ソフトウェアを安全に配布するために欠かせない「コードサイニング」。
しかし、「そもそも何のために必要?」「証明書の種類や選び方は?」「SmartScreenの警告を回避するには?」と疑問を持つ方も多いでしょう。
実は、適切なコードサイニングを行わないと、ソフトウェアの信頼性が損なわれ、ユーザー離れにつながることも。
本記事では、コードサイニングの基礎から最新のセキュリティ要件、実践的な署名手順までをわかりやすく解説します。
初心者の方はもちろん、企業のIT担当者にも役立つ内容なので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事は以下のような人におすすめ!
- コードサイニングとは何か知りたい人
- なぜコードサイニングが必要なのか知りたい
- 電子署名とコードサイニングはどう違うのかよくわからない
目次
コードサイニングとは
ソフトウェアのセキュリティは、近年ますます重要になっています。
悪意のあるソフトウェアやマルウェアが増加する中、ユーザーはダウンロードするプログラムが本当に信頼できるものかどうかを確認する必要があります。そのために利用されるのが「コードサイニング」です。
コードサイニングは、ソフトウェアの開発者や企業が自分たちのアプリケーションに電子署名を行い、改ざんされていないことを証明する技術です。
コードサイニングによって、以下のようなメリットがあります。
- 信頼性の向上:署名付きのソフトウェアは、安全な開発元から提供されたものであるとユーザーに認識されます。
- 改ざん防止:悪意のある第三者がソフトウェアを書き換えた場合、署名が無効になるため、不正な変更を検知できます。
- 実行時の警告回避:WindowsやmacOSなどのOSでは、署名のないソフトウェアを実行する際に警告が表示されることがありますが、コードサイニングを行うことでこの警告を回避できます。
それでは、具体的にコードサイニングの定義や重要性について詳しく見ていきましょう。
1-1. コードサイニングの定義と重要性
1-1-1. コードサイニングの定義
コードサイニング(Code Signing)とは、ソフトウェアやスクリプトに電子署名を行い、そのプログラムが正規の開発元から提供されたこと、および改ざんされていないことを証明する仕組みです。
コードサイニングの仕組みは、主に以下の3つの要素で成り立っています。
- コードサイニング証明書
- 認証局(CA:Certificate Authority)から発行されるデジタル証明書。ソフトウェア開発者や企業の正当性を保証します。
- 電子署名
- コードサイニング証明書を利用して、ソフトウェアに電子署名を付与。署名後のソフトウェアは「改ざんされていない」ことを証明できます。
- タイムスタンプ
- 署名時点の時刻情報を付加し、証明書の有効期限が切れた後でも署名が有効であることを保証します。
1-1-2. コードサイニングの重要性
コードサイニングは、企業や開発者が信頼されるために不可欠な技術です。特に以下のような点で重要性が高まっています。
① ユーザーの安全確保
コードサイニングがないと、ユーザーはソフトウェアが本当に開発元から提供されたものなのか判断できません。
そのため、悪意のある第三者がソフトウェアを改ざんし、マルウェアを仕込む可能性があります。
コードサイニングによって、このようなリスクを回避できます。
② OSやブラウザのセキュリティポリシー
最近のWindowsやmacOS、さらにはブラウザ(Google ChromeやMicrosoft Edgeなど)は、署名のないソフトウェアに対して厳しい警告を表示します。
これにより、ユーザーが不安を感じ、ダウンロードやインストールを躊躇する可能性があります。
コードサイニングを行うことで、こうした警告を回避し、ユーザー体験を向上させることができます。
③ 企業の信頼性向上
企業が提供するソフトウェアにコードサイニングを施すことで、ブランドの信頼性を高めることができます。
特に商用ソフトウェアの場合、コードサイニングがないとビジネス上の信頼を損なう可能性があります。
④ ソフトウェアの配布と導入の円滑化
ソフトウェアが適切に署名されていると、エンドユーザーやIT管理者は安心してインストールできます。
特に企業内で使用される場合、署名済みのソフトウェアはセキュリティポリシーに適合しやすく、導入がスムーズになります。
このように、コードサイニングは単なる技術的な仕組みではなく、ソフトウェアの安全性と信頼性を確保するための重要な手段なのです。
1-2. 電子署名とコードサイニングの違い
コードサイニングと電子署名はよく混同されることがありますが、目的や適用範囲が異なります。
以下の表でその違いを整理します。
項目 | コードサイニング | 電子署名 |
---|---|---|
目的 | ソフトウェアの信頼性と改ざん防止 | 文書の改ざん防止と本人証明 |
対象 | ソフトウェア、スクリプト、ドライバなど | 契約書、PDF、メールなど |
使用する証明書 | コードサイニング証明書 | 電子署名証明書 |
利用例 | Windowsアプリ、macOSアプリ、ドライバの署名 | 電子契約、電子メールの署名 |
このように、コードサイニングは「ソフトウェアの署名」、電子署名は「文書の署名」に使われるという点が大きな違いです。
1-2-1. コードサイニングと電子署名の共通点
両者には以下の共通点があります。
- 改ざん防止機能:署名後に内容が変更されると、署名が無効になる。
- 証明書の利用:認証局(CA)から発行された証明書を用いる。
- 信頼性の向上:利用者に対して、データが正規のものであることを保証する。
1-2-2. コードサイニングが特に重要なケース
コードサイニングが特に求められるケースとして、以下のような例があります。
- Windowsドライバの署名
- Microsoftの「ドライバ署名ポリシー」により、Windows 10以降ではコードサイニングが必須。
- 企業向けアプリケーションの配布
- 企業ネットワーク内でのセキュリティ対策として、署名付きのアプリケーションが推奨される。
- オンラインソフトウェアの配布
- 署名がないと、ユーザーがインストールをためらう可能性が高い。
このように、コードサイニングはセキュリティと信頼性を確保するための強力な手段であり、電子署名とは異なる役割を持っています。
コードサイニング証明書の種類
コードサイニングを実施するためには、認証局(CA)から発行されるコードサイニング証明書が必要です。
この証明書を利用することで、ソフトウェア開発者や企業は自社のアプリケーションが正規のものであり、改ざんされていないことを証明できます。
コードサイニング証明書には大きく分けて「標準コードサイニング証明書」と「EVコードサイニング証明書」の2種類が存在します。
それぞれの違いを理解し、用途に応じた適切な証明書を選択することが重要です。
ここでは、それぞれの証明書の特徴や違いについて詳しく解説します。
2-1. 標準コードサイニング証明書
2-1-1. 標準コードサイニング証明書とは?
標準コードサイニング証明書(Standard Code Signing Certificate)は、個人開発者や小規模な企業でも取得しやすい基本的な証明書です。
認証局(CA)が発行し、ソフトウェアやスクリプトに電子署名を行うことができます。
この証明書を使用すると、署名されたソフトウェアは以下のようなメリットを得られます。
- ソフトウェアが信頼できる発行元から提供されていることを証明できる
- ユーザーがインストール時に受ける警告を軽減できる
- ソフトウェアの改ざんを防止できる
しかし、標準コードサイニング証明書には、後述するEVコードサイニング証明書と比較していくつかの制限があります。
2-1-2. 標準コードサイニング証明書の特徴
項目 | 標準コードサイニング証明書 |
---|---|
認証レベル | 企業または個人の基本的な認証 |
発行スピード | 比較的速い(数日~1週間) |
SmartScreenフィルター回避 | なし(実績がないと警告が出る可能性あり) |
価格 | EVコードサイニング証明書より安価 |
特に、Windowsの「Microsoft SmartScreenフィルター」では、標準コードサイニング証明書だけでは警告が表示されることがあります。
そのため、企業向けのソフトウェアでは、より高い信頼性を得られるEVコードサイニング証明書の利用が推奨されることがあります。
2-2. EVコードサイニング証明書
2-2-1. EVコードサイニング証明書とは?
EVコードサイニング証明書(Extended Validation Code Signing Certificate)は、標準コードサイニング証明書の上位版であり、より厳格な認証プロセスを経て発行されます。
EVコードサイニング証明書の主な特徴は以下の通りです。
- Microsoft SmartScreenフィルターを即座に回避できる
- 企業の実在確認が厳格に行われるため、より高い信頼性を確保できる
- 証明書の秘密鍵は物理的なUSBトークンに保存され、セキュリティが強化されている
特に、Windows環境ではSmartScreenフィルターの影響が大きいため、企業が提供する商用ソフトウェアにはEVコードサイニング証明書の利用が推奨されています。
2-2-2. EVコードサイニング証明書の特徴
項目 | EVコードサイニング証明書 |
---|---|
認証レベル | 企業の詳細な審査が必要 |
発行スピード | 時間がかかる(1~2週間程度) |
SmartScreenフィルター回避 | あり(即座に回避可能) |
価格 | 標準コードサイニング証明書より高価 |
秘密鍵の管理 | USBトークンでの保管が必須 |
EVコードサイニング証明書を取得するには、企業の実在証明が必要となり、発行までに時間がかかる点がデメリットとなることもあります。
しかし、SmartScreenフィルターを回避できるメリットがあるため、商用ソフトウェアを開発する企業にとっては必須の証明書と言えます。
2-3. 標準コードサイニング証明書とEVコードサイニング証明書の違い
ここまで説明したように、標準コードサイニング証明書とEVコードサイニング証明書には、いくつかの明確な違いがあります。以下の表で比較してみましょう。
項目 | 標準コードサイニング証明書 | EVコードサイニング証明書 |
---|---|---|
認証レベル | 基本的な認証 | 厳格な企業認証 |
発行スピード | 数日~1週間 | 1~2週間 |
SmartScreenフィルター回避 | なし(実績が必要) | あり(即座に回避) |
秘密鍵の保管 | ソフトウェア上 | USBトークン |
価格 | 安価 | 高価 |
このように、個人開発者や小規模な企業であれば標準コードサイニング証明書を、企業向けの商用ソフトウェアを提供する場合はEVコードサイニング証明書を選ぶのが一般的です。
2-4. まとめ
コードサイニング証明書には、「標準コードサイニング証明書」と「EVコードサイニング証明書」の2種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
- 標準コードサイニング証明書は、個人や小規模企業向けで、取得が比較的容易だが、WindowsのSmartScreenフィルター回避には時間がかかる。
- EVコードサイニング証明書は、企業向けの厳格な証明書で、SmartScreenフィルターを即座に回避できるが、取得までの審査が厳しく、価格も高め。
どちらの証明書を選ぶべきかは、使用目的やセキュリティ要件、コストを考慮して判断することが重要です。
コードサイニング証明書の取得方法
コードサイニング証明書を取得するには、認証局(CA)に申請し、審査を受ける必要があります。適切な認証局を選び、必要な書類を準備し、スムーズに審査を通過することが重要です。
本記事では、認証局の選び方、申請手続きと必要書類、審査プロセスと期間について詳しく解説します。
3-1. 認証局(CA)の選び方
3-1-1. 認証局(CA)とは?
認証局(Certificate Authority、CA)は、コードサイニング証明書を発行する信頼できる第三者機関です。
認証局は申請者の身元を確認し、適切な証明書を発行することで、ソフトウェアの安全性と信頼性を保証します。
3-1-2. 認証局の選定基準
コードサイニング証明書を発行する認証局は複数ありますが、選ぶ際に以下のポイントを考慮しましょう。
選定基準 | 説明 |
---|---|
信頼性 | マイクロソフトやAppleなど主要OSベンダーに認められているか |
価格 | 証明書の種類(標準 / EV)ごとのコスト |
サポート体制 | 申請や技術的なサポートの対応レベル |
発行スピード | 取得にかかる時間(特にEV証明書は要注意) |
3-1-3. 主要な認証局(CA)
以下の認証局が、コードサイニング証明書を発行しています。
- DigiCert(ディジサート)
- 世界的に高い信頼性を持ち、発行スピードも比較的速い
- GlobalSign(グローバルサイン)
- 日本語サポートが充実し、国内企業向けにおすすめ
- Sectigo(セクティゴ、旧Comodo)
- 低価格でコストパフォーマンスが高い
- Entrust(エントラスト)
- セキュリティの高さと信頼性に定評がある
3-2. 申請手続きと必要書類
3-2-1. 申請の流れ
コードサイニング証明書の取得は、以下の手順で進めます。
- 認証局を選択し、証明書の種類を決定する
- オンラインで申請手続きを行う
- 必要書類を提出する
- 認証局の審査を受ける
- 証明書を発行し、インストールする
3-2-2. 必要書類
認証局ごとに細かい要件は異なりますが、一般的に必要な書類は以下の通りです。
書類名 | 説明 |
---|---|
法人登記簿謄本(企業のみ) | 会社の存在を証明する公式文書 |
政府発行の身分証明書(個人開発者) | パスポート、運転免許証など |
企業の電話番号証明 | 公共の電話帳や企業データベースで確認可能であること |
CSR(Certificate Signing Request) | 証明書の発行リクエスト(技術的な設定) |
EVコードサイニング証明書を申請する場合、より厳格な審査があるため、追加の企業情報が求められることがあります。
3-3. 審査プロセスと期間
3-3-1. 審査プロセス
認証局は申請者の情報を確認し、証明書を発行する前に審査を行います。
審査の流れは以下の通りです。
- 身元確認
- 提出された書類を元に、企業または個人の身元を確認します。
- 法人の場合は、会社の登記情報が正しいかチェックされます。
- 個人開発者の場合は、公的身分証の確認が行われます。
- 電話確認
- 企業の場合、認証局から代表電話番号へ確認の電話がかかることがあります。
- ここで、担当者が適切に応答することが求められます。
- 技術的な検証
- CSR(証明書署名要求)を適切に生成できているか確認します。
3-3-2. 発行までにかかる期間
コードサイニング証明書の発行期間は、証明書の種類によって異なります。
証明書の種類 | 発行期間 |
---|---|
標準コードサイニング証明書 | 1日〜1週間 |
EVコードサイニング証明書 | 1〜2週間 |
標準証明書は比較的早く発行されますが、EV証明書は企業の実在確認が必要なため、時間がかかることがあります。
3-4. まとめ
コードサイニング証明書を取得するためには、適切な認証局を選び、必要な書類を揃え、審査をスムーズに進めることが重要です。
- 認証局の選び方
- 信頼性、価格、サポート体制、発行スピードを考慮して選ぶ
- 申請手続きと必要書類
- 企業情報や個人情報を正しく提出し、CSRを準備する
- 審査プロセスと期間
- 身元確認や電話確認を経て、標準証明書は1週間以内、EV証明書は最大2週間かかる
コードサイニングの実施方法
コードサイニング証明書を取得したら、次は実際にソフトウェアに電子署名を行うプロセスが必要になります。
コードサイニングを正しく実施することで、ソフトウェアの信頼性を向上させ、ユーザーに安心して利用してもらうことができます。
本記事では、Windows環境でのコードサイニング手順、MacOS環境でのコードサイニング手順、タイムスタンプの重要性と設定方法について詳しく解説します。
4-1. Windows環境でのコードサイニング手順
Windowsでは、Microsoft Authenticodeというコードサイニング技術を使用して、実行ファイル(.exe、.dll)やインストーラー(.msi)に電子署名を行います。
4-1-1. 必要なもの
Windows環境でコードサイニングを行うためには、以下のものが必要です。
必要なもの | 説明 |
---|---|
コードサイニング証明書 | 取得済みの証明書(標準またはEV) |
signtool.exe | Microsoftが提供する署名ツール(Windows SDKに含まれる) |
秘密鍵(USBトークン) | EV証明書の場合、USBトークンに格納される秘密鍵 |
4-1-2. コードサイニングの手順
- Windows SDKのインストール
signtool.exe
はWindows SDKに含まれているため、Windows 10 SDKをインストールします。
- 証明書を確認する
- インストールされている証明書を確認するには、以下のコマンドを実行します。
certutil -store my
- 証明書が正しくインストールされているかを確認しましょう。
- ソフトウェアに署名を行う
signtool.exe
を使って、実行ファイル(例:myapp.exe
)に署名を行います。
signtool sign /tr http://timestamp.digicert.com /td SHA256 /fd SHA256 /a myapp.exe
/tr
はタイムスタンプサーバーのURLを指定し、/fd
でハッシュアルゴリズムをSHA256に指定します。- 署名の確認
- 署名が正しく行われたかを確認するには、以下のコマンドを実行します。
signtool verify /pa /v myapp.exe
- ここでエラーが出る場合は、証明書のインストール状況を確認してください。
4-2. MacOS環境でのコードサイニング手順
MacOSでは、Appleのコードサイニングツール(codesign)を使用して、アプリケーション(.app や .dmg)に電子署名を行います。
4-2-1. 必要なもの
MacOS環境でコードサイニングを行うには、以下が必要です。
必要なもの | 説明 |
---|---|
Apple Developer Programの登録 | Appleのコードサイニング証明書を取得するために必要 |
コードサイニング証明書 | 「Developer ID Application」証明書 |
Xcodeまたはコマンドラインツール | codesign コマンドを使用するために必要 |
4-2-2. コードサイニングの手順
- 証明書のインストールを確認する
- macOSのキーチェーンに証明書がインストールされているか確認する。
security find-identity -v -p codesigning
- 証明書のID(SHA-1ハッシュ)が表示されることを確認。
- アプリに署名を行う
codesign
コマンドを使って、アプリ(例:MyApp.app
)に署名を付与する。
codesign --deep --force --verbose --sign "Developer ID Application: Your Company Name" MyApp.app
--deep
はアプリ内のすべてのバイナリに署名するオプション。- 署名の確認
- 正しく署名されているかを確認する。
codesign --verify --verbose MyApp.app
- notarization(公証)の実施(macOS Catalina以降)
- Appleの公証サービス(Notarization)を実行し、アプリの信頼性を確保する。
xcrun altool --notarize-app -f MyApp.zip --primary-bundle-id "com.example.myapp" -u "yourappleid@example.com" -p "your-app-password"
- Notarizationに成功すると、アプリはMacOS Gatekeeperで正常に動作する。
4-3. タイムスタンプの重要性と設定方法
コードサイニングを行う際には、「タイムスタンプの付与」が重要です。
タイムスタンプを設定することで、証明書の有効期限が切れた後も署名が有効になります。
4-3-1. タイムスタンプの重要性
- 証明書の有効期限後も署名を有効にできる
- 改ざん防止の追加保証として機能する
- OSやセキュリティソフトが適切に検証を行える
タイムスタンプがない場合、証明書の有効期限が切れると署名も無効になる可能性があります。
4-3-2. Windowsでのタイムスタンプの設定
Windows環境では、signtool
コマンドでタイムスタンプを追加できます。
signtool sign /tr http://timestamp.digicert.com /td SHA256 /fd SHA256 /a myapp.exe
/tr
でタイムスタンプサーバーを指定(DigiCertの例)/td SHA256
でタイムスタンプのハッシュアルゴリズムを指定
4-3-3. MacOSでのタイムスタンプの設定
MacOSでは、codesign
コマンドでタイムスタンプを追加します。
codesign --timestamp --deep --force --verbose --sign "Developer ID Application: Your Company Name" MyApp.app
--timestamp
を指定することでAppleのタイムスタンプサーバーが使用される
4-4. まとめ
コードサイニングの実施方法について、WindowsとMacOSでの手順を詳しく解説しました。
- Windowsでは「signtool.exe」 を使用し、正しく署名を行う
- MacOSでは「codesign」 を使い、AppleのNotarization(公証)も必要になる場合がある
- タイムスタンプを設定することで証明書の有効期限後も署名が有効になる
コードサイニングに関するよくある質問
コードサイニングは、ソフトウェアの安全性と信頼性を高める重要な手段ですが、証明書の管理やソフトウェアの配布、OSのセキュリティ機能との関係などについて、多くの疑問が寄せられます。
本記事では、特によくある質問として 「コードサイニング証明書の有効期限と更新方法」「署名済みソフトウェアの配布方法と注意点」「SmartScreenフィルターとコードサイニングの関係」 について詳しく解説します。
5-1. コードサイニング証明書の有効期限と更新方法
5-1-1. コードサイニング証明書の有効期限はどのくらい?
コードサイニング証明書には有効期限があり、通常 1年~3年 で設定されています。
期限が切れると新しい証明書を取得し、再署名する必要があります。
証明書の種類 | 有効期限 |
---|---|
標準コードサイニング証明書 | 1年~3年 |
EVコードサイニング証明書 | 1年~3年 |
ただし、有効期限が切れた証明書で署名されたソフトウェアは「無効」と判定されることがあります。
そのため、必ず「タイムスタンプ」を付与して署名を行うことが推奨されます。
5-1-2. コードサイニング証明書の更新方法
コードサイニング証明書の更新は、次の手順で行います。
- 新しい証明書を取得する
- 既存の認証局(CA)から更新手続きを行う。
- 企業情報や開発者情報の再確認が必要になる場合がある。
- 新しい証明書でソフトウェアを再署名する
- 期限切れの証明書では署名ができないため、新しい証明書で再署名する。
- タイムスタンプを必ず付与する
signtool
やcodesign
コマンドを使用し、タイムスタンプ付きで署名を実行。
5-1-3. 証明書の期限切れを防ぐポイント
- 有効期限が切れる前に更新手続きを行う(30日前推奨)
- 必ずタイムスタンプ付きで署名する
- 有効期限の長い証明書を選ぶ(2~3年)
5-2. 署名済みソフトウェアの配布方法と注意点
5-2-1. 署名済みソフトウェアの主な配布方法
署名済みのソフトウェアは、以下の方法でユーザーに配布されることが一般的です。
配布方法 | 特徴 |
---|---|
自社サイトでのダウンロード | 最も一般的な方法。SSL証明書を利用し、HTTPSで安全に配布する。 |
アプリストアでの配布 | Windows Store、Mac App Storeなどの公式ストアを利用。 |
クラウドストレージ(Google Drive, Dropbox) | 外部クラウドを使用して簡単に配布可能。ただし、信頼性の問題に注意。 |
メールでの送信 | 企業向けソフトウェアなどで使用されるが、スパム扱いされる可能性も。 |
5-2-2. 署名済みソフトウェアを配布する際の注意点
- ダウンロードページはHTTPSを使用する
- ユーザーが安全にソフトウェアをダウンロードできるようにするため、HTTPSで保護されたサイトで配布する。
- ハッシュ値(SHA256など)を公開する
- ソフトウェアの整合性を確認できるように、ハッシュ値を記載する。
- 証明書の有効期限を定期的に確認する
- 有効期限が切れると、新規ユーザーがソフトウェアを実行できなくなる可能性がある。
- Windows SmartScreenに注意する
- 署名直後のソフトウェアはSmartScreenで「不明な発行元」として警告が出ることがある(詳細は次のセクションで解説)。
5-3. SmartScreenフィルターとコードサイニングの関係
5-3-1. Windows SmartScreenとは?
Windows SmartScreen は、Microsoftが提供するセキュリティ機能で、不審なプログラムの実行を防ぐための警告を表示します。
コードサイニングを行っていないソフトウェアや、新しく署名されたソフトウェアは、以下のような警告メッセージが表示されることがあります。
「WindowsによってPCが保護されました」
「このアプリは認識されていないため、実行されるとPCに問題を起こす可能性があります。」
5-3-2. SmartScreen警告を回避する方法
方法 | 説明 |
---|---|
コードサイニング証明書を使用する | 署名なしのソフトウェアは警告が表示されるため、コードサイニングを行うことが必須。 |
EVコードサイニング証明書を使用する | EV証明書を使うと、SmartScreenの警告を即座に回避できる。 |
Microsoftの信頼スコアを高める | 新しい証明書で署名すると最初は警告が出るが、時間が経つと信頼が蓄積されて警告が減る。 |
5-3-3. EVコードサイニング証明書でのSmartScreen回避
EVコードサイニング証明書は、通常のコードサイニング証明書よりも厳格な審査を通過するため、SmartScreenの警告を回避しやすい というメリットがあります。
証明書の種類 | SmartScreenの警告 |
---|---|
標準コードサイニング証明書 | 署名直後は警告が出る可能性あり(時間が経つと信頼が蓄積される) |
EVコードサイニング証明書 | 署名直後からSmartScreenの警告を回避可能 |
したがって、特に企業向けソフトウェアを開発する場合は、EVコードサイニング証明書の使用が推奨されます。
5-4. まとめ
コードサイニングに関するよくある質問について詳しく解説しました。
- コードサイニング証明書の有効期限は1~3年。更新時は新しい証明書で再署名が必要。
- 署名済みソフトウェアの配布は、HTTPSサイトや公式ストアを利用し、安全性を確保することが重要。
- SmartScreenフィルターは、コードサイニング証明書の種類によって警告を回避できる。特にEV証明書は即座にSmartScreenの警告を回避可能。
コードサイニングの最新動向とベストプラクティス
ソフトウェアのセキュリティは、サイバー攻撃の増加に伴い、常に進化しています。
コードサイニングは、ソフトウェアの信頼性と安全性を保証するための重要な技術ですが、その要件や業界標準も変化し続けています。
特に、最近ではマルウェア対策の強化や、ハッシュアルゴリズムの変更、ハードウェアトークンの義務化など、新しいセキュリティ要件が導入されています。
本記事では、最新のコードサイニングのセキュリティ要件と業界標準について詳しく解説します。
6-1. 最新のセキュリティ要件と業界標準
6-1-1. コードサイニングの最新セキュリティ要件
近年、ソフトウェアのセキュリティを強化するために、コードサイニングに関する新しい要件が導入されています。
主なポイントは以下の通りです。
最新要件 | 概要 |
---|---|
EVコードサイニング証明書のハードウェアトークン必須化 | 2023年6月から、EVコードサイニング証明書はUSBトークンやHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)での鍵管理が必須に。 |
SHA-1の廃止 | 旧ハッシュアルゴリズムSHA-1は非推奨。SHA-256への移行が推奨されている。 |
Microsoft SmartScreenの基準変更 | 署名済みのソフトウェアでも、一定のダウンロード数と時間が経過しないと警告が出る可能性あり。 |
AppleのNotarization要件の厳格化 | macOSでは、未公証のアプリはデフォルトで実行不可。 |
これらの変更は、ソフトウェアの真正性をより厳格に保証するためのものであり、開発者はこれらの要件を遵守する必要があります。
6-1-2. 業界標準のコードサイニングベストプラクティス
コードサイニングを適切に実施するためには、以下のベストプラクティスを理解し、実践することが重要です。
① 秘密鍵の適切な管理
- EVコードサイニング証明書は、USBトークンまたはHSMを使用(ファイル形式の証明書は非推奨)
- 秘密鍵をクラウドストレージや共有フォルダに保存しない
- 複数の開発者がアクセスできる環境では、アクセス制御を強化
② 最新の暗号技術を使用
- SHA-256で署名(SHA-1はセキュリティ上のリスクが高いため非推奨)
- RSA 3072bit以上の鍵長を使用(一部の認証局では2048bitを最低要件とする場合も)
③ タイムスタンプを必ず付与
- タイムスタンプがないと、証明書の有効期限切れ後にソフトウェアが無効になる可能性がある
- 主要なタイムスタンプサーバー:
- DigiCert:
http://timestamp.digicert.com
- GlobalSign:
http://timestamp.globalsign.com/tsa/r6advanced1
- DigiCert:
④ OSのセキュリティ要件を満たす
- Windowsアプリ: Microsoft SmartScreenの警告を回避するためにEVコードサイニング証明書を使用
- macOSアプリ: AppleのNotarization(公証)を行い、Gatekeeperを回避
- Linuxアプリ: GPG署名を活用し、パッケージの真正性を確保
⑤ コードサイニング証明書の定期的な更新
- 証明書の有効期限が切れる前に更新し、新しい証明書で再署名
- タイムスタンプ付き署名を行うことで、有効期限が切れた後も署名を保持
6-1-3. コードサイニングの未来動向
コードサイニング技術は、サイバー攻撃の増加に伴い、さらなる進化を遂げています。今後の主なトレンドとして、以下の点が挙げられます。
① クラウドベースのコードサイニングの普及
- HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)を活用したクラウド署名
- 開発環境と連携した自動化署名(CI/CDパイプラインの統合)
② より強固な認証プロセス
- FIDO2やパスキーを活用した開発者認証
- 多要素認証(MFA)を導入した証明書管理
③ ソフトウェアサプライチェーンのセキュリティ強化
- SBOM(Software Bill of Materials)の導入が進む
- ゼロトラストセキュリティモデルへの適応
これらの技術革新により、コードサイニングは単なる電子署名の枠を超え、ソフトウェアサプライチェーン全体のセキュリティを確保するための重要な要素へと発展しています。
6-2. まとめ
コードサイニングの最新動向とベストプラクティスについて解説しました。
- 最新のセキュリティ要件
- EV証明書のハードウェアトークン必須化
- SHA-1の廃止とSHA-256への移行
- AppleのNotarization要件の厳格化
- 業界標準のベストプラクティス
- 秘密鍵の厳格な管理
- 最新の暗号技術(SHA-256、RSA 3072bit以上)を使用
- タイムスタンプを必ず付与
- OSのセキュリティ要件を満たす
- 証明書の有効期限を管理し、適切に更新
- 今後のコードサイニングの動向
- クラウドベースの署名技術の普及
- より強固な認証プロセスの導入
- ソフトウェアサプライチェーンのセキュリティ強化
コードサイニングの適切な運用は、ソフトウェアの信頼性を確保し、サイバー攻撃からユーザーを守るために不可欠です。