、CPU負荷を抑えながら高速な通信を実現できます。
5-1-3. シンプルなネットワーク構成
MACsecは、レイヤー2の通信を暗号化するため、既存のIPアドレスやルーティング設定を変更する必要がありません。
これにより、導入時の構成変更が少なく、運用負担を最小限に抑えられます。
MACsec導入時の変更点
項目 | 影響 |
---|---|
IPアドレス | 変更不要 |
ルーティング設定 | 変更不要 |
スイッチ/ルーター設定 | MACsecの有効化が必要 |
5-1-4. WAN・クラウド接続のセキュリティ強化
MACsecは、企業間ネットワークやクラウド接続のセキュリティを強化するためにも有効です。
特に、専用線(AWS Direct ConnectやAzure ExpressRoute)と組み合わせることで、安全なクラウド接続を実現できます。
- 専用線 + MACsec:物理ネットワークのセキュリティを強化
- SD-WAN + MACsec:拠点間通信の暗号化を強化
5-2. MACsec導入時の課題と対策
MACsecは多くのメリットを持つ一方で、導入時にいくつかの課題が存在します。
ここでは、主な課題とその対策について解説します。
5-2-1. MACsec対応デバイスの制約
MACsecを利用するには、対応したスイッチやルーター、NICが必要です。
しかし、すべてのネットワーク機器がMACsecをサポートしているわけではないため、事前の機器選定が重要です。
対策
- MACsec対応のスイッチ・ルーターを選定
- 既存機器のファームウェアアップデートで対応可否を確認
- ソフトウェアベースのMACsecを検討
5-2-2. 設定の複雑さ
MACsecの設定は、特にMKA(MACsec Key Agreement)の設定が複雑になる場合があります。
特に、鍵管理やポリシー設定を誤ると通信が確立しないこともあります。
対策
- MKAの設定テンプレートを活用
- スイッチ間でMACsecを有効にする前にテスト環境で検証
- 事前共有鍵(PSK)方式よりも、動的鍵管理(EAPoL)を活用
5-2-3. 他のネットワーク機能との互換性
MACsecはレイヤー2の暗号化技術であるため、L2トンネリング技術(VxLAN、MPLS)との組み合わせ時に互換性の問題が発生する場合があります。
対策
- MACsecとVxLANの併用が可能な機器を選定
- SD-WANなど、L3ベースの暗号化技術との比較検討
- VPLSやMPLSを利用する場合、プロバイダと事前に互換性を確認
5-2-4. パフォーマンスへの影響
MACsecの暗号化処理は、ハードウェアオフロード対応のデバイスを利用しない場合、CPU負荷が高くなり、通信速度が低下するリスクがあります。
対策
- ハードウェアオフロード対応のスイッチ/NICを導入
- AES-GCM-128とAES-GCM-256の適切な選択
- 重要なトラフィックのみMACsecを適用
MACsecの最新動向と将来展望
MACsec(Media Access Control Security)は、レイヤー2(データリンク層)での通信を暗号化し、ネットワークのセキュリティを強化する技術です。
近年、MACsecは企業ネットワークやデータセンター、クラウド接続、車載ネットワークなど、さまざまな分野で注目を集めています。
本記事では、MACsecに関する最新ニュースと、今後の技術的進化や期待について詳しく解説します。
6-1. MACsecに関する最新ニュース
6-1-1. クラウドサービスでのMACsec導入
主要なクラウドプロバイダーであるAWSとGoogle Cloudは、オンプレミス環境とクラウド間の接続において、MACsecをサポートしています。
これにより、クラウドへのデータ転送時のセキュリティが強化され、企業は安心してクラウドサービスを利用できます。
- AWS Direct ConnectでのMACsecサポート:AWSは、Direct Connect接続にMACsecセキュリティを追加することで、オンプレミスとAWS間の通信を保護しています。
- Google Cloud InterconnectでのMACsecサポート:Google Cloudは、Cloud Interconnect接続においてMACsecをサポートし、オンプレミスルーターとGoogleのエッジルーター間のトラフィックを保護しています。
6-1-2. 車載ネットワークへのMACsec適用
自動車業界では、車載ネットワークのセキュリティ強化が求められており、MACsecの導入が進んでいます。
例えば、NXP Semiconductorsは、車載用イーサネットPHYトランシーバにMACsec対応の1000BASE-T1デバイスを提供しています。
6-1-3. データセンター向けのMACsec対応製品の登場
Marvell Technologyは、データセンターやクラウド環境での高密度実装向けに、100GシリアルI/OとMACsecセキュリティを備えたデュアル400GbE PHYを発表しました。
これにより、高速かつ安全なデータ転送が可能となります。
6-2. 今後の技術的進化と期待
6-2-1. 量子コンピューティング時代への対応
量子コンピューティングの発展に伴い、現在の暗号技術が脅かされる可能性があります。
Ciscoは、耐量子暗号(PQC)ソリューションの探求を進めており、MACsecなどの既存のセキュリティプロトコルも、量子時代に対応するための進化が期待されています。
6-2-2. 車載ネットワークでの普及拡大
自動車の高度化に伴い、車載ネットワークのセキュリティ需要が高まっています。
MACsecは、ECU間の通信を保護する手段として注目されており、今後さらに普及が進むと予想されます。
6-2-3. 標準化と相互運用性の向上
MACsecの標準化が進むことで、異なるベンダー間の相互運用性が向上し、導入のハードルが下がると期待されています。
これにより、より多くの企業や組織がMACsecを採用し、ネットワークセキュリティの強化が図られるでしょう。