セキュリティ対策は企業や組織にとって欠かせない課題です。
ハッカーや不正アクセス者の活動も日々進化しているため、セキュリティリスクを未然に防止するために、ペネトレーションテストが注目を集めています。
本記事では、ペネトレーションテストについて詳しく解説し、実施する際の注意点や価格帯、スキルや資格についても紹介します。
この記事は以下のような人におすすめ!
- ペネトレーションテストとは何か知りたい人
- ペネトレーションテストの価格帯が知りたい人
- ペネトレーションテストの種類や決め方が知りたい人
目次
ペネトレーションテストとは
1-1. ペネトレーションテストの定義と目的
ペネトレーションテストとは、セキュリティの専門家が、攻撃者と同じ手法やツールを使って、あるシステムやネットワークに対して侵入しようとする行為を模擬するテストのことです。
ペネトレーションテストは、システムやネットワークの脆弱性を発見し、それらを修正することで、セキュリティを強化することを目的としています。
1-2. ペネトレーションテストの種類
ペネトレーションテストには、以下のような種類があります。
- ブラックボックステスト:外部からの攻撃者の視点でテストを実施する方法で、システムやネットワークの構成やセキュリティ対策を事前に知らせずに行います。
- ホワイトボックステスト:内部からの攻撃者の視点でテストを実施する方法で、システムやネットワークの構成やセキュリティ対策をあらかじめ知っている状態で行います。
- グレーボックステスト:ブラックボックステストとホワイトボックステストの中間の手法で、一部の情報をあらかじめ開示することで、攻撃者が知ることのできる情報と同じレベルの情報でテストを実施します。
各種類のテストは、それぞれの視点から見える脆弱性が異なるため、組み合わせて実施することでより高いセキュリティ強化が可能となります。
ペネトレーションテストの流れ
2-1. ペネトレーションテストのプロセス
ペネトレーションテストのプロセスには、以下のようなステップがあります。
- 情報収集:ターゲットとなるシステムやネットワークについて情報を収集します。
- 脆弱性スキャン:システムやネットワークに対して脆弱性スキャンを実施し、脆弱性を発見します。
- 脆弱性分析:脆弱性スキャンで発見した脆弱性を分析し、攻撃の手法やリスクを評価します。
- 攻撃実施:発見した脆弱性を利用して攻撃を実施し、システムやネットワークに侵入します。
- 権限昇格:侵入したシステムやネットワーク内で、管理者権限を取得するための攻撃を実施します。
- 情報収集(再度):内部に侵入した後、再度情報収集を実施します。
- 情報の取得・改ざん:目的に応じて、システムから情報を取得するか、情報を改ざんします。
- 痕跡の消去:攻撃の痕跡を消去し、侵入したことがわからないようにします。
- レポート作成:テストの結果をまとめ、報告書を作成します。
2-2. ペネトレーションテストのツール
ペネトレーションテストには、以下のようなツールが使われます。
- スキャンツール:システムやネットワークに対して脆弱性スキャンを行うツールです。
- 攻撃ツール:脆弱性を利用して攻撃を実施するためのツールです。
- クラックツール:パスワードなどの認証情報を解析するためのツールです。
- フォレンジックツール:攻撃の痕跡を調査するためのツールです。
- モニタリングツール:攻撃や不審なアクセスを検知するためのツールです。
これらのツールを組み合わせて、効率的かつ正確なテストを実施することができます。ただし、ツールに頼りすぎず、専門家の知識と経験を活かしたテストが重要です。
ツールだけでは発見できない脆弱性や、攻撃者の手法を考慮したテストを行うためにも、専門家のアドバイスや判断が欠かせません。
また、ペネトレーションテストは終わりのないプロセスであり、テストを実施した後もシステムやネットワークの状況やセキュリティ対策が変化するため、定期的なテストが必要とされています。
ペネトレーションテストのメリットとデメリット
3-1. ペネトレーションテストのメリット
ペネトレーションテストには、以下のようなメリットがあります。
- 脆弱性の発見:ペネトレーションテストによって、システムやネットワークの脆弱性を発見することができます。
- セキュリティの強化:脆弱性を発見した後、修正することでセキュリティを強化することができます。
- リスクの軽減:脆弱性を修正することで、攻撃者によるシステムやネットワークへの侵入を防止し、リスクを軽減することができます。
- 法的要件の遵守:一部の業種では、セキュリティ対策の実施が法的に義務付けられています。ペネトレーションテストによって、適切なセキュリティ対策を実施し、法的要件に遵守することができます。
3-2. ペネトレーションテストのデメリット
ペネトレーションテストには、以下のようなデメリットがあります。
- リスクの発生:ペネトレーションテストを実施することで、攻撃者と同じ手法やツールを使ってシステムやネットワークに侵入することになります。そのため、誤った実施方法や専門家の不手際によって、システムやネットワークにリスクが生じる可能性があります。
- コストの負担:ペネトレーションテストは専門家の知識と技術が必要とされるため、高額な費用が必要となる場合があります。
- 手間の負担:ペネトレーションテストは、複雑で時間がかかる作業であるため、手間がかかる場合があります。
- セキュリティ対策の完全性の不保証:ペネトレーションテストによって発見できる脆弱性には限りがあります。また、実際の攻撃には複数の手法があるため、テストで発見できなかった脆弱性によって攻撃される可能性があります。
ペネトレーションテストの実施方法
4-1. ペネトレーションテストの前提条件
ペネトレーションテストを実施するには、以下のような前提条件が必要です。
- システムやネットワークの所有者の許可:ペネトレーションテストは、許可を得たシステムやネットワークに対してのみ実施することができます。所有者の許可を得ることが重要です。
- スケジュールの確保:ペネトレーションテストは、時間をかけて実施する必要があります。システムやネットワークの稼働時間を考慮した上で、スケジュールを確保する必要があります。
- セキュリティ対策の停止:ペネトレーションテストを実施する前に、一部のセキュリティ対策を停止する必要があります。ただし、停止する対策は適切に選択し、安全性を確保する必要があります。
- バックアップの取得:ペネトレーションテストによって、システムやネットワークに問題が発生する可能性があるため、事前にバックアップを取得することが重要です。
4-2. ペネトレーションテストの実施手順
ペネトレーションテストの実施手順は、以下の通りです。
4-2-1. 準備
ペネトレーションテストを実施する前に、システムやネットワークについての情報を収集します。そして、前提条件を確認し、テストのスケジュールを決定します。ペネトレーションテストを実施する前に、バックアップを取得しておくことも重要です。
4-2-2. スキャン
ペネトレーションテストでは、システムやネットワークに脆弱性がないかどうかを確認するために、脆弱性スキャンツールを使用して、スキャンを実施します。
このスキャンによって、システムやネットワークに存在する脆弱性を特定することができます。
4-2-3. 攻撃
スキャンで発見した脆弱性を利用して、攻撃を実施します。
攻撃によって、システムやネットワークに侵入し、機密情報を取得することができます。
4-2-4. 権限昇格
侵入したシステムやネットワーク内で、管理者権限を取得するための攻撃を実施します。
管理者権限を取得することで、システムやネットワークに対してより高度な攻撃を実施することができます。
4-2-5. 情報収集(再度)
内部に侵入した後、再度情報収集を実施します。
情報収集によって、システムやネットワークに関するさらなる情報を入手することができます。
4-2-6. 情報の取得・改ざん
目的に応じて、システムから情報を取得するか、情報を改ざんします。
情報取得や改ざんは、攻撃者によって行われる攻撃の一つであり、ペネトレーションテストにおいても同様の攻撃が実施されます。
4-2-7. 痕跡の消去
攻撃の痕跡を消去し、侵入したことがわからないようにします。
攻撃の痕跡が残っていると、その後の対策や調査に影響を与える可能性があるため、痕跡を消去することが重要です。
ペネトレーションテストの事例紹介
5-1. ペネトレーションテストの成功事例
ペネトレーションテストは、様々な企業や組織に対して実施されており、成功事例が多数存在します。成功事例の一例を紹介します。
・ソーシャルエンジニアリングの防止
ある企業では、従業員が社外に持ち出したUSBメモリーを使用することによって、ウイルスが侵入するなどのセキュリティ問題が発生していました。ペネトレーションテストの実施により、USBメモリーを使用する前にパスワード認証を要求することで、ソーシャルエンジニアリングによる攻撃を防止することができました。
・脆弱性の特定
ある大学では、学生が利用するWebシステムに脆弱性があることが判明しました。ペネトレーションテストの実施により、脆弱性が特定され、適切な対策が実施されたことで、セキュリティが強化されました。
・社内トレーニングの実施
ある企業では、社員がパスワードを簡単なものに設定していたことが判明しました。ペネトレーションテストの実施により、セキュリティ意識の低さが露呈し、社内トレーニングを実施することで、セキュリティの向上が図られました。
5-2. ペネトレーションテストの失敗事例
ペネトレーションテストに失敗した事例も存在します。失敗事例から学ぶべき点を紹介します。
・許可を得ずに実施した場合
ペネトレーションテストは、許可を得た上で実施することが重要です。ある企業では、許可を得ずにペネトレーションテストを実施した結果、社員の個人情報が漏えいし、企業に対して訴訟が起こされる事態になりました。
・テストの範囲を誤った場合
ある企業では、ペネトレーションテストを実施したが、テストの範囲が狭すぎたため、全ての脆弱性を特定することができなかった。その結果、未発見の脆弱性によって、システムに攻撃が成功し、企業に被害が発生したという失敗事例があります。ペネトレーションテストを実施する前に、テスト範囲を十分に検討することが重要です。
・不十分な報告書
ペネトレーションテストの報告書は、システムやネットワークの所有者や管理者に提供され、改善策の立案や脆弱性の修正に役立つ重要な文書です。しかし、報告書の内容が不十分だった場合、企業がセキュリティ対策を実施できず、再び攻撃を受けるリスクが高まります。ペネトレーションテストの報告書は、テストの実施方法や発見された脆弱性、対策の提案など、具体的かつ明確な情報を提供することが重要です。
ペネトレーションテストを依頼する際の注意点
6-1. ペネトレーションテストを依頼する前に確認すること
ペネトレーションテストを依頼する前には、以下の点を確認することが重要です。
・目的の明確化
ペネトレーションテストを実施する目的を明確化し、必要な範囲や頻度を決定することが重要です。また、ペネトレーションテストの結果をどのように活用するかも検討することが必要です。
・システムの理解
ペネトレーションテストを依頼する前に、システムやネットワークの構成やセキュリティレベル、脆弱性の既知の情報などを把握することが重要です。これにより、ペネトレーションテストの目的を達成するための正確な範囲や方法を検討することができます。
・依頼先の選定
ペネトレーションテストは、高度な技術や知識を持った専門家によって実施されることが望ましいです。依頼先の選定には、実績や技術力、報告書のクオリティなどを検討することが必要です。
6-2. ペネトレーションテストを依頼する際の注意点
ペネトレーションテストを依頼する際には、以下の注意点を確認することが重要です。
・許可の取得
ペネトレーションテストを実施する前に、システムやネットワークの所有者や管理者から許可を取得することが必要です。許可を得ずにペネトレーションテストを実施すると、法的な問題や被害賠償請求などのリスクが発生する可能性があります。
・報告書の内容確認
ペネトレーションテストの報告書は、改善策の立案や脆弱性の修正に役立つ重要な文書です。報告書の内容については、事前に確認し、不明な点があれば、依頼先に問い合わせることが必要です。
・依頼先の選定
依頼先の選定は、依頼するペネトレーションテストの結果に直接関係する重要なポイントです。依頼先の選定には、事前に実績や技術力、報告書のクオリティなどを検討し、十分な情報収集を行うことが重要です。また、複数の依頼先から見積もりを取り、料金やサービス内容を比較することも忘れずに行いましょう。
・納期の確認
ペネトレーションテストの実施期間や報告書の納期については、依頼先と十分に打ち合わせを行い、納期やスケジュールの調整を行うことが重要です。納期が遅延した場合、システムやネットワークに新たな脆弱性が発生する可能性があるため、スケジュール管理には十分注意する必要があります。
・機密保持契約の締結
ペネトレーションテストによって得られる情報は、企業や組織の重要な情報であるため、機密保持契約の締結が必要です。依頼先と機密保持契約を締結することで、セキュリティ上のリスクを回避することができます。
ペネトレーションテストの価格帯
7-1. ペネトレーションテストの価格帯の目安
ペネトレーションテストの価格帯は、依頼先や依頼内容によって大きく異なります。
一般的には、テスト範囲や時間、人数、使用するツールの種類などが価格帯に影響する要素となります。
中小企業向けのペネトレーションテストであれば、30万円程度から実施することができますが、大企業向けのテストや高度な技術を必要とするテストの場合は、数百万円から数千万円程度の費用がかかることもあります。
7-2. ペネトレーションテストの価格帯の決め方
ペネトレーションテストの価格帯は、依頼先が決めることが一般的です。
依頼先は、ペネトレーションテストの対象となるシステムやネットワークの規模や複雑さ、テストの範囲や期間、必要なスキルや人数、使用するツールや技術などを検討した上で、価格帯を提案します。
また、ペネトレーションテストの価格帯は、依頼先によって異なるため、複数の依頼先から見積もりを取り、価格帯を比較することが重要です。
ただし、安価な価格帯で提供されるペネトレーションテストの品質については注意が必要であり、十分な情報収集や検討が必要となります。
ペネトレーションテストの資格とスキル
8-1. ペネトレーションテストの資格
ペネトレーションテストの資格は、一般的には以下のようなものがあります。
8-1-1. CEH(Certified Ethical Hacker)
EC-Councilが認定するセキュリティ技術者向けの資格であり、ペネトレーションテストや脆弱性診断、ハッキングなどの技術に関する知識とスキルが評価されます。
8-1-2. OSCP(Offensive Security Certified Professional)
Offensive Securityが認定するペネトレーションテストに特化した資格であり、実践的なスキルが重視されます。受験者は、実際にラボ環境での攻撃を行い、脆弱性を発見・攻撃し、レポートを作成することが必要です。
8-1-3. GPEN(GIAC Penetration Tester)
SANS Instituteが認定するペネトレーションテストに特化した資格であり、セキュリティテストの実施方法や攻撃者の行動に関する知識が評価されます。
8-2. ペネトレーションテストのスキル
ペネトレーションテストを実施するために必要なスキルには、以下のようなものがあります。
8-2-1. ネットワーク・システムの基礎知識
ペネトレーションテストでは、ネットワークやシステムの動作原理や構成、脆弱性の種類などの知識が必要です。
8-2-2. セキュリティ技術の知識
ペネトレーションテストでは、暗号化技術やセキュリティ対策の知識が必要です。また、攻撃ツールや脆弱性スキャナーの使用方法や脆弱性の検証方法なども重要なスキルです。
8-2-3. コミュニケーション能力
ペネトレーションテストは、複数の人と協力して実施することが多いため、コミュニケーション能力が必要です。
依頼者やチームメンバーとの調整や報告書の作成、改善策の提案などにおいて、明確かつ正確なコミュニケーションが求められます。
8-2-4. エシカルハッキングの精神
ペネトレーションテストでは、エシカルハッキングの精神が求められます。
つまり、法的な規制を遵守し、依頼された範囲内でのテストを行い、得られた情報を機密保持することが求められます。
また、テスト結果を報告書にまとめ、改善策を提案することが必要です。
エシカルハッキングの精神を理解し、それを実践することが、ペネトレーションテストを行う上での重要なスキルの一つです。
ペネトレーションテストにおいては、これらのスキルを身につけ、実践的な経験を積むことが重要です。また、専門の講座やセミナー、書籍などを活用して学ぶことも必要です。
自己啓発に努め、常に最新の情報をキャッチアップし、技術の向上に努めることがペネトレーションテストを行う上での重要なスキルアップのポイントです。