パスワードを直接送信せずに安全な認証を実現する「チャレンジ レスポンス認証」。
VPNやSSHのログイン、ワンタイムパスワード(OTP)など、さまざまなシステムで使われていますが、その仕組みや実装方法を正しく理解していますか?
本記事では、チャレンジレスポンス認証の基本から、メリット・デメリット、具体的な活用事例、セキュリティ対策、実装時のポイントまで詳しく解説します。
「導入すべきか迷っている」「安全な実装方法を知りたい」と悩んでいる方に向けて、分かりやすく解説するので、ぜひ最後までご覧ください!
この記事は以下のような人におすすめ!
- チャレンジレスポンス認証とは何か知りたい人
- 具体的にどのように動作するのか分からない
- 実際の認証フローや、どんなシステムで使われているのか具体例が知りたい
チャレンジレスポンス認証とは
チャレンジレスポンス認証は、ユーザーの身元を確認するためのセキュリティ技術の一つです。
この方式では、認証サーバーが「チャレンジ(Challenge)」という一意のデータをユーザーに送り、ユーザーはそれに対する「レスポンス(Response)」を計算して返します。
この仕組みにより、パスワードを直接送信することなく、なりすましやリプレイ攻撃を防ぐことができます。
現在、ネットワーク認証やセキュリティの強化が求められる場面で広く活用されており、特にVPN接続や無線LANの認証、オンラインバンキングなどで利用されています。
ここでは、チャレンジレスポンス認証の基本的な概念と、他の認証方式との比較を詳しく解説します。
1-1. 概要と基本概念
チャレンジレスポンス認証は、通信の過程でパスワードを直接やり取りせずにユーザーを認証する方式です。
この技術の基本的な流れは以下の通りです。
1-1-1. チャレンジレスポンス認証の基本的な流れ
- サーバーからチャレンジを送信
- 認証を求められたサーバーがランダムなデータ(チャレンジ)をクライアントに送る。
- クライアントがレスポンスを生成
- クライアントは、自身の秘密情報(パスワードや秘密鍵)を用いて、チャレンジに対するレスポンスを計算する。
- レスポンスをサーバーに送信
- クライアントは計算したレスポンスをサーバーへ送る。
- サーバーがレスポンスを検証
- サーバーは、あらかじめ知っている秘密情報を使って、クライアントからのレスポンスが正しいか検証する。
この仕組みにより、サーバーとクライアントの間でパスワードを直接通信することなく、ユーザー認証が可能になります。
その結果、パスワードが盗まれるリスクを大幅に軽減できます。
1-1-2. チャレンジレスポンス認証の特徴
チャレンジレスポンス認証の特徴として、以下の点が挙げられます。
特徴 | 説明 |
---|---|
セキュリティ向上 | パスワードを直接通信しないため、盗聴やリプレイ攻撃に強い |
一意のチャレンジ | 毎回異なるチャレンジが送信されるため、過去の認証情報を使った攻撃が防げる |
計算負荷 | ハッシュ計算や暗号化処理が必要なため、サーバーやクライアントの負荷が増える場合がある |
このように、チャレンジレスポンス認証はセキュリティの向上に大きく貢献しますが、計算リソースの負担や実装の複雑さといった課題も存在します。
1-2. 他の認証方式との比較
チャレンジレスポンス認証は、多くの認証方式の中でも特にセキュリティが強化された方法ですが、他の認証方式と比較してどのような違いがあるのでしょうか。
以下に、一般的な認証方式と比較した表を示します。
1-2-1. チャレンジレスポンス認証と他の方式の違い
認証方式 | 特徴 | セキュリティレベル |
---|---|---|
パスワード認証 | ユーザーがパスワードを入力し、サーバーが照合する | 低(パスワード漏洩のリスクが高い) |
ワンタイムパスワード(OTP) | 一度だけ使えるパスワードを生成して認証する | 中(使い捨てパスワードのため安全性が高いが、フィッシング攻撃に弱い) |
チャレンジレスポンス認証 | サーバーが送るチャレンジに対して、クライアントがレスポンスを生成して認証する | 高(パスワードを直接通信しないため、盗聴やリプレイ攻撃に強い) |
この表からもわかるように、チャレンジレスポンス認証はパスワードを直接送信しないため、セキュリティリスクが低減されます。
しかし、計算負荷や実装の難しさがあるため、状況に応じて適切な認証方式を選択することが重要です。
1-2-2. どの認証方式を選ぶべきか?
認証方式を選ぶ際には、以下のようなポイントを考慮すると良いでしょう。
- セキュリティが最優先の場合 → チャレンジレスポンス認証や多要素認証(MFA)の導入を検討
- 導入の容易さを重視する場合 → 一般的なパスワード認証
- ユーザビリティとセキュリティのバランスを考慮する場合 → ワンタイムパスワード(OTP)や認証アプリを活用
現在では、セキュリティ強化のために「パスワード + チャレンジレスポンス認証」や「ワンタイムパスワード + 生体認証」など、複数の認証方式を組み合わせることが推奨されています。
チャレンジレスポンス認証の仕組み
チャレンジレスポンス認証は、認証を行う際に「チャレンジ」と「レスポンス」をやり取りすることで、パスワードを直接送信せずに安全な認証を実現する技術です。
この方式では、通信のたびに異なるチャレンジを生成し、それに基づいたレスポンスを検証することで、不正アクセスを防ぎます。
ここでは、チャレンジレスポンス認証の詳細なプロセスと、チャレンジおよびレスポンスの生成方法について詳しく解説します。
2-1. 認証プロセスの詳細
チャレンジレスポンス認証のプロセスは、大きく分けて以下の4つのステップで進行します。
2-1-1. 認証プロセスの流れ
- サーバーがチャレンジを送信
認証サーバーは、認証を求めているクライアントに対して、ランダムな値(チャレンジ)を送信します。この値は毎回異なり、一意であることが重要です。 - クライアントがレスポンスを計算
クライアントは、受け取ったチャレンジと自身の秘密情報(パスワードや秘密鍵)を使って、レスポンスを計算します。この計算にはハッシュ関数や暗号化技術が使われることが一般的です。 - クライアントがレスポンスをサーバーに送信
クライアントは計算したレスポンスをサーバーに送り、認証をリクエストします。 - サーバーがレスポンスを検証
サーバーは、事前に知っているクライアントの秘密情報を使い、クライアントから送られたレスポンスが正しいかどうかを確認します。一致すれば認証成功となり、アクセスが許可されます。
この流れを図で表すと、以下のようになります。
[サーバー] → (チャレンジ送信) → [クライアント]
[クライアント] → (レスポンス計算) → [クライアント]
[クライアント] → (レスポンス送信) → [サーバー]
[サーバー] → (レスポンス検証) → 認証成功 or 失敗
この仕組みにより、パスワードがネットワーク上で直接やり取りされないため、盗聴やリプレイ攻撃のリスクが大幅に低減されます。
2-1-2. なぜチャレンジが必要なのか?
「チャレンジ」が毎回異なる理由は、リプレイ攻撃を防ぐためです。
リプレイ攻撃とは、過去の認証データを盗み、それを再利用することで不正にアクセスしようとする攻撃手法です。
しかし、チャレンジレスポンス認証では、毎回異なるチャレンジが生成されるため、過去のレスポンスを再利用することができません。
2-2. チャレンジとレスポンスの生成方法
チャレンジレスポンス認証では、チャレンジとレスポンスの生成方法が重要なポイントになります。
ここでは、それぞれの生成方法について詳しく解説します。
2-2-1. チャレンジの生成方法
チャレンジは、以下のような方法で生成されます。
- ランダムな値を使用
- 毎回異なるランダムな数値を生成し、チャレンジとして送信します。
- 例えば、128ビットの乱数を使用することで、安全性を確保できます。
- 時間ベースの値を利用
- サーバーとクライアントで共有する時刻情報をもとにチャレンジを生成する方法もあります。
- ただし、時刻の同期が必要になるため、誤差が生じる可能性があります。
- セッション固有の値を利用
- 各ユーザーごとにセッション固有の値を作成し、それをチャレンジに組み込むことで、より安全性を高めることができます。
チャレンジの生成において重要なのは、「予測不能であること」と「一意であること」です。
この条件を満たすことで、不正アクセスのリスクを低減できます。
2-2-2. レスポンスの生成方法
レスポンスは、チャレンジとクライアントの秘密情報を元に計算されます。
一般的な計算方法は以下の通りです。
- ハッシュ関数を用いる
- 例:
レスポンス = ハッシュ(チャレンジ + パスワード)
- MD5, SHA-256 などのハッシュ関数を使って計算する方法。
- 簡単に実装できるが、強力なハッシュ関数を選択する必要がある。
- 例:
- 暗号化アルゴリズムを用いる
- 例:
レスポンス = 暗号化(チャレンジ, 秘密鍵)
- RSAやAESなどの暗号化技術を使用する方法。
- 非対称鍵暗号(公開鍵暗号)を用いることで、より強固な認証が可能。
- 例:
- HMAC(ハッシュメッセージ認証コード)を使う
- 例:
レスポンス = HMAC(チャレンジ, 秘密鍵)
- HMACは、ハッシュ関数を利用したメッセージ認証方式であり、安全性が高い。
- 例:
2-2-3. チャレンジレスポンス認証の具体例
具体的なプロトコルとして、次のような技術がチャレンジレスポンス認証を採用しています。
プロトコル | 説明 |
---|---|
CHAP(Challenge Handshake Authentication Protocol) | PPP(Point-to-Point Protocol)で使われる認証方式。パスワードを平文で送信しないため、より安全。 |
SSHの公開鍵認証 | サーバーがランダムなチャレンジを送り、クライアントが秘密鍵を用いて署名し、レスポンスを返す。 |
ワンタイムパスワード(OTP) | 一度しか使えないレスポンスを生成し、より安全な認証を実現。 |
メリットとデメリット
チャレンジレスポンス認証は、パスワードを直接送信しないため、セキュリティを大幅に向上させる認証方式です。
しかし、すべての技術と同様にメリットとデメリットが存在します。本章では、チャレンジレスポンス認証の利点と欠点について詳しく解説します。
3-1. メリット
チャレンジレスポンス認証には、多くのセキュリティ上の利点があります。特に、情報漏洩やリプレイ攻撃に対する耐性が高いため、多くの認証システムで採用されています。
3-1-1. セキュリティ向上
チャレンジレスポンス認証の最大のメリットは、認証情報がネットワーク上を直接流れないため、盗聴リスクを低減できることです。
通常のパスワード認証では、ユーザーが入力したパスワードをサーバーに送信し、サーバー側で保存された情報と照合します。
しかし、この方法では、ネットワーク上にパスワードがそのまま送られるため、通信が盗聴されるとパスワードが漏洩する可能性があります。
一方で、チャレンジレスポンス認証では、サーバーから送られた「チャレンジ」に基づき、クライアントがレスポンスを計算するため、パスワード自体が送信されることはありません。
その結果、第三者が通信を傍受しても、パスワードを直接盗むことができません。
また、多要素認証(MFA)と組み合わせることで、さらに強固な認証システムを構築することが可能です。
たとえば、チャレンジレスポンス認証に加えて、ワンタイムパスワード(OTP)や生体認証を導入することで、より高度なセキュリティを実現できます。
3-1-2. リプレイ攻撃への耐性
チャレンジレスポンス認証は、リプレイ攻撃(Replay Attack)に強いという特長があります。
リプレイ攻撃とは、過去に取得した認証情報を再利用し、不正にシステムへアクセスしようとする攻撃手法です。
この認証方式では、毎回異なるチャレンジを生成し、それに基づいたレスポンスを計算するため、過去のレスポンスをそのまま使用することができません。
仮に攻撃者が通信を盗聴し、レスポンスの値を入手したとしても、次回の認証時には新しいチャレンジが送信されるため、そのレスポンスは無効になります。
この特性により、ネットワークの盗聴を前提とした攻撃に対して高い耐性を持つのが、チャレンジレスポンス認証の大きな利点です。
3-2. デメリット
一方で、チャレンジレスポンス認証にはいくつかの課題もあります。
特に、計算リソースの負担や実装の難しさが問題となることがあります。
3-2-1. 計算リソースの必要性
チャレンジレスポンス認証は、認証のたびにハッシュ関数や暗号化アルゴリズムを用いた計算が必要となります。
そのため、システムの計算リソースを消費しやすいというデメリットがあります。
特に、以下の点が影響を及ぼします。
- サーバー負荷の増加
大規模なシステムでは、同時に多数の認証リクエストが発生することがあります。
その際、チャレンジレスポンス認証では毎回レスポンスの検証が必要となるため、サーバーの負荷が増加し、処理速度が低下する可能性があります。 - クライアント側の計算コスト
モバイルデバイスやIoT機器など、リソースが限られている端末では、暗号計算が負担になることがあります。そのため、低スペックなデバイスでは動作が遅くなる、またはバッテリー消費が増えるといった問題が発生する可能性があります。
3-2-2. 実装の複雑さ
チャレンジレスポンス認証は、通常のパスワード認証に比べて実装が複雑です。
具体的には、以下のような課題があります。
- チャレンジの生成と管理
- 毎回異なるチャレンジを生成する必要があるため、ランダム性を確保する設計が求められます。
- 予測可能なチャレンジではセキュリティが低下するため、適切なランダム関数を使用する必要があります。
- レスポンスの計算と検証
- クライアントとサーバーが同じ計算ロジックを持つ必要があるため、誤った実装をすると認証が失敗する可能性があります。
- 暗号化技術を用いる場合、適切な鍵管理が必要です。
- セッション管理
- 認証のたびに新しいチャレンジを発行するため、セッションの管理が通常の認証よりも複雑になります。
このような理由から、開発者が十分な知識を持たずに実装すると、セキュリティの穴が生じる可能性があるため、慎重な設計が求められます。
主な利用例
チャレンジレスポンス認証は、そのセキュリティの高さからさまざまな分野で活用されています。
特に、ワンタイムパスワード(OTP)、CHAP(Challenge-Handshake Authentication Protocol)、SSHの公開鍵認証などの技術では、この認証方式が重要な役割を果たしています。
本章では、具体的な利用例を紹介しながら、チャレンジレスポンス認証がどのように機能しているのかを解説します。
4-1. ワンタイムパスワード(OTP)
ワンタイムパスワード(OTP)は、一度しか使えないパスワードを用いた認証方式です。
銀行のオンラインサービスやクラウドシステムの多要素認証(MFA)などで広く利用されています。
4-1-1. OTPとチャレンジレスポンス認証の関係
OTPは、ユーザーごとに異なるパスワードを生成し、一定時間内のみ有効とすることで、セキュリティを強化します。
チャレンジレスポンス認証と組み合わせることで、より安全な認証を実現できます。
例えば、OTP認証でよく使用されるTOTP(Time-based One-Time Password)では、以下のような仕組みが使われます。
- サーバーがチャレンジ(時刻ベースのトークン)を生成
- 例: 「20250315 10:00:00」という時刻情報を元にトークンを作成。
- ユーザーがレスポンス(OTP)を計算
- スマートフォンの認証アプリ(Google Authenticatorなど)が、時刻情報と秘密鍵を使ってOTPを生成。
- ユーザーがOTPを入力し、サーバーが照合
- サーバー側も同じ計算を行い、OTPが一致すれば認証成功。
4-1-2. OTPのメリットと注意点
項目 | 説明 |
---|---|
メリット | 毎回異なるパスワードを使用するため、パスワード漏洩のリスクが低減。 |
デメリット | OTPを生成するデバイスが必要(スマホアプリや専用トークン)。 |
OTPとチャレンジレスポンス認証を組み合わせることで、リプレイ攻撃や盗聴による不正アクセスを防ぐことができます。
4-2. CHAP(Challenge-Handshake Authentication Protocol)
CHAP(Challenge-Handshake Authentication Protocol)は、PPP(Point-to-Point Protocol)で使われる認証プロトコルの一つで、ネットワーク接続時のユーザー認証に用いられます。
主に、VPN接続やインターネットプロバイダの認証で利用されています。
4-2-1. CHAPの認証プロセス
CHAPでは、クライアントとサーバーが以下の手順で認証を行います。
- サーバーがチャレンジを送信
- クライアントが接続を要求すると、サーバーはランダムなチャレンジを送る。
- クライアントがレスポンスを計算
- クライアントは、チャレンジと自身のパスワードを使ってハッシュ値を計算し、レスポンスとして送信。
- サーバーがレスポンスを検証
- サーバーは、事前に知っているユーザーのパスワードを用いて、同じハッシュ値を計算し、一致すれば認証成功。
CHAPでは、定期的に再認証を行うため、初回認証後もセッションの途中で不正アクセスが行われないようにする仕組みが採用されています。
4-2-2. CHAPのメリットとデメリット
項目 | 説明 |
---|---|
メリット | パスワードを直接送信しないため、盗聴のリスクを軽減できる。 |
デメリット | パスワードがハッシュ化されていても、辞書攻撃による解析のリスクがある。 |
そのため、CHAP単体ではなく、VPNなどの暗号化通信と組み合わせることで、より高いセキュリティを確保することが推奨されています。
4-3. SSHの公開鍵認証
SSH(Secure Shell)は、リモートサーバーへの安全なアクセスを提供するプロトコルであり、公開鍵認証を用いることで、強固なセキュリティを実現しています。
4-3-1. SSH公開鍵認証の仕組み
SSHの公開鍵認証では、クライアントとサーバーが非対称鍵暗号(公開鍵暗号)を用いて認証を行います。
- サーバーがチャレンジを送信
- クライアントがSSH接続を要求すると、サーバーはランダムなチャレンジ(データ)を送信。
- クライアントがレスポンスを生成
- クライアントは、自身の秘密鍵を使ってチャレンジにデジタル署名を行い、レスポンスを作成。
- サーバーがレスポンスを検証
- サーバーは、クライアントの公開鍵を用いてレスポンスを検証し、一致すれば認証成功。
この方式では、パスワードを使用しないため、パスワードの漏洩リスクがなく、より強固なセキュリティを確保できます。
4-3-2. SSH公開鍵認証のメリットとデメリット
項目 | 説明 |
---|---|
メリット | パスワードを使わないため、盗聴やブルートフォース攻撃のリスクが低い。 |
デメリット | 公開鍵と秘密鍵の管理が必要。鍵が漏洩すると、なりすましのリスクがある。 |
そのため、SSH公開鍵認証を安全に運用するには、秘密鍵を適切に管理し、アクセス制御を厳格に設定することが重要です。
セキュリティ上の注意点と対策
チャレンジレスポンス認証は、パスワードを直接送信しないため、リプレイ攻撃や盗聴に対して高い耐性を持っています。
しかし、完全に安全な認証方式ではなく、特定の攻撃手法には脆弱性があるため、適切な対策を講じることが重要です。
ここでは、チャレンジレスポンス認証をより安全に運用するために必要な「中間者攻撃(MITM)への対策」と「多要素認証(MFA)との併用」について詳しく解説します。
5-1. 中間者攻撃への対策
5-1-1. 中間者攻撃とは?
中間者攻撃(Man-in-the-Middle Attack, MITM)とは、攻撃者が通信の途中に割り込み、送受信されるデータを盗聴または改ざんする攻撃のことを指します。
チャレンジレスポンス認証自体はパスワードを直接送信しないため、リプレイ攻撃には強いですが、中間者攻撃に対しては脆弱な場合があります。
特に、攻撃者が通信を傍受し、チャレンジを自分で生成して偽のレスポンスを送り込むことで、なりすましが発生する可能性があります。
5-1-2. 中間者攻撃への具体的な対策
対策方法 | 説明 |
---|---|
SSL/TLSによる通信の暗号化 | HTTPSやVPNを使用し、通信経路を暗号化することで、攻撃者によるデータの盗聴を防ぐ。 |
公開鍵認証の導入 | SSHやSSL証明書を活用し、通信相手の真正性を検証する。 |
チャレンジの一意性を確保 | 過去のチャレンジを使い回さないようにし、攻撃者がレスポンスを偽造できないようにする。 |
電子署名の活用 | レスポンスにデジタル署名を施すことで、改ざんやなりすましを防ぐ。 |
したがって、チャレンジレスポンス認証を導入する際には、通信経路の暗号化やデジタル署名の活用など、多重のセキュリティ対策を施すことが不可欠です。
5-2. 多要素認証との併用
5-2-1. 多要素認証(MFA)とは?
多要素認証(Multi-Factor Authentication, MFA)は、複数の異なる認証要素を組み合わせることで、セキュリティを強化する認証方式です。
通常、認証要素は以下の3つのカテゴリーに分類されます。
- 知識情報(Something You Know)
- 例:パスワード、PINコード、秘密の質問
- 所持情報(Something You Have)
- 例:スマートフォン、セキュリティトークン、ICカード
- 生体情報(Something You Are)
- 例:指紋認証、顔認証、虹彩認証
チャレンジレスポンス認証は、主に「知識情報」に依存する方式のため、それ単体では不十分な場合があります。
したがって、多要素認証と組み合わせることで、なりすましや不正アクセスのリスクを大幅に軽減できます。
5-2-2. チャレンジレスポンス認証とMFAの組み合わせ
以下のような方法で、多要素認証をチャレンジレスポンス認証と組み合わせることが可能です。
MFA方式 | チャレンジレスポンス認証との組み合わせ方 |
---|---|
ワンタイムパスワード(OTP) | チャレンジレスポンス認証を通過後、追加でOTPを要求する。 |
FIDO2/WebAuthn(生体認証) | チャレンジレスポンス認証後、指紋や顔認証で本人確認を強化。 |
スマートカード/USBトークン | ユーザーが所有する物理デバイスを使い、レスポンスの生成に利用する。 |
5-2-3. MFAのメリットと注意点
項目 | 説明 |
---|---|
メリット | なりすましやパスワード漏洩による不正アクセスを防げる。 |
デメリット | 追加のデバイスや認証手順が必要になり、利便性がやや低下する。 |
そのため、システムのセキュリティレベルやユーザーの利便性を考慮しながら、適切なMFAの導入を検討することが重要です。
実装時のポイント
チャレンジレスポンス認証を安全に実装するためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
特に、「チャレンジの一意性の確保」と「ハッシュ関数の選択」は、システムの安全性に大きく関わる要素です。
これらを適切に設計しないと、リプレイ攻撃やハッシュ衝突のリスクが生じ、認証の安全性が低下する可能性があります。
本章では、チャレンジレスポンス認証の実装時に考慮すべきポイントについて詳しく解説します。
6-1. チャレンジの一意性の確保
6-1-1. なぜチャレンジの一意性が重要なのか?
チャレンジレスポンス認証において、「チャレンジ」は認証のたびに生成されるランダムな値です。
このチャレンジが毎回異なるものでなければ、過去のレスポンスを再利用したリプレイ攻撃が可能になってしまいます。
例えば、以下のようなケースでは、チャレンジの一意性が確保されていないため、セキュリティ上の問題が発生します。
- 同じチャレンジを毎回使用する場合
- 過去のレスポンスがそのまま使えるため、攻撃者がリプレイ攻撃を実行可能。
- ランダム性が不足している場合
- 予測可能なパターンでチャレンジを生成すると、攻撃者が事前にレスポンスを計算し、不正アクセスを試みる可能性がある。
したがって、チャレンジの一意性を確保することは、チャレンジレスポンス認証のセキュリティを維持する上で不可欠な要素となります。
6-1-2. 安全なチャレンジを生成する方法
安全なチャレンジを生成するためには、以下の方法を取り入れることが推奨されます。
方法 | 説明 |
---|---|
暗号学的に安全なランダム関数を使用 | openssl rand や SecureRandom など、安全な乱数生成器を使用する。 |
チャレンジの長さを十分に確保 | 一般的に128ビット以上のチャレンジを使用すると、推測が困難になる。 |
タイムスタンプやセッションIDと組み合わせる | ユーザーごとに異なる情報を組み合わせてチャレンジを生成し、一意性を向上させる。 |
例えば、Pythonで安全なチャレンジを生成する場合、以下のようなコードが考えられます。
import os
import base64
def generate_challenge():
return base64.b64encode(os.urandom(16)).decode('utf-8')
print(generate_challenge()) # 毎回異なるチャレンジを生成
このように、十分な長さのランダムなチャレンジを生成することで、リプレイ攻撃のリスクを低減できます。
6-2. ハッシュ関数の選択
6-2-1. なぜハッシュ関数の選択が重要なのか?
チャレンジレスポンス認証では、クライアントが受け取ったチャレンジと秘密情報(パスワードや秘密鍵)を組み合わせてハッシュ値を計算し、その値をレスポンスとして送信します。
この際、脆弱なハッシュ関数を使用すると、攻撃者がハッシュ値を解析し、パスワードを推測する危険性があります。
特に、MD5やSHA-1のような古いハッシュ関数は、総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)や辞書攻撃によって容易に解読される可能性があるため、使用すべきではありません。
6-2-2. 推奨されるハッシュ関数
現在、チャレンジレスポンス認証において推奨されるハッシュ関数は以下の通りです。
ハッシュ関数 | 特徴 |
---|---|
SHA-256 | 一般的に使用される安全なハッシュ関数。強度が高く、多くのシステムでサポートされている。 |
SHA-3 | SHA-256よりも新しいアルゴリズムで、さらに安全性が向上している。 |
HMAC-SHA256 | ハッシュと秘密鍵を組み合わせることで、改ざん防止機能を備えた認証方式に最適。 |
6-2-3. 安全なレスポンスの計算方法
安全なレスポンスを生成するためには、パスワードを直接ハッシュ化するのではなく、HMAC(ハッシュメッセージ認証コード)を使用するのが理想的です。
例えば、PythonでHMAC-SHA256を用いてレスポンスを生成する場合、以下のようなコードが考えられます。
import hmac
import hashlib
def generate_response(challenge, secret_key):
return hmac.new(secret_key.encode(), challenge.encode(), hashlib.sha256).hexdigest()
challenge = "random_challenge_value"
secret_key = "user_secret_key"
response = generate_response(challenge, secret_key)
print(response) # ハッシュ化されたレスポンスを出力
この方法を採用することで、仮にレスポンスが盗聴されたとしても、秘密情報(パスワードや秘密鍵)が直接漏洩することはありません。