スイッチの冗長化をしたのに、ネットワークが急に重くなったり、リンクが片方だけブロックされて不安になったりしていませんか。
原因はスパニングツリーの設計や理解不足にあることが少なくありません。
本記事では、スパニングツリーの仕組みからルートブリッジ、BPDU、ポート役割、STP・RSTP・MSTPの違い、トラブル時の確認手順まで、初心者にも分かる言葉で整理して解説します。
この記事は以下のような人におすすめ!
- スパニングツリーとは何か知りたい人
- スパニングツリーの仕組みを理解したい人
- STP・RSTP・MSTPの違いが知りたい人
目次
スパニングツリーとは何か
スイッチを複数台つないだネットワークでは、障害に備えてケーブルを二重化する「冗長構成」をよく作ります。
しかし、L2(データリンク層)の世界では、冗長リンクがそのまま「ループ」になりやすく、放置するとネットワーク全体が不安定になります。
そこで登場するのがスパニングツリーです。スパニングツリーは、冗長リンクを活かしつつも、ループを起こさないように経路を整理して、ネットワークを安定させるための仕組みです。
1-1. スパニングツリーの基本的な定義と役割
スパニングツリー(Spanning Tree)は、複数のスイッチが接続されたネットワークで、ループが発生しないように論理的に経路を一本化する制御を行います。ポイントは「ケーブルを物理的に抜く」のではなく、使わない経路を一時的に止める(ブロックする)ことです。
つまり、冗長リンクがあっても、同時に全部を通さないようにして「木構造(ツリー)」の形を作ります。したがって、普段はループが起きず、もしメイン経路が切れたら、止めていた経路を自動的に使うように切り替えられます。
1-1-1. スパニングツリーが解決する「L2ループ」という根本問題
L3(ルータ)ならTTLのような仕組みで無限ループが抑制されることがありますが、L2のフレームは基本的にその救済がありません。だから、いったんループができると深刻です。
その結果、通信遅延やパケットロスだけでなく、ネットワーク全体がダウンに近い状態になることもあります。
1-1-2. スパニングツリーの役割をひとことで言うと
- ループを防ぐ
- 冗長性(バックアップ経路)を確保する
- ネットワークを安定運用しやすくする
1-2. スパニングツリーが必要な理由(冗長構成とループ問題)
冗長構成は「止まらないネットワーク」を作るために重要です。なぜなら、スイッチやケーブルはいつか故障するからです。
しかし、冗長のつもりでリンクを二重化しただけで、L2ループが完成してしまうケースがよくあります。そこでスパニングツリーが必要になります。
1-2-1. 冗長リンクがループを引き起こす仕組み(初心者向けイメージ)
スイッチA・B・Cを三角形につないだ状態を想像してください。どこか1台がフレームを転送すると、別方向にも転送され、さらに戻ってきてまた転送され……という循環が起きます。
つまり、「道が複数あること」自体が問題ではなく、**L2では“同じフレームが戻ってきても止められない”**ことが問題なのです。
1-2-2. スパニングツリーがやっていること(ざっくり理解)
スパニングツリーはネットワーク全体で話し合い、次のような役割分担を決めます。
| 目的 | スパニングツリーの動き | 得られる効果 |
|---|---|---|
| ループ防止 | どこかの経路をブロックして一本化 | 無限循環を防ぐ |
| 冗長性維持 | 予備経路は残す(止めるだけ) | 障害時に切替可能 |
| 安定運用 | ルールに沿って経路を整理 | 予期せぬ挙動を減らす |
だから、冗長構成を「安全に」成立させる土台として、スパニングツリーは定番技術になっています。
1-3. スパニングツリーで防げる代表的なネットワークトラブル
スパニングツリーがない、または正しく動いていない状態でL2ループが起きると、典型的に次のトラブルが発生します。ここを理解すると「なぜスパニングツリーが重要か」が一気に腹落ちします。
1-3-1. ブロードキャストストーム
ブロードキャスト(宛先が全員の通信)はスイッチが全ポートに流します。ループがあると、このブロードキャストがネットワーク内を回り続け、増幅していきます。
その結果、帯域とスイッチの処理能力が食い潰され、通常の通信まで巻き込んで遅くなります。
ブロードキャストストームが疑われるサインは次の通りです。
- ネットワーク全体が突然重くなる
- 特定のVLANだけではなく広範囲に影響が出る
- スイッチのCPU使用率が跳ね上がる(機器による)
1-3-2. MACアドレステーブルのフラッピング(MACテーブル問題)
スイッチは「このMACアドレスはこのポートにいる」と学習して表(MACテーブル)を作ります。ところがループがあると、同じMACアドレスが別ポートからも見えるようになります。
つまり、MACアドレスの所在がブレてしまい、学習内容が短時間で入れ替わる現象(フラッピング)が起きます。
その結果どうなるかというと、
- フレームが違うポートに転送される
- 通信が途切れたり不安定になったりする
- 一部の端末だけつながらない、といった“原因不明感”が強くなる
1-3-3. 不要な重複フレーム・遅延・パケットロス
ループにより同じフレームが複数経路から届くと、端末やサーバ側でも負荷が増えます。したがって、アプリケーションがタイムアウトしたり、通話や会議が途切れたりと、体感品質に直結します。
スパニングツリーの仕組み
スパニングツリーを理解するコツは、「ネットワーク全体で“代表者(中心)”を決めて、そこから見て一番わかりやすい木構造になるように道を整理する」と捉えることです。
つまり、物理的にはループ状に配線されていても、論理的にはループしない形に作り替えます。したがって、冗長構成を保ちながらもL2ループを防げるわけです。
2-1. スパニングツリーの構築アルゴリズム概要(木構造に変換する基本原理)
スパニングツリーの構築アルゴリズムは、ざっくり言えば次の3ステップです。
- ネットワークの中心となるスイッチ(ルートブリッジ)を決める
- すべてのスイッチが「ルートブリッジまでの最短経路」を選ぶ
- ループになる余分な経路は、どこかのポートをブロックして切る
その結果、ネットワーク全体が「枝分かれした木(ツリー)」の形になります。
2-1-1. スパニングツリーが“最短”を判断するときの基準
スパニングツリーでは、最短経路を決めるために主に次の情報を使います。
- ルートブリッジとしての優先度(後述)
- ルートまでのコスト(パスコスト)
- 送信元の識別(ブリッジIDなど)
つまり、単純な「ホップ数」ではなく、リンク速度に応じた「コスト」で経路を選ぶのがポイントです。だから、一般的には高速リンク側が優先されやすくなります。
2-1-2. ループを断ち切る“ブロック”は故障ではない
ここが初心者が混乱しやすいところです。スパニングツリーでポートがブロックされるのは、異常ではなく正常動作です。
- 使う経路:転送する(通信が流れる)
- 使わない経路:ブロックする(通信を流さない)
したがって、冗長リンクは「予備」として残り、障害が起きたときにブロック解除されて切り替わります。
2-2. ルートブリッジとは何か(ネットワーク内で中心となるスイッチの選出)
ルートブリッジは、スパニングツリーの“基準点”です。
スパニングツリーは全スイッチが同じルールで計算をしますが、その計算の起点がルートブリッジになります。つまり、ルートブリッジが決まらないと、全員がどこに向かって木構造を作ればいいのか決められません。
2-2-1. ルートブリッジはどうやって決まるのか
基本は「一番小さいブリッジIDを持つスイッチがルートブリッジになる」です。ブリッジIDは多くの環境で次の要素から構成されます。
- ブリッジプライオリティ(優先度)
- スイッチのMACアドレス(識別子)
つまり、優先度が小さいほどルートになりやすく、優先度が同じならMACアドレスが小さい方が選ばれます。
| 判断の順番 | 比較されるもの | どちらが有利か |
|---|---|---|
| 1 | 優先度(プライオリティ) | 小さい方 |
| 2 | MACアドレス | 小さい方 |
2-2-2. ルートブリッジを“狙って決める”のが設計の基本
ルートブリッジは「勝手に決まる」より「意図的に決める」方が安全です。なぜなら、想定外のスイッチがルートになると、経路が不自然になり、ブロックされる場所も変わってしまうからです。
設計の考え方としては次が定番です。
- コア(中心)に置くスイッチをルートブリッジにする
- 予備のコア(冗長側)をセカンダリとしてルート候補にする
- アクセス側(末端)のスイッチがルートにならないようにする
したがって、スパニングツリーの安定運用は「ルートブリッジを誰にするか」で半分決まると言っても過言ではありません。
2-3. BPDUって何?(プロトコルの核となる制御メッセージ)
BPDU(Bridge Protocol Data Unit)は、スパニングツリーが動くためにスイッチ同士でやり取りする制御メッセージです。
つまり、スパニングツリーの“会話”そのものがBPDUだと考えるとわかりやすいです。
2-3-1. BPDUでやり取りしていること
BPDUには、スパニングツリーの判断材料が詰まっています。代表的には次のような情報です。
- 「私はルートブリッジだ」と名乗るための情報
- ルートブリッジまでのコスト(どれくらい近いか)
- 送信元スイッチの識別情報
- タイマー関連の情報(環境による)
だから、スイッチはBPDUを受け取るたびに、「より良い(より小さい)ルート情報が来たか?」を比較し、必要なら自分の判断を更新します。
2-3-2. BPDUが止まると何が困るのか
BPDUが流れない、またはBPDUを想定外に遮断すると、スパニングツリーの判断が崩れます。すると次のようなリスクが出ます。
- ループ防止の合意が取れず、L2ループが起きる可能性が上がる
- 誤ったルートブリッジ選出や経路計算につながる
- 障害時の切り替えが期待通りに動かないことがある
つまり、BPDUはスパニングツリーの“心拍”のような存在で、これが正常に循環していることが前提になります。
スパニングツリーの構成要素
スパニングツリーを「動き」で理解したら、次は「部品」で理解すると一気に整理できます。なぜなら、スパニングツリーはポートごとに役割を割り当て、コストで経路を選び、タイマーで収束のタイミングを制御しているからです。
つまり、ポート・コスト・タイマーの3点が分かれば、トラブル時の切り分けもスムーズになります。
3-1. ポートの状態と役割(ルートポート・指定ポート・ブロックポート)
スパニングツリーでは、各スイッチのポートに役割が与えられます。そして、その役割に応じて「転送するか」「止めるか」が決まります。したがって、ネットワークの見た目(物理構成)よりも、ポート役割(論理構成)を追うことが重要です。
3-1-1. ルートポートとは(Root Port)
ルートポートは、**各スイッチがルートブリッジへ向かうために選ぶ“最優先の上り口”**です。ポイントは次の通りです。
- ルートブリッジ以外のスイッチに必ず1つ選ばれる(原則)
- ルートブリッジまでの合計コストが最小のポートが採用される
- ここが変わると経路全体が変わりやすい
つまり、ルートポートは「自分がどの方向にルートへ行くか」を決める、スパニングツリーの主軸です。
3-1-2. 指定ポートとは(Designated Port)
指定ポートは、**そのリンク(セグメント)において“代表として転送してよいポート”**です。
- 1つのリンクに対して、基本的に指定ポートは1つ
- 指定ポートになった側が、その区間でフレーム転送の権利を持つ
したがって、指定ポートがあることで「この区間はこっちが面倒を見る」と役割分担ができ、ループを避けながら通信を成立させます。
3-1-3. ブロックポートとは(Blocking Port)
ブロックポートは、**ループを断ち切るために“あえて止めているポート”**です。ここが重要で、ブロックは故障ではなく正常動作です。
- 普段は転送しない(ループ防止)
- ただし、回線断などが起きれば切り替え候補になる
- 冗長構成の「保険」を維持する役割
つまり、スパニングツリーは「全部使う」ではなく「安全に使える分だけ使う」設計思想です。
3-1-4. ポート役割がネットワークに与える影響(見え方の変化)
同じ配線でも、ポート役割が変わると通信経路が変わります。そこで、影響をざっくりまとめると次の通りです。
| ポート役割 | 通信の扱い | ネットワークへの影響 |
|---|---|---|
| ルートポート | 通す | ルートへの主経路になる |
| 指定ポート | 通す | セグメントの代表として転送する |
| ブロックポート | 止める | ループを防ぎ、冗長リンクを待機させる |
だから、「つながっているのに通らない」リンクがあっても、スパニングツリーの観点では自然なことが多いです。
3-2. パスコストの概念(最適な経路を判断する基準値)
スパニングツリーが「最短経路」を決めるときに使うのがパスコストです。
つまり、パスコストは“ルートブリッジまでの行きやすさ”を数値化したものです。一般的にはリンク速度が速いほどコストが小さくなり、結果としてその経路が選ばれやすくなります。
3-2-1. パスコストはどのように使われるのか
スイッチは次の考え方で経路を選びます。
- ルートブリッジまでの合計コストが小さい経路を優先
- その結果、ルートポートが決まり、ツリー全体が決まる
したがって、パスコストが変わると「どのリンクが主役で、どのリンクがブロックされるか」まで変化する可能性があります。
3-2-2. パスコストを理解するためのイメージ
パスコストは、道路で言えば「距離」ではなく「移動のしやすさ(所要時間)」に近いです。
だから、少し遠回りでも高速道路(高速リンク)の方が“早い”と判断されれば、そちらが選ばれることがあります。
3-2-3. 実務で効いてくるポイント(設計・トラブル時)
パスコストを意識する場面は、主に次の2つです。
- 設計:意図したリンクを主系にしたい
- 障害対応:想定外のポートがルートポートになっている原因を探したい
その結果、「なぜこのリンクがブロックなのか」が説明できるようになり、スパニングツリーの読み解きが楽になります。
3-3. スパニングツリーのタイマー設定とは(タイミング調整の影響と設定時の注意点)
スパニングツリーは、ネットワークの状態変化(リンク断や機器再起動)に合わせて、ポートの状態を切り替えます。しかし、切り替えを急ぎすぎると誤判定が増え、遅すぎると復旧が遅くなります。
そこで必要なのがタイマー設定です。つまり、タイマーは「安定性」と「復旧速度」のバランスを取るための仕組みです。
3-3-1. タイマーが影響する代表的な場面
タイマーの影響が出やすいのは次のような状況です。
- 冗長リンクの切り替え(障害時の収束)
- スイッチ追加や配線変更(トポロジ変更)
- ルートブリッジ周りの変化(経路の再計算)
したがって、タイマーが合っていないと「切り替わらない」「切り替わるまで遅い」「不安定」といった体感トラブルにつながります。
3-3-2. タイマー調整の注意点(触る前に知っておくこと)
タイマーは短くすれば速くなるように見えますが、単純ではありません。なぜなら、ネットワーク全体が同じ前提で動いているため、一部だけ極端に変えると整合性が崩れやすいからです。
特に注意したい点は次の通りです。
- タイマー短縮で収束が速くなる一方、誤判定や不安定化のリスクがある
- 機器や構成によって推奨値や前提が異なる
- 設定変更は影響範囲が広く、検証なしで本番適用すると危険
つまり、タイマーは「速さのつまみ」ではなく「ネットワーク全体のリズム」を決める設定だと捉えるのが安全です。
3-3-3. 初心者向けの現実的な運用方針
スパニングツリーのタイマーに悩んだら、まずは次を優先すると整理しやすいです。
- ルートブリッジの設計を正す(これが最優先)
- 意図したパスコストになっているか確認する
- タイマー調整は最後に、必要最小限で行う
その結果、最小の変更で最大の安定性を得やすくなります。
スパニングツリーの種類と発展
スパニングツリーには複数の規格があり、ネットワークの規模や求める安定性によって使い分けます。
つまり、「ループを防ぐ」という目的は同じでも、収束速度(切り替わる速さ)やVLANへの対応力が違います。したがって、現場ではSTPだけでなくRSTPやMSTPが選ばれる場面が増えています。
4-1. 標準版:STP(Spanning Tree Protocol)(IEEE 802.1Dに基づく基本仕様)
STPは、スパニングツリーの原点とも言える標準仕様で、L2ループを防ぐための基本ルールを定めています。
スイッチ同士が情報を交換してルートブリッジを決め、余分なリンクをブロックすることで、ネットワークを木構造に整理します。
4-1-1. STPの特徴(良い点と弱点)
STPは仕組みがシンプルで、基本を学ぶのに向いています。一方で、弱点としてよく挙げられるのが「収束が遅いこと」です。つまり、障害でリンクが切れたときに、予備経路へ切り替わるまで時間がかかりがちです。
- 良い点:基本が分かりやすい、広く普及している
- 注意点:切り替え(収束)に時間がかかるケースがある
4-1-2. STPが向いている場面
STPは、次のように「速度より安定と互換性」を優先したい場面で理解が進みます。
- 小規模構成で、切り替え速度が厳しく問われない
- まずスパニングツリーの考え方を学習したい
- 古い機器を含み、互換性が気になる
つまり、STPはスパニングツリーの基礎として押さえておくべき存在です。
4-2. 高速版:RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol)(収束速度が早い進化版の解説)
RSTPは、STPの考え方を引き継ぎつつ、障害時の切り替えを速くするために改良されたスパニングツリーです。
したがって、音声や会議システムなど、瞬断に弱い通信がある環境で価値が出やすいです。
4-2-1. RSTPが速い理由(イメージで理解)
STPでは、ポートの状態遷移に「待ち時間」が入りやすく、慎重に切り替える設計でした。
一方でRSTPは、より素早く状態を収束させるための仕組みが整理されています。
つまり、「安全確認の手順を改善して、より早く合意形成できる」イメージです。
4-2-2. RSTPの特徴(運用目線)
RSTPは便利ですが、設計の基本が変わるわけではありません。だから、次の前提は変わらず重要です。
- ルートブリッジを意図して決める
- パスコストや冗長構成を整える
- どのリンクがブロックされるかを把握する
その結果、RSTPの「速さ」がより安定して発揮されます。
4-2-3. STPとRSTPの違いをざっくり比較
読みやすいように、要点だけ表にまとめます。
| 観点 | STP | RSTP |
|---|---|---|
| 目的 | ループ防止 | ループ防止(より高速) |
| 収束速度 | 遅めになりやすい | 速くなりやすい |
| 使いどころ | 基本・小規模・互換性重視 | 一般的な企業ネットワークで定番 |
つまり、「迷ったらRSTPが現実的」という現場感はありますが、基礎理解としてSTPを知っていることが前提になります。
4-3. 複数ツリー版:MSTP(Multiple Spanning Tree Protocol)(複数VLANに対応する拡張仕様)
MSTPは、VLANが多い環境でスパニングツリーを運用しやすくするための拡張です。
なぜなら、VLANごとにスパニングツリーを個別に動かす設計だと、管理が複雑になり、機器負荷も増えやすいからです。
4-3-1. MSTPの考え方(VLANをグルーピングする)
MSTPの肝は、VLANをいくつかのグループにまとめ、そのグループ単位でツリーを作れることです。
つまり、「VLANが100個あるからツリーも100個」ではなく、「VLANを数グループに分けてツリーを運用」できる発想です。
- VLANをグループ化して運用を整理しやすい
- ツリーの数を抑えて機器負荷を減らしやすい
- トラフィックの流れをVLANグループ単位で設計しやすい
4-3-2. MSTPが向いている環境
MSTPは、次のようなケースで検討されやすいです。
- VLAN数が多く、設計・運用の整理が必要
- 部門別や用途別にVLANが細かく分かれている
- スパニングツリーを使いつつ、ある程度トラフィック制御もしたい
したがって、規模が大きいほどMSTPのメリットが効きやすい傾向があります。
4-3-3. MSTP運用の注意点(設計ミスが起きやすいポイント)
MSTPは便利な反面、設計要素が増えます。つまり、考えることが増える分、設定のズレがトラブルに直結しやすいです。代表的な注意点は次の通りです。
- VLANのグルーピング方針が曖昧だと、期待した経路になりにくい
- ネットワーク全体で設計思想を揃えないと運用が破綻しやすい
- 変更作業(VLAN追加など)の影響範囲が広くなりやすい
だから、MSTPは「導入すれば自動で最適化」ではなく、「設計で勝つ」タイプのスパニングツリーだと考えると安全です。
実際のネットワーク設計におけるスパニングツリー活用
スパニングツリーは「仕組みを知っている」だけでは不十分で、設計と運用のクセを押さえると一気に安定します。
なぜなら、スパニングツリーはネットワーク全体で整合性を取りながら動くため、どこか1台の設定や配線ミスが全体に波及しやすいからです。つまり、現場では「ルート設計」「予防策」「切り分け手順」の3点が重要になります。
5-1. スパニングツリー設定時のポイント(初心者向け設定時のチェック項目)
スパニングツリー設定のゴールは、次の2つを両立することです。
- ループを起こさない(安定性)
- 障害時に意図した経路へ切り替わる(冗長性)
したがって、設定は「何となく有効化」ではなく、「どの機器を中心にして、どのリンクを主系にするか」から逆算します。
5-1-1. まず決めるべきはルートブリッジ(設計の軸)
最初にやることは、ルートブリッジを意図して決めることです。
つまり、コア(中心)に置くスイッチをルートにし、冗長側をセカンダリにするのが基本です。
- ルート:コアスイッチ(主系)
- セカンダリ:コアスイッチ(冗長系)
- アクセス側:ルートにならないようにする
その結果、ブロックされる場所や通信経路が読みやすくなり、トラブル時の切り分けも速くなります。
5-1-2. パスコストで「主系リンク」を狙って作る
ルートを決めても、リンクの選ばれ方が想定と違うと意味がありません。そこでパスコストを意識します。
つまり、「どのリンクを通してほしいか」をコストで誘導します。
- 高速リンクを主系にしたいなら、コストが低く見える状態にする
- 予備に回したいリンクは、相対的に不利になるようにする
したがって、冗長リンクが多い構成ほど、パスコスト設計が効いてきます。
5-1-3. エッジ(末端)ポートで事故を起こさないための考え方
初心者がハマりやすいのが、末端の配線変更や誤接続です。なぜなら、PCや小型スイッチの持ち込みで、意図せずループが作られることがあるからです。
そのため、運用設計として次をセットで考えると安全です。
- 端末接続ポートは「端末専用」として扱う
- 末端でスパニングツリーに関する保護機能を検討する
- 勝手につながれやすい場所ほど対策を厚くする
5-1-4. 初心者向けチェックリスト(最低限ここだけ)
最後に、設定前後で確認したい項目をチェックリストにします。
- ルートブリッジは意図した機器になっているか
- セカンダリ(予備ルート)の想定はあるか
- ブロックされるリンクは想定通りか(意図した冗長性になっているか)
- 末端ポートの誤接続対策を考慮したか
- 変更時の影響範囲(どのVLAN・どの区間)が把握できているか
5-2. トラブルシューティングの基本手順(ループ発生時の確認箇所)
スパニングツリーのトラブル対応は、やみくもに触るほど状況が悪化しやすいです。
したがって、順番を固定して「原因を狭める」方が成功率が上がります。特にループ疑いは、最優先で状況把握と影響遮断を行います。
5-2-1. ループが疑わしい典型症状
次の症状が同時に出るなら、スパニングツリー未収束やL2ループを疑います。
- ネットワーク全体が急に重くなる
- 一部ではなく広い範囲で影響が出る
- スイッチが高負荷(CPU高騰、ポートトラフィック異常)
- 通信断と復帰を繰り返す
つまり、「障害点が特定できないのに全体が苦しい」場合は要注意です。
5-2-2. ループ発生時の確認箇所(順番が重要)
現場で使いやすい確認の順序を、手順としてまとめます。
- 影響範囲を確認する(どのフロア・どのVLAN・どの系統か)
- ルートブリッジが想定通りか確認する(意図せぬ選出がないか)
- ブロックポートが存在し、期待通りの場所で止まっているか見る
- 異常にトラフィックが多いポートを特定する(ループの“回り道”になりやすい)
- 直近の変更(配線、増設、機器交換)を洗い出す
- 疑わしい区間を切り離して正常化するか確認する(段階的に)
その結果、闇雲な設定変更よりも、短時間で「怪しい区間」を絞れます。
5-2-3. “切り離し”は悪ではない(早期復旧の現実解)
ループ疑いで全体が止まりかけているなら、まずはサービス復旧が優先です。
つまり、疑わしいリンクや末端の持ち込み機器を一時的に切り離すのは、現場では合理的です。したがって、復旧後にスパニングツリーの状態を整理し、再発防止へつなげます。
5-3. よくある誤解と注意点(よく聞く勘違いとその理由)
スパニングツリーは便利ですが、誤解が原因で事故が起きることもあります。そこで、よくある勘違いを先に潰しておくと、設計の質と運用の安心感が上がります。
5-3-1. 「ブロックポートがある=障害」ではない
これは最も多い誤解です。ブロックポートは、ループを防ぐために“止めているだけ”で正常です。
つまり、冗長リンクがある限り、どこかがブロックされるのは自然です。
5-3-2. 「スパニングツリーがあるからループ対策は完璧」ではない
スパニングツリーは万能ではありません。なぜなら、設定不整合や想定外の機器接続、誤配線によって成立条件が崩れると、ループを防ぎきれない状況もあり得るからです。
したがって、スパニングツリーに加えて、運用ルールと末端対策を組み合わせる発想が重要です。
5-3-3. 「ルートブリッジは自動でいい」だと痛い目を見る
自動選出に任せると、たまたまMACアドレスの小さいアクセススイッチがルートになることがあります。
その結果、経路が不自然になり、ブロック位置も想定とズレて、障害時の切り替えが遅くなったり、予期しない通信断が起きたりします。だから、ルートは設計で決めるのが基本です。
5-3-4. 「タイマーを短くすれば速くて良い」とは限らない
タイマー短縮は魅力的に見えますが、ネットワーク全体の整合性を崩すリスクがあります。
つまり、速さを取りに行って不安定化すると本末転倒です。
したがって、まずはRSTPの活用や設計見直しを優先し、タイマー調整は最後に検討するのが安全です。
スパニングツリー運用で知っておくべき関連技術
ネットワークの冗長化を考えるとき、多くの人が「リンクを2本にすれば安心」と思いがちです。しかしL2の世界では、単純に線を増やすとループの原因になります。
そこで登場するのがスパニングツリーです。
一方で、「2本のリンクを同時に使って帯域も増やしたい」という要求もあります。ここで関係してくるのがリンクアグリゲーションです。
つまり、スパニングツリーとリンクアグリゲーションは、どちらも冗長化に関わりますが、狙いと動きが違います。したがって、違いを理解しておくと設計のミスが減り、トラブル対応も速くなります。
6-1. スパニングツリーとリンクアグリゲーションの違い(冗長性の確保と負荷分散の比較)
結論から言うと、次の違いです。
- スパニングツリー:ループを防ぐために、冗長リンクの一部をブロックして「安全な一本道」を作る
- リンクアグリゲーション:複数リンクを束ねて「1本の太いリンク」として扱い、帯域増加と冗長性を得る
つまり、スパニングツリーは「止めて安全にする」発想で、リンクアグリゲーションは「まとめて同時に使う」発想です。
6-1-1. 目的の違いを一言で整理する
スパニングツリーはループ対策が主目的です。なぜなら、L2ループはネットワーク全体に被害が広がる重大障害につながるからです。
一方、リンクアグリゲーションは帯域確保と可用性を同時に狙います。だから、サーバ接続やスイッチ間の上位回線など、トラフィックが多い場所で使われやすいです。
- スパニングツリー:安定性(ループ防止)重視
- リンクアグリゲーション:帯域と冗長性(負荷分散)重視
6-1-2. 動きの違い(「どのリンクが使われるか」)
ここは実務で効きます。スパニングツリーとリンクアグリゲーションでは、リンクが2本あるときの挙動が真逆に近いからです。
- スパニングツリー:通常時はどちらか片方がブロックされることが多い
- リンクアグリゲーション:通常時から複数リンクを束ねて利用する(通信が分散する)
その結果、同じ「2本のケーブル」でも、スパニングツリー構成だと片方が待機になり、リンクアグリゲーション構成だと両方が働く、という違いが出ます。
6-1-3. 比較表(冗長性と負荷分散の観点)
読者が迷いやすいポイントを、表でまとめます。
| 観点 | スパニングツリー | リンクアグリゲーション |
|---|---|---|
| 主目的 | ループ防止 | 帯域増加+冗長性 |
| 通常時のリンク利用 | 一部リンクがブロックされやすい | 複数リンクを束ねて利用 |
| 冗長性 | 障害時にブロック解除で切替 | 片系断でも束のリンクで継続 |
| 負荷分散 | 基本はしない(経路は一本化) | 分散する(ただし分散単位に癖あり) |
| 設計の落とし穴 | ルート設計ミスで想定外経路 | 対向設定不一致で不安定化 |
つまり、スパニングツリーは「安全第一」で、リンクアグリゲーションは「効率と性能」まで狙う設計です。
6-1-4. よくある勘違い(設計ミスを防ぐ)
初心者が混同しやすいポイントを、先に潰しておきます。
- 「リンクアグリゲーションがあるからスパニングツリーはいらない」
これは半分だけ正解です。束ねたリンク自体は論理的に1本になるため、その区間のループリスクは減ります。しかし、ネットワーク全体で見れば別の場所でループが起きる可能性はあります。つまり、設計全体ではスパニングツリーがまだ必要なケースがあります。 - 「リンクアグリゲーションは必ず均等に2倍速くなる」
実際は、通信の分散単位(フロー単位など)の影響で、1つの大きな通信が常に2本へ割れるとは限りません。したがって、「合計帯域が増える」「複数通信で効いてくる」と捉える方が現実的です。 - 「スパニングツリーは遅いから全部リンクアグリゲーションにしたい」
そもそも束ねられない構成や、設計上束ねるべきでない区間もあります。だから、スパニングツリーとリンクアグリゲーションは対立ではなく、適材適所で併用するのが基本です。
6-1-5. 使い分けの目安(迷ったときの判断軸)
最後に、現場目線の判断軸を箇条書きにします。
- スパニングツリーが向く
- スイッチが複数台でメッシュ気味になり、まずループを確実に防ぎたい
- シンプルに冗長性を確保したい(待機経路で十分)
- 運用変更が多く、事故を防ぐ仕組みを優先したい
- リンクアグリゲーションが向く
- スイッチ間・サーバ接続など、帯域が足りない、または将来不足しそう
- 通常時から複数リンクを活かして性能を上げたい
- 片系断でも性能劣化を最小にしたい
つまり、「ループ対策の基本がスパニングツリー」「性能と効率を伸ばす手段がリンクアグリゲーション」という順で考えると整理しやすいです。

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